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バック・トゥ・ジ・オーディオ(8)

2024年01月02日 | 70年代ロック雑談

続編を書く日が来ると思わなかったが、思わず日が来てしまったので続編を書く。

はじめに前稿までの総おさらいとして、アナログ歪みの解決方法のみに絞って話そう。
強調したいことは「歪みの解決はスタイラス(針)次第」である。もしあなたがアナログ音源再生中に「いつも音がビリビリ鳴る」という歪みの発生に悩まされているなら、丸針かダエン(楕円)針を使っている場合はそれが原因なので、今すぐダエンよりグレードが高い針に買い換えてほしい。使用しているカートリッジにダエン針までしか適合しない場合は、カートリッジごと買い換えてほしい。シェルがカートリッジの専用品だったら、シェルとカートリッジとスタイラスの3点セットで買い換えてほしい。カートリッジがダエン針までしか適合しなくてカートリッジ交換ができないプレーヤーの場合は、プレーヤーごと買い換えてほしい(アームをカートリッジ交換式に替えられるならそれでもいい)。
私は3年前からオーテクのマイクロリニア針を使っているが、もっと早く交換すれば良かったと後悔している。私にとって内周歪みはもはや恒久的かつ不可逆的に解決済みだ。厳密にいえば少しは歪むが気にならないレベルまで解消された。
もっとも、中古だと盤の方が文字通り擦り切れてしまっていて結果として歪むケースもあるし、それが前オーナーがヘビロテした特定の曲だけということもある。これは盤のせいなので致し方ない。さらに、これを言うと身も蓋もなくなってしまうが、中古アナログ屋の店内再生BGMでもしばしば聴くに堪えないレベルの内周歪みに遭遇するから、気にならない人にとって歪みとは全く気にならないものなのかもしれない。

さて、本稿は転居によるオーディオ生活環境変化のお話である。実は引っ越しをした。前の賃借物件が取り壊しになったせいである。生まれて初めて武蔵国を離れ下総国民になったが、結果として前居宅より大幅に広い収納スペースと、許容音量的には前居宅ほどではないが、まあまあ納得行くリスニング環境を手に入れた(余談だが、新居と書くのに違和感あるほどの築古だ)。このことがもたらした諸々について雑多に述べていく。

1.CDのためのコンポ買い替え

前稿で「アナログ以上に大量に所有しているCD資産を家に置き去りにした」旨言及したが、今回思い立つものがあって、全てを引きとり収納を活用して新居に持ち込むことにした。同じく前稿で自分がCD世代であること、版元による媒体変更(つまりいわゆる「CD化」)の際の再現努力不足に起因するCD不信について言及したが、自ら集めたCDたちを改めて眺めてみると、amazon通販を除いて1枚1枚購入時の記憶がよぎるし、とりわけ汗水流して蒐集しまくった学生時代の記憶は鮮やかだ。だから再会は率直に嬉しく懐かしかった。Amazon musicプライムのスマホインターフェースはいまだに私の聞き方に馴染まず使いにくいままだが、所有CDメディアに寄せる私の心境については、引っ越しが小変化をもたらしたと言えよう。もちろんサブスクにはサブスクの良さがあって享受を否定しないが、CDで所有している盤を家で聴くなら、これからは配信ではなくCDで聴こう。宝物の再発見だ。

そこでさっそく懐かしいディスクたちと戯れるべく、3年前に購入した安物コンポにそれらをセットしてみた。こいつにCDを再生させるのはほとんど初めてに近かったが、この行動は予期せぬ発見をもたらした。それはコンポが安物はおろか粗悪品だったということ。CDプレーヤーの動作ノイズが何しろありえないくらいに酷い!モーター回転音?あるいはディスクとの接触音?(だったら最悪だ)、「シルシルシルシル・・・」とうるさくて、もはやリスニングどころではないのである。収録時間が長い盤にほど症状が顕著であったが、ともあれ結果として、媒体を跨いで複数所持する同タイトル盤を聞くなら、「媒体がCDよりもアナログの方が低ノイズ」という超常現象が厳然と眼前に現れた(ある意味貴重な体験かもしれない)。たまたま、同機種コンポの売れ残り叩き売り現品が近所の店頭にあったので、失敬して勝手テストをさせていただいたところ全く同じ現象が再現されたため、故障ではなく仕様なのだと確認できた。したがって修理による回復が望めない以上、即時廃棄が確定。こんな致命的かつ初歩的な欠陥に長らく気が付かなかいまでに自分はCDと距離を置いていたわけになる。買い替えに向け機種選びを行いKENWOODのK515という時価4万円くらいの中堅モデル(マニアに言わせればそれも安物か)を購入した。粗悪コンポ購入時点でこちらK515は既に市販されていたから、最初からこちらを買えば良かったことになる。とりあえず、コンポ本体価格をスタイラス価格が上回る現象についてのみ、晴れて(?)解消だ。


