映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ヒミズ

2014年06月18日 | 映画(は行)
危うい淵に立つ少年。手を差し伸べる少女。



* * * * * * * * * *

「地獄でなぜ悪い」が気に入った私は、
これまでまだ触れていなかった園子温作品に挑戦。
この「ヒミズ」は、主演二人が第68回ヴェネチア国際映画祭で
最優秀新人俳優賞(マルチェロ・マストロヤンニ賞)を受賞したことで話題になりました。
気になってはいたのですが、見逃していた作品。



原作は古谷実の同名コミック。
15歳住田祐一(染谷将太)は、
自分が「たった一つの花」などではない、花でなくていい、
ひっそりと普通に一人の“立派な大人”として生きていきたいと思っています。
ヒミズというのは「日見不」。
つまり日を見ないもぐらのこと。
そのもぐらのように日が当たらなくてもいいから地味に普通に生きたい、
というのが彼の望み。
中学生のくせに夢も希望もない? 
いえ、次第に彼の家庭事情がわかってくるのですが、
父親はたまに戻ってきては暴力をふるいお金をむしりとって、また出ていくというロクデナシ。
母は男を作って祐一を捨てて逃げてしまう・・・。
親子の愛情など何処にもなく、
15歳にして一人きりで生きていかなければならないという悲惨な状況になってしまいます。
そんな彼にとっては、自分の夢をかなえるとかお金を儲けるなどということは論外で、
普通に平穏に生きること自体が叶わぬ夢のように思えるのかもしれない・・・。

  

そんな祐一のファン(?)なのが、同級生の茶沢景子(二階堂ふみ)。
はじめの内、ただ元気が良くてエキセントリックな女の子、と見えていたのですが、
実は彼女も普通ではない家庭の事情で、
行き場のない悲しみと孤独に喘いでいたのです。
強引に擦り寄ってくる景子に、祐一は冷たい視線を投げかけます。
「住田君」、「茶沢さん」とよそよそしく呼び合う二人が、
つかみかかり、殴りあったりもします。
自分と同じ孤独の匂いがする祐一に、景子が惹かれるのはよくわかります。
自分の事情など一言も口にせず、
元気を絞り出して祐一の貸しボート屋を盛り立てようとする景子。
次第に祐一の心もほぐれていくように見えました。



しかし、そんな時に、“事件”は起こるのです。


親に見捨てられる位ならまだいい。
でも親に「おまえなんか死ねばいい」といわれた子どもはどうすればいいのでしょう。
自分が生まれた意味、生きている意味を根底から覆すこの言葉は、
残酷に祐一の胸に突き刺さります。
祐一は絶望と狂気の淵に立つ。



ここでの茶沢は、ガールフレンドというよりもむしろ“母”なのだと思います。
祐一のすべてを理解し、受け入れようとする。
何よりも現実的で、正しくまっすぐだ。
祐一の危うい淵にそっと手を差し伸べる景子には、
何もかも委ねてしまえばいいのだ・・・という安心感がありますねえ・・・。



震災地の崩壊した街近くを舞台としているのが、
祐一の崩壊した魂と呼応して、いっそうの寂寥感を生み出していました。
しかし実のところ、祐一の周りには彼を気遣う人たちも多くいたのですけれどね。
そういうところに寄りかかろうとしない祐一の硬質な心も、
まあ、若さゆえでありましょう。
若さと、若さゆえの彷徨、
そしてしなやかな強さがあふれる一作、見応えがありました。
窪塚洋介はいかにもそれらしいイカス役。
チョイ出に吉高由里子も。

ヒミズ コレクターズ・エディション [DVD]
染谷将太,二階堂ふみ
ポニーキャニオン


「ヒミズ」
2001年/日本/129分
監督:園子温
原作:古谷実
出演:染谷将太、二階堂ふみ、渡辺哲、吹越満

最悪の状況度★★★★★
主役二人のフレッシュ度★★★★★
満足度★★★★☆


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