映画と本の『たんぽぽ館』

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「四度目の氷河期」 荻原浩

2009年10月31日 | 本(その他)
四度目の氷河期 (新潮文庫)
荻原 浩
新潮社

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ワタルには重大な秘密がある。
それは、彼の父親がクロマニヨン人だということ。
ワタルのお母さんは、ロシアで研究をしていたこともあるという遺伝子研究者。
約一万年前の第四氷河期を生きていたクロマニヨン人の遺体。
ワタルはそれが自分の父親だと信じている。

さて、このように書くと、これは医学の最先端のストーリー?
と思ってしまいますが、
いえいえ、これは1人の男の子の、アイデンティティ確立の物語。

前述の確信をしたのは、彼が小学校5年の時。
なぜかといえば、彼はあまりにも周りの子供と違っていたからなのです。
色白で、髪が茶色。顔のホリが深い。
体も大きいし、変なところに毛も生えてきた・・・。
田舎町で、父親のいない母子に周囲は冷たい視線。
いつも一人ぽっちの彼は、自分が人とは違う理由がほしかったのかもしれません。


本当に、彼はクロマニヨン人のDANを受け継いだ子供なのか?
そのことを根底に置きながら語られるこの物語は、
実はどの子もたどる成長の物語なのでした。
小学生から、中学、高校にかけて、
成長期の男の子の思いは、初々しく、くすぐったい。
ただ1人幼馴染で一緒に遊んだ少女サチとの交友も、さわやかに描かれます。
何のこだわりもなく、転げまわった小学生の頃・・・。
そして、なんとなくお互いを意識し始める中学時代・・・。
初めての二人だけの夜・・・。
オバサンは、つい、にんまりしてしまいますねえ。

しかし、彼のクロマニヨン人の思い込みは、
微妙に彼のやりたいことに影響していきます。
小学生の頃には、原始人のように川原の石でやじりを作り、
木の枝に結んで槍を作って投げてみたりしました。
父はこうしてマンモスを倒したのだろうと、夢を見ながら。
そのことがあって、陸上競技の槍投げに興味を持つ。
でも、それも簡単に出た答えではなくて、
あっちをうろうろ、こっちへフラフラするうちにたどり着くのです。
そういう意味ではとてもリアルな青春小説。
そして、何よりワタルの語りには、力があります。
さすがクロマニヨン人。
単なる男子の成長物語なら良くあるけれど、
このSFまがいの切り口の斬新さ。
けれども、実は内容はオーソドックスな、父を希求する息子の物語。

すがすがしい感動。
満足の一冊でした。


満足度 ★★★★★


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