大観山道路で何度かリアがロックした。ロックさせるまで踏むことは今までなかったのに、体の調子が悪いのだろうか。日暮れ時に何度もリアから転倒しそうになった。普段この程度のブレーキやシフトダウンではしっかりグリップしたような気がしたのだが、灯りがないせいで人間の方のコントロールが鈍っているのだと考えた。走り慣れない暗闇は本当に怖いものだった。灯りがあれば、という悔しい念を残しながら転倒することなく夕方早々に宿処へ着いた。今ひとつ気分がすぐれなかったものの、酒も入り気を取り直し、宴あけた2日目の朝を迎えた。
別荘形式の保養所を後にして3台3人は再び大観山道路へ繰り出した。昨日は3台で麓から上って怖い目を見たが、今日は頂上から下ることになる。若干霧が出ていたり路面が湿っているきらいもあるが、コンディションは概ね好調であった。そしてやはり太陽の明かりが届いていることに喜びを感じる。自分の体調もよい。ところがこんな日に限ってあとの2人があまり元気がない。ションボリしてしまっている。普段ぼくの先を行くGSX-Rはどんどん視界のかなたに消えるはずなのに、あまりやる気がないらしい。昨日の元気はどこへ行ってしまったのか?WRXも同様である。結局一往復もすることなく途中の駐車場から引き揚げてしまい帰ることになった。御殿場ICまで、芦ノ湖スカイライン、箱根スカイラインという有料路を通って行こうというルートが決まった。
芦ノ湖スカイラインに入ってはGSX-Rが先行した。やはりあまり無理はしていないらしい。いっぽう着いていく自分にとってはこの程度のペースが一番気持ちよい。実にいいペースだ。WRXは基本的にマナー自体は極めてジェントルなため他のクルマへの追い越しがかけられず、後ろのほうへ消えていった。ずっとGSX-Rと並走していたかったが、前方に4輪が現れ道が詰まると250ccでは中々追い越しのチャンスが無い。そうこうで結局3車はバラバラで走ることになったのだ。
実に気分が良かった。タイヤのスミまで使い切るバンクさえできれば、速度自体にそれほどこだわりはない。体調も良好だ。マイペースで気分良く飛ばせた。昨夕の暗闇の時、今はかろうじて生き長らえたが明日はコケるんじゃないかという恐怖があったが、今は全くコケる気がしない。
左コーナーの入口にさしかかる。特別でも何でもない普通のコーナーだ。いつも通りのブレーキングをし、3速から2速へシフトダウンをした。クラッチを切りシフトダウン&軽くアクセルを煽ってクラッチを繋ぐ、このいつもの一瞬の操作、ここで予想外の出来事が起きた。クラッチを繋いだ瞬間リアが暴れた。暴れたとほとんど同時そのまま転倒した。まだコーナーに達していないのでバンクもしていない。ほとんど正立している状態で突然リアが流れ出すとはどういうことなのだ。シフトミスとは思えなかったのだが、結局シフトミスでしかない。負け惜しみを云うなら、タイヤを換えてさえいれば普通にグリップしたのかもしれない。いや負け惜しみでなくて事実そうではないのか、そんな気がして悔しい。とにかくVTRは左側へ倒れそのままズザザザーとアスファルトを削った。このズザザザーが異様に長く感じた。この間運転者の自分がどんな状態であったのかよく思い出せないが、多分バイクと仲良く一緒に滑っていただろう。「まだ止まんないのォー?!」と感じたのをよく覚えている。
慌てて立ち上がる。とりあえず五体で動かない部位はない、無事と判断できた。ジーンズが擦り切れ左のヒザを擦りむいているが、直接アスファルトに擦った形跡はなく全くの軽傷である。次に車体そして道路後方へ目をやった。幸いVTRはコーナーの手前で止まっていたので、後からの眺めは良い。後続車があったとしても、ひとつ後ろのコーナーを抜けた後ぼくを発見してから停止するまでの制動距離は十分あると判断できた。続いて車体を引き起こしにかかる。ハンドルを手に取り、車体を少し浮かす。するとタイヤが回転し車体全体が先のほうへ移動してしまいまた倒れてしまう。これを2回繰り返す。そうか、ここは下り坂で傾いているんだ。とうとうバイクは下り坂の方を向いて倒れている状態になってしまい、最も起こしにくいポジションになってしまった。もう一度起こしに掛かった最中に対向車が現れ、すれ違いざま声を掛けてきた。「だいじょうぶー?」「ああ、だいじょうぶ!」と答えるが、ちょっと浮いた瞬間にまた倒れてしまう。どうやら左足に力が入らない。痛いのはヒザでなく左足首のほうだ。タンクバッグを外して路肩に置き、4度目のトライでブレーキレバーを握りながらようやく車体を立て、路肩へ寄せた。今走ってきた方とは逆を向いて、道路の右端に寄せた形となってしまった。飛ばしていたおかげかとうとう後続車は現れなかったのだが、ようやく数台ずつやってくるようにばった。動くに動けない状態で車体の被害状況を確認した。メーターがザックリ。ウインカーも根元から曲がってる。フロントフェンダーとステップホルダーを擦っていた。フロントがなんだか曲がっているらしく、ハンドルを真っ直ぐにするとタイヤの向きがヘンだ。しかしタンクは無傷だ。ミラーはボルトが緩んでいるのでこれを力ずくで直した。ジーンズのほかジャケットにも穴が開いた。それにしてもWRXはまだであろうかと思っていたところ前方からぼくを呼ぶ声がした。呼んだのはそのWRXだった。知らないうちにぼくを追い越していたようだが気づいてくれて助かった。ちょっと前にクルマを寄せて止めてあるというので、ひとまずそこへ移動することとする。エンジンをかけるべくシフトペダルを探したが…ひしゃげて思いっきり内側に入ってしまっている。なんとか走り出したが左足首が痛みシフト操作が難儀だ。10mほど先の道路わきの砂利の上へすべりこんだ。
