青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。日々の情景の中を走る地方私鉄を追い掛けています。

駅前10秒、500円の味。

2024年09月29日 14時00分00秒 | 西日本鉄道

(戦前建築の風格@甘木鉄道甘木駅)

真ん中に塔屋を持ち、横に広がりのある甘木鉄道の甘木駅。元国鉄甘木線の終着駅で、現在も甘木鉄道の本社機能と車庫が置かれています。この甘木の街には、二日市から伸びる朝倉軌道と、田主丸から甘木を通り秋月へ伸びる両築軌道、そして上田代から太刀洗を通って甘木市街へ伸びる中央軌道という三つの軽便線が大正時代から走っていました。甘木鉄道は、国鉄の基山駅から分かれて甘木に至る鉄道で、従来の中央軌道のルートをほぼ踏襲する形で1939年(昭和14年)に開業していますが、これは「軽便規格の中央軌道では輸送能力と経営基盤が脆弱」ということで、鉄道省が輸送力強化のために甘木線の建設を決定したことによります。それだけ太刀洗飛行場の軍需関連の輸送ってのは国策的に大事だったということでしょうか。ちなみに、甘木線の建設計画に勝ち目を失い目下の経営を投げ出した中央軌道は、「あの有名な」朝倉軌道に買収され、あろうことか営業補償の口実に使われたりするなど数奇な運命を辿ることになりますが・・・まあ朝倉軌道の話はしているとキリがないので、興味のある方は手前様でお調べいただきたく。

駅前広場を出て路地を曲がり、再び西鉄電車の駅へ。西鉄甘木線の甘木駅。こちらも年季の入った木造駅舎である。甘木鉄道の甘木駅が、軍需路線らしく兵舎を思わせるパリッとした佇まいなのに対し、こちらは庶民的ないかにも地方私鉄の小駅と言った感じ。こちらは福岡県の旧三井郡(現久留米市)の有力者たちが設立した三井電気軌道を源流に持つ路線なのだが、現在の甘木市街には朝倉軌道・両築軌道・省線の甘木線・そして三井電気軌道と4本の鉄軌道路線が通っていたことになる。ってか甘木市っていまは合併して朝倉市になってるんですけどね・・・何となくイメージ湧かんな。朝倉って言うと、もっと奥の杷木とか原鶴の方のイメージがあるので。

西鉄の甘木駅は、頭端型の1面2線のシンプルなスタイル。大牟田行きのワンマン列車が折り返し待ちをしております。西鉄の運行形態はちょっと変わっていて、本線格である天神大牟田線の南部(久留米以南)の各駅停車は甘木線と一体の運用になっていて、分岐駅である宮の陣からそのまま大牟田まで一気通貫で通してしまう。使われるのはワンマン対応の7050系。甘木線の運行間隔と久留米市域(大善寺)以南の各駅停車を30分ヘッドに揃えることでワンマン化を実現した、ということなのでしょう。主要駅(花畑・大善寺・柳川など)は急行・特急がカバーするので、特に問題はないんでしょうね。

甘木駅を出ると、一瞬甘木鉄道と並んで小石原川を渡った後、車窓は二手に分かれて行く。途中駅の北野までは、青々とした穀倉地帯と農村集落が混在した筑後平野らしい風景が続く。北野駅で上下線の電車が交換し、久留米に向かって進路を西に変える。久留米へ出かける夏休みの高校生たちのおしゃべりに耳を傾けていても良かったのだが、とりあえずどこかで途中下車をしようかなと思い立ち、学校前駅で下車してみる。「学校前」というシンプル過ぎる駅名がそそられてしまったからなのだが、名前通りにめっちゃ学校の前にあって思わず笑ってしまった。学校前駅の前にあるのは、久留米市立宮の陣小学校。生徒が出入りする校門は一つ先の踏切から入るようで、駅に隣接するのは先生や職員の通用門のようだ。古い木造の駅舎は、駅正面に菱形のファサードを配していて、小ぶりながらも印象深い造形をしている。現在は無人駅とはなっていますが、何年か前までは有人駅で、改札業務も行われていたらしい。踏切の鐘が鳴って、甘木行きの電車がホームに入ってくる。先生は通勤楽でいいだろうねぇ。踏切の音が鳴ってから職員室を出ても、電車に間に合うのだから。

それにしても暑い。スコンと青い筑後の空から差す日差し。駅の上屋に屋根も何もない平均台のようなホームの駅で、次の電車が来るまでの30分間何もすることもないのはしんどく、思わず駅前徒歩10秒の位置にあったラーメン屋に駆け込む。ちょうどお昼時、昨日もラーメンだったんだけど、細麺で茹で時間短め、かつ配膳の早い九州ラーメンだったら、次の電車が来るまでの時間でちゃちゃっと食べてパッと出られるだろうという計算もあった。お店のカウンターに座り、「ラーメンひとつ」と頼めば、寡黙なおじさん店主が真剣な顔で黙々と麵を茹で、奥様らしき方が隣でその作業をじっと見つめているのが印象的。なんか九州ラーメンの店って大勢の店員さんが威勢よくちゃっちゃか働いてるイメージがあったのでねえ。出て来たラーメンは見た目はシンプル、スライスしたゆで卵にペラリとしたチャーシュー、海苔一枚。強いトンコツ風味に濃いめの味付けでしっかりと美味しく、並んで座ってた職方のあんちゃんがみんなご飯と一緒に食べてたんだけど、ああ、そーいう「ラーメンライス」的に食べるのにちょうどよい味付けの濃さということなのかな。んで、メニュー表見たらラーメン一杯500円、ラーメン+めしで600円なんだよね。私は大盛りにしてめしは付けなかったのだけど、商売なのだから、もうちょっと値段取ったら?って思わなくもない。それともラーメン一杯で簡単に千円以上になってしまう東京の物価がおかしいだけなのか。

ちなみに甘木線で降りてみたい駅、学校前の次点が古賀茶屋駅だった。
「こがちゃや」じゃなくて「こがんちゃや」なの、何で?って思うじゃないですか。


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