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「暗幕のゲルニカ」原田マハ

2018年07月23日 | 本(その他)

ゲルニカに込められた思いを、しっかり見つめよう!

暗幕のゲルニカ (新潮文庫)
原田 マハ
新潮社

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ニューヨーク、国連本部。
イラク攻撃を宣言する米国務長官の背後から、「ゲルニカ」のタペストリーが消えた。
MoMAのキュレーター八神瑶子はピカソの名画を巡る陰謀に巻き込まれていく。
故国スペイン内戦下に創造した衝撃作に、世紀の画家は何を託したか。
ピカソの恋人で写真家のドラ・マールが生きた過去と、
瑶子が生きる現代との交錯の中で辿り着く一つの真実。
怒涛のアートサスペンス!

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本作、文庫化を待っていました。
図書館に予約しようと思っても、そのあんまりな待ち人数の多さにめげました。


スペイン内戦を描いたとされるピカソの大作「ゲルニカ」。
本作はその創作当時のピカソとその愛人ドラ・マールの様子、
そして2001年9月11日以後のアメリカ、2つの舞台を交互に描いています。
瑶子はMoMA(ニューヨーク近代美術館)のキュレーターで、
9.11同時多発テロで夫を失っています。
そのこともあり、国家・民族間の憎しみや争い、戦争の悲惨さを描く「ゲルニカ」には
人並みならない思い入れがあるのです。
そこで、ぜひ現在スペインにある「ゲルニカ」を借り入れて
ニューヨークで展覧会に展示したいと思う。
しかしこの絵のこれまでの来歴や、この絵に付加された様々な人々の思惑が、
そのことを非常に困難にしているのです。
はたして、瑶子の願いは叶うのか・・・? 
彼女自身の拉致などサスペンスフルな展開もあり、
原田マハさんらしい美術界を題材としたエンタテイメントに仕上がっています。


さて、しかし本作はどこまでが事実でどこからが創作なのかと私は訝ってしまったのですが、
巻末になんと池上彰氏による解説がありました。
つまり、パウエル国務長官が国連安保理のロビーで記者会見を開いたときに、
その後ろに位置する「ゲルニカ」のタペストリーに暗幕が掛けられていた、
ということこそが、原田マハさんに本作を書く動機を与えた「事実」である、と。


この絵の前で「イラク攻撃」の話はできなかった・・・、
というのは多少なりとも「恥」を知っている人がいたということでもあり、
良いことなのやら悪いことなのやら判断が付きませんが、
「ゲルニカ」が反戦のシンボルとなっていることは確かですね。
ピカソのこと、ゲルニカのこと、楽しみながらたっぷり学習させていただきました。

「暗幕のゲルニカ」原田マハ 新潮文庫
満足度★★★★☆



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