内外政策評論 TheOpinion on Global & Domestic Issues

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Policy Essayist

米国、北朝鮮両国が事実上国家承認! (その1)

2018-06-11 | Weblog
米国、北朝鮮両国が事実上国家承認! (その1)
 トランプ米国大統領は、5月24日付にて金正恩北朝鮮国務委員長宛に予定されている首脳会談を中止する旨の書簡を発出したのに対し、6月1日、ポンペオ米国務長官との協議のため訪米した金英哲(キム・ヨンチョル)北朝鮮労働党副委員長より、ホワイトハウスにおいて金正恩委員長の返書をトランプ大統領に手渡し、トランプ大統領はこれを受けとった。
 これは米国と北朝鮮の首脳(国家元首)が書簡を交換したということであり、事実上の国家承認に当たる。相互に国家として承認するとは明示はしていないが、国家元首同士の書簡の交換で、相互に米国合衆国、朝鮮民主人民共和国の国家元首として認め合うということであり、外交上、国家としての‘黙示の承認’とされるものである。事実5月24日付のトランプ大統領の書簡は、‘朝鮮民主人民共和国国務委員会金正恩委員長’に宛てられ、米国合衆国ドナルド・J・トランプ大統領として正式名称で署名しており、また今回の金正恩委員長よりの返書も同様の正式名称で発出されていると見られる。

 朝鮮戦争が休戦となった1953年から65年を経て、未だ敵対関係にある米国と北朝鮮が事実上国家承認を行った歴史的な瞬間であり、トランプ大統領自身が金英哲朝鮮労働党副委員長(国務委員)を見送った後に記者団に述べているように、今後紆余曲折があろうが、1回だけの首脳会談で‘朝鮮半島の非核化’やミサイル開発などの問題が決着するもではなく、両国首脳間、当局間の交渉、協議が重ねられることを示唆している。
 1、開かれた米、韓、北朝鮮3か国の戦争終結へ向けての交渉
 トランプ大統領は、5月24日付の金正恩国務院委員長宛の書簡において、北側に激怒と敵意に満ちた発言があったとして、6月12日に予定されている首脳会談は不適当として中止の意向を伝えると共に、電話又は書簡での接触を受ける意向を伝えていた。これに対し、北朝鮮の金英哲副委員長がポンペオ米国務長官との協議等のため訪米した際ワシントンに赴き、金正恩委員長の返書をトランプ大統領に手渡し、1時間以上に亘り協議した。
トランプ大統領は、金英哲副委員長を車まで見送るなど丁重な待遇を行ったが、その後の記者との質疑応答で、6月12日の首脳会談を行うことを述べつつ、‘長期の敵対関係が続いたこともあり、1回の首脳会談では解決しないかも知れず、数回に亘るかもしれない、これは一つのプロセスである’、‘今後は最大限の圧力を掛けるとは言いたくない’、‘(現行の)制裁は継続するが、制裁が解除されることを期待する’との趣旨を述べており、更に‘戦争終結の可能性’にも言及している。これは国家関係を前提として首脳間、関係当局間の協議、交渉の意思、プロセスの開始を示したものと見て良いであろう。
金正恩委員長は、4月27日の南北首脳会談の後、トランプ大統領のとの首脳会談の用意を明らかにしたが、その際‘北朝鮮の安全と体制の維持が保証されれば、核兵器を保有する必要はない’との趣旨を述べている。これは‘北朝鮮の非核化’、特に北朝鮮の非核化という最終目標を達成するためには、軍事、政治両面での包括的な解決が必要であることを意味している。現在南北朝鮮は、‘停戦協定’で軍事衝突こそ避けられているが、北朝鮮と米・韓とは敵対関係にある。双方が敵対関係にある以上、北朝鮮の安全の保証は困難であり、その下で軍事優先の‘先軍政治’をとる金正恩体制の維持を保証することも困難であろう。
今回、両国首相は書簡の交換をもって事実上国家承認を行い、一連の交渉の扉を開いたのである。
2、金正恩委員長は、軍部を含む自国民を裏切るか、国際世論の期待を裏切るか   (その2に掲載)
金正恩委員長は、父である金正日総書記を受け継ぎ、米・韓との敵対関係を梃子として先軍主義を維持し、国民の団結を保って来たところであり、その一環として核兵器と長距離ミサイルを含むミサイル開発、配備を進めて来た。
このような中で、金正恩政権が大きく舵を切り、核兵器を放棄し、敵対関係にあった米国及び韓国との戦争状態を終結し和平に進めば、軍部や朝鮮労働党内の特権的地位を享受してきた党幹部や守旧派国民層に与えて来た対米強硬派のイメージを裏切ることになるのか。これまでの強権的な先軍主義はジェスチャーに過ぎなかったのだろうか。
金正恩委員長は、軍部や党守旧派を抑え、核放棄、和平に舵を切ることが出来るのか。軍や党守旧派の反対や不信感を抑え、方針を転換するためには、体制保証が不可欠であると共に、国民に対し経済発展や生活の改善をもたらすような補償を得なくてはならない。
明らかになったのは、今回トランプ大統領に返書を託されたのが金英哲労働
党副委員長は、朝鮮人民軍偵察総局長(兼副参謀長)で党中央軍事委員会委員あり、軍人出身であると共に国家国務委員であり、また副大統領にも匹敵する金正恩国務委員長の側近中の側近と言えるので、今回の対米接近については軍部の一定の支持があると言えよう。一部報道では、朝鮮人民軍トップの金正角軍総政治局長が5月に解任され、またNo.2、No.3の李明秀軍総参謀長、朴英植人民武力相も同時に更迭されていたとの報道があり、軍部内での主導権争いがあることが予想される。
他方、北朝鮮が ‘非核化の段階的な実施’を強く主張し、これまでのように各段階で見返りを要求しつつ時間稼ぎをし、核、ミサイル開発能力を実質的に温存し、最終段階で交渉を停止し、国際世論を裏切るというシナリオも十分念頭に置く必要があろう。
3、キープレーヤーである中国、北朝鮮、米国各首脳の姿勢の変化と韓国の仲介的役割 (その3に掲載)
 今回の場合、南北朝鮮の停戦状態から戦争終結、和平を巡るキープレーヤーである中国、北朝鮮、米国首脳の姿勢が従来の首脳と明らかに異なる。
(1)習近平主席の下での中国の対北朝鮮圧力
 (2)米国トランプ大統領の不可測性
 (3)金正恩委員長のリアルな懸念
 (4)韓国文在寅大統領の対北融和政策と仲介
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2018年6月2日
                   グローバル・ポリシー・グル-プ
                   元駐ルクセンブルク大使
                   小嶋 光昭

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