消費税増税の実施を支持する (総合編)
2014年4月から消費税の8%への増税実施を控え(翌15年10月より10%)、その条件となっている経済状況の好転について判断が迫られており、政府は8月下旬には各界から60人の識者から意見を聴取した。意見は賛成論が多かったようであるが、賛否両論と言ったところであり、濃淡はあるが、次の2つの意見に分かれている。
(1) 年金、医療、介護保険といった社会福祉関係費が増加し、歳入不足は解消しないので消費増税は必要。
(2) 経済は好転していると言われているが、家計所得や中小企業の所得が増加するに至っておらず、消費増税が実施されると生活は苦しくなる上、 景気に悪影響。
経済専門家もおおよそ同じような意見であり、どちらに決められても不思議はない。多くの国民は、消費増税を望んではいないが、仕方ないないと思っていると見られる。しかし同時に多くの国民は、家計にしても事業経営にしても収入不足であれば、まず倹約、節約しなければ赤字は解消出来ないことを知っており、国家財政は何故それが出来ないのかという極く自然な疑問を抱いていると見られている。
今後少子高齢化が更に進み、社会福祉関係費が増加する一方、生産人口、従って国民全体の税負担能力が低下することを考慮すると、消費税増税は仕方ないことであり、法律に従って実施することを支持する。他方、内閣や多くの消費増税支持者、そして行政当局自身が歳入不足を認識していながら、歳入増を図るのは良いが、何故行政経費、特に人件費、管理費の節減を実施しないのだろうか。また社会福祉関係費が中・長期的に増え続けるという認識であれば、何故予算配分を変えようとしないのだろうかという疑問も理解出来るところだ。家計はもとより、どの企業でも団体でも収入不足で赤字となれば取り組まねばならないことであろう。
また税収を図る上で経済回復が不可欠であるが、そのためにはまず企業や農業、漁業を含む事業者が、外国人投資家を含め、自発的に新規投資し、或いは起業し易い環境を整えて行くことが重要なのではないだろうか。
1、税収増努力と共に不可欠な行政管理経費の節減と簡素化
今後少子高齢化と人口減、特に就業人口の減少を勘案すると、消費増税等による増収は国民一人当たりの負担を増加させて行くことになるので、少子長寿化、人口減に備えて人件費、管理費を段階的に節減すると共に、政策的経費の新たなニーズ、優先度に沿った組み換えを行うことが望ましい。
行政当局は、社会福祉関係費の漸増による歳入不足を解消するため、消費増税は必要としているが、それは「その他の経費の現状維持」を大前提とした議論である。内閣府は、消費税を予定通り10%まで引き上げても、2020年までの基礎的財政収支の黒字化は困難との試算を明らかにしており、一部には15%への消費増税が示唆されているが、「その他の経費の現状維持」を前提としている。行政当局も、少子長寿化と人口減、特に就業人口の減少と社会福祉関係費の漸増を十分認識しており、その上で更なる消費増税を予想している。社会福祉関係費の漸増を趨勢として認めなくてはならない以上、「その他の経費の現状維持」を行うことは困難なことは行政当局自身も認めていることになる。
消費税1%分の増収は2.5―2.7兆円と言われている。もし行政当局自身が2020年度の基礎的収支達成には更に5%の消費税増税が必要との試算であれば、10%までの消費増税は実施する一方、追加的に必要とされる5%の消費増税による増収分12.5兆円相当分は行政経費の節減で対応することが、少子長寿化、人口減に備えた対応としても望ましいのではないだろうか。行政当局自身による統計と試算に基づくものであるので、理解が得られると思われる。
会計検査院は、6月26日、“官庁や政府出資法人に対して過剰な余剰積立など不適切な会計処理を指摘した結果、2012年9月までの1年間に約1.8兆円の改善効果があった“とする試算を公表している。これは、独立行政法人の過剰な余剰金の積み上げや労働保険、年金などの特別会計への一般会計からの余分な繰入などであり、過大な補助金の返還や不要財産の国庫返納などとして処理され、不適正経費等が節減されることになる。もっとも会計検査院が毎年1.8 兆円の不適切な会計処理を指摘することは困難とも見られるが、2012年にも約1.1 兆円の改善指摘を行っているので、毎年1-2兆円規模の改善指摘を行うことは不可能ではないだろう。しかしそれも「現行の組織・制度の維持」を前提としているので、「現行の組織・制度」について節減の可能性を点検する必要がある。都道府県についても交付金や各種補助金を受けているので、過剰、不適正な会計処理については国が、また市区町村については都道府県が検査し、改善指摘を実施することが望ましい。