(つづく)
別荘形式の保養所を後にして3台3人は再び大観山道路へ繰り出した。昨日は3台で麓から上って怖い目を見たが、今日は頂上から下ることになる。若干霧が出ていたり路面が湿っているきらいもあるが、コンディションは概ね好調であった。そしてやはり太陽の明かりが届いていることに喜びを感じる。自分の体調もよい。ところがこんな日に限ってあとの2人があまり元気がない。ションボリしてしまっている。普段ぼくの先を行くGSX-Rはどんどん視界のかなたに消えるはずなのに、あまりやる気がないらしい。昨日の元気はどこへ行ってしまったのか?WRXも同様である。結局一往復もすることなく途中の駐車場から引き揚げてしまい帰ることになった。御殿場ICまで、芦ノ湖スカイライン、箱根スカイラインという有料路を通って行こうというルートが決まった。
芦ノ湖スカイラインに入ってはGSX-Rが先行した。やはりあまり無理はしていないらしい。いっぽう着いていく自分にとってはこの程度のペースが一番気持ちよい。実にいいペースだ。WRXは基本的にマナー自体は極めてジェントルなため他のクルマへの追い越しがかけられず、後ろのほうへ消えていった。ずっとGSX-Rと並走していたかったが、前方に4輪が現れ道が詰まると250ccでは中々追い越しのチャンスが無い。そうこうで結局3車はバラバラで走ることになったのだ。
実に気分が良かった。タイヤのスミまで使い切るバンクさえできれば、速度自体にそれほどこだわりはない。体調も良好だ。マイペースで気分良く飛ばせた。昨夕の暗闇の時、今はかろうじて生き長らえたが明日はコケるんじゃないかという恐怖があったが、今は全くコケる気がしない。
左コーナーの入口にさしかかる。特別でも何でもない普通のコーナーだ。いつも通りのブレーキングをし、3速から2速へシフトダウンをした。クラッチを切りシフトダウン&軽くアクセルを煽ってクラッチを繋ぐ、このいつもの一瞬の操作、ここで予想外の出来事が起きた。クラッチを繋いだ瞬間リアが暴れた。暴れたとほとんど同時そのまま転倒した。まだコーナーに達していないのでバンクもしていない。ほとんど正立している状態で突然リアが流れ出すとはどういうことなのだ。シフトミスとは思えなかったのだが、結局シフトミスでしかない。負け惜しみを云うなら、タイヤを換えてさえいれば普通にグリップしたのかもしれない。いや負け惜しみでなくて事実そうではないのか、そんな気がして悔しい。とにかくVTRは左側へ倒れそのままズザザザーとアスファルトを削った。このズザザザーが異様に長く感じた。この間運転者の自分がどんな状態であったのかよく思い出せないが、多分バイクと仲良く一緒に滑っていただろう。「まだ止まんないのォー?!」と感じたのをよく覚えている。
慌てて立ち上がる。とりあえず五体で動かない部位はない、無事と判断できた。ジーンズが擦り切れ左のヒザを擦りむいているが、直接アスファルトに擦った形跡はなく全くの軽傷である。次に車体そして道路後方へ目をやった。幸いVTRはコーナーの手前で止まっていたので、後からの眺めは良い。後続車があったとしても、ひとつ後ろのコーナーを抜けた後ぼくを発見してから停止するまでの制動距離は十分あると判断できた。続いて車体を引き起こしにかかる。ハンドルを手に取り、車体を少し浮かす。するとタイヤが回転し車体全体が先のほうへ移動してしまいまた倒れてしまう。これを2回繰り返す。そうか、ここは下り坂で傾いているんだ。とうとうバイクは下り坂の方を向いて倒れている状態になってしまい、最も起こしにくいポジションになってしまった。もう一度起こしに掛かった最中に対向車が現れ、すれ違いざま声を掛けてきた。「だいじょうぶー?」「ああ、だいじょうぶ!」と答えるが、ちょっと浮いた瞬間にまた倒れてしまう。どうやら左足に力が入らない。痛いのはヒザでなく左足首のほうだ。タンクバッグを外して路肩に置き、4度目のトライでブレーキレバーを握りながらようやく車体を立て、路肩へ寄せた。今走ってきた方とは逆を向いて、道路の右端に寄せた形となってしまった。飛ばしていたおかげかとうとう後続車は現れなかったのだが、ようやく数台ずつやってくるようにばった。動くに動けない状態で車体の被害状況を確認した。メーターがザックリ。ウインカーも根元から曲がってる。フロントフェンダーとステップホルダーを擦っていた。フロントがなんだか曲がっているらしく、ハンドルを真っ直ぐにするとタイヤの向きがヘンだ。しかしタンクは無傷だ。ミラーはボルトが緩んでいるのでこれを力ずくで直した。ジーンズのほかジャケットにも穴が開いた。それにしてもWRXはまだであろうかと思っていたところ前方からぼくを呼ぶ声がした。呼んだのはそのWRXだった。知らないうちにぼくを追い越していたようだが気づいてくれて助かった。ちょっと前にクルマを寄せて止めてあるというので、ひとまずそこへ移動することとする。エンジンをかけるべくシフトペダルを探したが…ひしゃげて思いっきり内側に入ってしまっている。なんとか走り出したが左足首が痛みシフト操作が難儀だ。10mほど先の道路わきの砂利の上へすべりこんだ。
(つづく)