内外政策評論 TheOpinion on Global & Domestic Issues

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Policy Essayist

国際オリンピック委(IOC)に望まれる中止の決断

2021-06-07 | Weblog

 国際オリンピック委(IOC)に望まれる中止の決断

 6月1日より6月20日まで、日本においてコロナウイルス拡大防止のため、東京など9道府県に一部対象地域を拡大して緊急事態宣言が延長されることになった。2021年1月より第3波の感染拡大が起こり、社会経済活動の自粛、抑制を要請する緊急事態宣言が実施されたが、顕著な減少はみられず、宣言は短期間解除されたものの、半年に及ぶ緊急事態宣言となる。

 緊急事態宣言が予定通り6月20日で解除されても、東京オリンピック開催まで約1か月しか残されていない。新規感染の顕著な減少が期待される。しかし大型商業施設や映画館、スポーツ施設等については制限が緩和されたこと、及び、イギリス変異種に次いで新たにインド変異種への転換、拡大が見られることを考慮すると、ワクチン接種が進んではいるものの、1日100万回の接種が実現したとしても、8月には新たなピークが来るとの予想もある。

 1、国際オリンピック委員会(IOC)が行える開催中止の決断

 世界に目を転じると、米、英などワクチン接種が進み制限解除の動きが見られるが、世界全体として未だに感染拡大は止まっていない。

 特に3月、4月頃よりインドにおける爆発的な感染拡大によりインド変異種が国外に飛び火し、ネパールやマレイシアなどで感染が拡大し、5月にロックダウンが実施、決定されている。更にベトナムでは、イギリス変異種とインド変異種が結合し、感染力が更に強いウイルスに変異しており、空気感染の恐れもあると伝えられている。

 武漢発の新型コロナウイルスで注意を要するのは、全世界の諸国・地域に感染が拡大することに加え、感染力や重症化率を強めながら次々と変異していることだ。今後、一定地域、諸国で沈静化しても、また世界のどこから新たな変異種が広がるか分からない。グローバリゼーションは、世界の運輸・交通や物流、人流などに大きな恩恵をもたらしたが、新型コロナウイルスというパンデミックの出現により、今後国境を越えた人の往来には特別の注意を要することになった。

 日本だけでなく、世界がこのような状況の時に、世界200か国・地域からオリンピック選手約1.5万人、及び競技関係者、IOC関係者及び報道関係者7万人前後が7月23日の開会式に向けて訪日する。未だ具体的な参加国・地域数、参加者数が公表されておらず、また入国管理措置、国内での行動制限や監視体制などの「安全、安心な開催」に向けての全容は明らかにされていないが、どのような措置をとっても漏れが出る可能性がある。また措置を厳しくすればするほど、参加選手や来日者の不満、批判もつのるだろう。

 このような状態でオリンピックを開催することについては、各国で警鐘が鳴らされ初めている。

 オリンピックの実施や中止についての決定権決はIOCにある。開催都市である東京都も、その下部組織ではあるが政府の影響が大きい組織委員会も全体を支援する政府も、中止を求めれば違約金等の問題があるので言い出しにくい。

 現在日本を含め世界が直面しているのは、世界70億人の健康と命にかかわるパンデミックという例外的な事態である。国際オリンピック委員会(IOC)としても、例外的な対応として、違約金等を求めることなく中止を決定しても良いのではなかろうか。またIOC側も、米国のテレビ局等との関係で違約金や補償金の問題が生ずるだろうが、互に求めないことで調整すべきであろう。

 IOCは、開催国に実施を求める以上、各国の選手、競技関係者だけではなく、開催国日本を含め世界の全ての人々の健康と命を守る義務がある。

 

 2、日本の世論を理解していないのだろうか、IOC

 東京オリンピック7月開催についての世論調査では、2021年1月以来、一貫して70%以上が「中止、又は延期」であり、6月の時点でもその状態に変化はない。3年後にはパリ・オリンピックがあるので、再延期の可能性はないとすると、

70%以上が本年7月の開催に反対していることになる。その背景には、若い世代についても、2020年4月に大学等に進学してもキャンパス生活を送ることも出来ず、アルバイト先もなく、また解雇や雇い止めなども一般化し、学校を卒業しても就職機会は限られており、将来不安や孤独感が募っている状況がある。産業面でも、飲食業から娯楽・イベント、観光などが大打撃を受けており、1日も早い感染収束を願っている。誰しもオリンピック・パラリンピックが開催できれば良いと思っているが、今はそれどころではなく、日常の生活や日常の健康を取り戻したいという意識が反映されていると言えよう。世論の70%以上が1月以来一貫してオリンピック7月開催に不安を抱いている事実を理解して欲しいものだ。

 各国選手の事前合宿を受け入れ予定であった地方自治体も、ワクチン接種促進のための業務に忙殺され、また地元住民の懸念などを配慮して、既に105の自治体が辞退(6月1日現在)している。

 地方自治体が各国選手の事前合宿受け入れを辞退している理由が一つある。それは受け入れても、宿舎と競技場の間以外は行動が制限され、選手にストレスを与えるおそれがある上、地方を見たり食事を楽しんで頂くことも出来ないからだ。受け入れても、地方との交流も「お・も・て・な・し」も出来ない。

 この状況は、オリンピック本番にも当てはまる。海外からの選手他来訪者は、マスコミを含め、原則として宿舎と競技場の間のみに行動制限され、交通手段も専用バス等に限定され、市中には出られない。「お・も・て・な・し」も宿舎内だけに限定される。オリンピック参加者と開催国との交流がなくなれば、それだけオリンピックの意義は薄れてしまう。

 その上心配は尽きない。来日する選手、競技関係者はワクチンを受けてくるとしているが、マスコミ関係者を含め、一部は受けていないであろう。入国に際し厳格な検査を受け、またその後も頻繁に検査を受けることになろうが、検査が最大のおもてなしになってしまいそうだ。

 その上、行動制限を完全に実施することは難しい。世界の200近い国や地域から7万~8万人内外の来訪者があるので、言葉や慣習、価値観等の差もあり、ルールブックに従って行動制限することは難しいのではないか。そうなると相互に感染が発生し、コロナウイルス・パンデミックの大実験場となる恐れがある。それが杞憂に終われば良いが、そうなった場合に誰が責任を取るのだろうか。(2012.6.2.)


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