追加的に必要とされる消費増税5%分の節減をするとなると、会計検査院による改善指摘1-2兆円規模に加え、「現行の組織・制度」からの節減を毎年10兆円規模で行わなくてはならない計算になるが、今後の経済回復、特に2020年の東京オリンピック開催に向けての経済成長効果による税収増が期待出来るので、必要となる節減は相当程度圧縮されるものと予想されるが、今後の経済成長率にもよるが可なりの理解と努力が求められる。
少子長寿化、人口減は1990年代初頭から行政当局(厚生省)が指摘して来たことであり、現在誰もが現実のものとして認識しているので、それに対応した持続可能な新たな行政モデルを構築することが将来世代のためにも不可欠になっていると言えよう。そのため、独立行政法人、補助金団体、及び特別会計管理を含め人件費、管理費の改善、節減を行って行くことが望まれる。これを行わない限り、今後の税収不足を解消することは困難で、消費税の追加的な引き上げが行われ、「現行の組織・制度」の下で行政各部に吸収されることになろう。
人件費や諸管理費の節減については、行政サービスの低下や公務員への影響を十分考慮するなど、丁寧な対応が望まれる。人件費については、独法、補助金団体など政府関係機関を加え公務員、準公務員の総定員を削減するか、給与水準を下げ、総人件費を削減するかの選択になるが、総人件費を一定比率漸減することとして、定員を削減するか給与水準を下げるかなどの選択は行政当局に委ねて良いであろう。例えば、現役公務員への影響を最小限にするためには、新規採用を漸減する一方、等級制の適用を60歳までとし、その後は職種や職務内容により決める職能制(定年は設けない)の下で再契約するなどである。また地方公共団体や、民間への転職斡旋を条件として自発的な転職を募集することも検討できよう。特に岩手、宮城、福島の東北3県については人材不足が復興を遅らせている面もあるので、復興支援の一環として政府支援によりこれら地域への転職を促進することが望まれる。これら3県は、より安全で活力のある街作りやコミュニテイ、インフラ作りにより、少子長寿化を見据えた日本の将来の地方を代表する地域として発展する可能性を秘めている。しかしそれは資金だけの問題ではなく、それを適正に執行する人材が不可欠なのである。
管理費については、独法などの下部組織を含め、事務所スペースを統廃合し、不要不急の施設や土地、その他国有施設、不動産を民間に供給することであろう。これにより人件費及び管理費が大幅に節減できると共に、売却不動産より不動産市場は活性化し、固定資産税が見込まれることになる。また地方の事務所、施設は原則地方公共団体に移譲するか統廃合することにより、地方での行政サービスは地方への一本化が促進されると共に、重複や無駄が少なくなるものと期待される。
いずれにしても、行政当局自体が2020年度での基礎的財政収支の黒字化の目標を達成するには、10%への消費増税を実施しても達成困難であると見ているようであるので、10%への消費増税を実施する一方、現行の行政組織、予算のあり方を少子長寿化社会において持続可能な新たな行政制度を構築することが望まれる。
2、企業や起業家の活力や地方の活力を引き出す施策が必要
消費需要や民間投資が未だ本格的な回復を示していない中で、景気回復の下支え、或いは呼び水として政府需要、特に公共事業が期待されて来た。伝統的に公共事業による効果は認められるところである。しかし日本の場合、バブル経済の崩壊が進行し始めた1993年から基礎的財政収支は赤字に転じ、景気対策としての公共事業はそれ以降今日まで国債など国の公的債務で手当され始め、景気停滞の中で借金の幅が大きくなって来ている。
1991年以降の財政収支の推移 (単位 兆円)
年代 |
1990 |
1991 |
1992 |
1993 |
1994 |
1995 |
1996 |
1997 |
1998 |
1999 |
収支 |
7.9 |
8.2 |
2.9 |
-12.6 |
-19.3 |
-23.7 |
-28.1 |
-23.1 |
-30.4 |
-39.2 |
年代 |
2000 |
2001 |
2002 |
2003 |
2004 |
2005 |
2006 |
2007 |
2008 |
2009 |
収支 |
-41.0 |
-30.5 |
-38.5 |
-38.8 |
-30.0 |
-24.3 |
-18.5 |
-10.7 |
-20.6 |
-49.0 |
年代 |
2010 |
2011 |
2012 |
2013 |
収支 |
-44.9 |
-46.8 |
-48.2* |
-47.1* |
*は推定 参考:IMF統計
日本の政府総債務残高の推移(中央政府、地方政府、及び社会保障基金の債務合計) (単位 兆円)
年代 |
1990 |
1991 |
1992 |
1993 |
1994 |
1995 |
1996 |
1997 |
1998 |
1999 |
総残高 |
301.3 |
316,.8 |
347.5 |
