映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「きみが住む星」池澤夏樹 / 写真 エルンスト・ハース

2018年03月19日 | 本(その他)

ここではない世界への誘い

きみが住む星 (角川文庫)
エルンスト・ハース
角川グループパブリッシング

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とうとう旅に出てしまった。
離陸した飛行機から、成層圏の空が見えたとき、ぼくはこの星が好きだと思った。
どうしてなのか考えて、気がついた。
この星には、きみが住んでいる。
きみが住む星をぼくは旅する―。

男は行く先々から、沙漠やアンデスの山、喧噪の都会から恋人に手紙を送った。
朝焼けに息をのみ、渡り鳥に故郷を思い、大地を讃える日々。
美しい言葉と風景を、あなたに。大切な人に贈る、魂のギフトブック。

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先に池澤夏樹さんは基本的に冒険家、などと書いたのですが、
いやいや、基本的には詩人。
と、本作を見て思い直しました。
でも冒険家も間違いではない。
冒険家であり詩人。
これが正解。

この本は、エルンスト・ハースの写真からイマジネーションを受けて、
池澤夏樹さんが文を書いたのだと思います。
旅に出て、旅先から残された恋人に向けた手紙を書き送るという体裁です。
その手紙が、写真のイメージとピッタリと重なり合い、
私達をここではない世界へ誘う。
時には幻想的に。


掲載されているエルンスト・ハースの写真は、
雄大な自然であったり、動物であったり、大都会の風景だったり・・・
人々の営みもあり、まさに様々。
しかしどれをとってもそこから様々な空想が駆け巡る。
その空想度合いが、やはり通常の人よりも稀有で奥深いのが、さすがの池澤夏樹さん。

黄色や紅い花が咲き乱れた野原の写真があります。
風に揺れて、どこか幻想的。
そんな写真には、こんな文章がついているのです。

馬に乗って、郊外の野原に行った。
次第に野原は一面が花で一杯になったが、
気がつくと馬が地面を踏んでいないことに気がつく。
花があまりにも綺麗だから、
馬はそれを踏みつけないように宙を浮かんで歩いていた・・・。
「そんなことができる馬のことを僕はすごく尊敬した。」

う~ん、参りました!

時にはこんな本を見て読んで、心の旅をしよう・・・
(単行本にて)

「きみが住む星」池澤夏樹 / 写真 エルンスト・ハース
満足度★★★★★