379.3 |
413.2 |
457.7 |
506.7 |
552.4 |
606.3 |
665.8 |
年代 |
2000 |
2001 |
2002 |
2003 |
2004 |
2005 |
2006 |
2007 |
2008 |
2009 |
総残高 |
714.5 |
776.7 |
818.6 |
845.9 |
910.0 |
939.5 |
942.4 |
938.8 |
961.4 |
990.6 |
年代 |
2010 |
2011 |
2012 |
2013 |
総残高 |
1,041.7 |
1,083.8 |
1,132.2* |
1,178.3* |
*は推定 参考:IMF統計
従って景気刺激のための公共事業は、1990年代中頃からの長期の経済停滞の下支えとして一定の効果があったとしても、景気回復の呼び水としての役割は果たしていないと言えよう。公共事業が景気を刺激するには、前年より大幅に増額しなくては効果がないが、長期に亘って借り入れを前提として公共事業を継続して来ているので、増加したとしても相対的に小幅となり景気への効果は小さい。確かに公共事業は嘗て必要な社会・経済インフラを整備するなど、貢献して来ているが、その一次効果は公共事業関係業界であり、それが長期に継続するとこれら業界は公共事業に依存し、自発的な発展を阻害する一方、景気対策の選択肢を狭め、各種産業の自発的な発展には貢献しない状況ともなる。それは公的債務を重ね、公共事業を長期に継続して来たが、建設業界自体も自発的、自立的な回復、発展の道筋を示せていない上、経済停滞から脱却できなかったことからも明らかであろう。また新規の公共事業はその維持管理のための後年度負担を増加させ続け、地方経済を圧迫することにもなる。もっとも2020年に東京オリンピックの開催が決定したことにより、短期的には効果は限定的となるが、2020年が近くなるにつれて関連産業への効果はひろがるものと期待される。
経済回復を図るには、一定の公共事業やは必要ではあるが、経済全体や地方の自発的回復、発展を引き出す施策に重点を移すことが不可欠と言え、次のような施策が期待される。なお、補助金や助成金も対象を限定して実施する場合一定の効果があるが、経済全体を対象とする補助金等は困難である上、減免税の方が対象が広く、企業、個人の自発的な活力を引き出し易いので、ここでは減免税を中心に例示した。
(1) 法人所得及び事業税の減税
日本の企業関係税は主要各国に比べ割高であり、日本の企業の収益を圧迫し、企業経営のみならず、役員報酬を含め給与引き上げにも抑制要因となっている上、外国投資、特に直接投資の抑制要因になっている。従って法人所得税、及び事業税水準を引き下げると共に、事業税については事業収入の額に従って標準税率を設定し、上下5%については都道府県に委ねることとし、地方の特性を発揮しやすくすることが望ましい。
(2) 新規の起業に際しては、2年間法人所得税の猶予
経済回復のためには、新規の起業を増やすことが必要であるが、新規起業には初期投資(事業所、人件費、仕入れなど)が必要な上、軌道に乗るまでリスクを伴うので、2年間は法人所得税を猶予し、起業し易い環境を整えることが望ましい。
(3) 株式・投信譲渡所得の年間500万円以下の非課税、1500万円以下の減税
1990年代中頃以降のバブル崩壊による資産デフレの状況から脱するためには、適正水準の円安への為替是正を維持、安定化させ、輸出関連産業や観光産業が経済を牽引できるようにし、株価を日経平均1万5千円内外から2万円台で安定化させることが重要であろう。しかし一般投資家、特に小口投資家の証券投資への不信感は根強く、また預金金利が超低水準であり、取引手数料や物価上昇を加味すると実質マイナス金利ともなるので、たんす預金化し、資金が保蔵される傾向が強い。これらの保蔵資金を市場に循環させることが重要であるので、株式・投信譲渡所得の年間500万円以下の非課税、1500万円以下の減税が効果的であろう。この措置は、一見税収減となるように思えるが、そもそも保蔵されている資金を市場に還流させ、投資を促進し、一般投資家の消費等を誘引することになると予想される。
(4)1500cc以下の自動車諸税の減税と車検の5年間への延長など
従来、減税は税収を減少させ、また効果は期待できないとされて来たが、経済の自発的な回復を図る上では、減税や非課税かは起業家や個人投資家の自発的な投資、出費を引き出す上で最も効果的であろう。その上、税収を図る上では経済の活性化、回復を図ることが最も効果的であることは誰しもが認めるところであろう。減税により経済、社会活動を誘導、促進する手法は多くの先進工業諸国でも取られている。(2013.09.10.)
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