K515


私がCDコンポに求めるスペックについて少し説明すると、①AUX端子②AMチューナー③タイマー再生機能となる。3点同時に揃うモデルって意外に無い。
①AUXは説明不要ながらアナログプレーヤー接続のためだ。機能そのものはBluetoothで代替可能だが、コンポとフォノイコライザー間にBluetoothトランスミッターを噛ませるのは鬱陶しいので、有線接続したい。一昔前はテープやMD用のIN/OUT端子が標準的に装備されていたものだが、スタンダードとは変遷するものなのだ。
②AMチューナーについては、「FMチューナーは要らない」と言っているのではなく、「FMとAM両方とも必要」という意味である。つまりFMチューナーは全てのコンポに搭載されているから比較の必要がないが、AMチューナーを割愛するモデルが多いのだ。これはFM補完放送が整備済みなことと、AM放送そのものが5年内に廃止の方針が示されているせいだろう。これも時流に伴うスタンダードの変遷だ。テレビレス生活の私にとってAMは毎朝の時計代わりであり(③タイマーONで目覚ましも兼ねる)、何よりあの温かみのあるくぐもった音質が好きだから、AM放送とは最期まで添い遂げるつもりでいる。
粗悪コンポは①~③全条件を満たしていたから購入当時私の目にはお買い得に映ったはずだ。こちらK515はどうかというと、タイマー再生の音量セット機能があるため痒い所に手が届くし、本体のメタリックな質感、スピーカーのコーン紙ホワイト仕上げや着脱式ネットなどと相まって高級感があり、満足感は格段に向上した。

ところで買い替え調査を通じて、CDをメインに据えたコンポそのものの市場が絶滅危惧種なことを知り、少し驚いた。考えてみればこのK515しかり、5年以上昔に発売されたモデルが未だに現役なわけで、新陳代謝に乏しいことからも衰退ぶりが窺える(粗悪コンポのメーカーは撤退済だった)。きょうびリスニングスタイルのスタンダードとして、「サブスク配信をスマホ+Bluetoothイヤホンで聴く」が既に鉄板となっている証左であろう。音楽再生のオンライン化は、アナログ/デジタルの違いを跳び超え、ソフトだけでなくハードの存在すら希薄化してしまった。写真にたとえれば写真撮影機(カメラ)がかつて「独立した機械」だったのに、今はスマホの「機能」に吸収されてしまったことと相似する(いわんやその記録媒体としての「撮影用フイルム」をや)。こう考えればCDのごとく実体あるメディアはもはや有難いとさえ思える(フイルム、もう高くて買えないあるよ)。
ともあれCD問題はコンポ買い換えによって解決したが、今後自分のニーズを充足する次代モデルはもう出ないかもしれないので、一生モノと思って大切に使おうと思う。毎朝必ず使っているので、使い続けることがメンテナンス代わりになるのであれば嬉しい。私の不在の日でさえタイマーON/OFFで大きなのっぽの古時計だ。

2.ラジオのこと

続いて転居にはラジオアンテナ再設置の問題がある。
FMアンテナは、アンテナの代わりに自動車やオートバイの電装系に用いるケーブルを流用して屋外に張り巡らせている(前居宅でもそうしていた)。当アイデアに至ったヒントは、コンポに同梱される頼りなく寸の短い簡易FMアンテナコードの存在である。もちろんこの子は全く役には立たないのだが、「それならば寸をめちゃくちゃ延長してやったらどうなるだろうか?」と考え5メートル以上延長し屋外まで這わせたところ見事に役に立ったものである。具体的には付属コードの先端にギボシ端子をハンダ付けし、そこへ電装用ケーブルを接続して屋外へ導き、ベランダにて手すりなどを活用して蜘蛛糸のように巡らせるのだ。巡らせ方は受信状況を耳で確認しながらの現物合わせすなわちテキトーだ。FM放送用専用アンテナを使ったことは無いが、これで文句なく受信できる。特に手すりの活用は専用アンテナの役割を代替していそうで気に入っている。


ベランダを這うアンテナの一部


AMアンテナは付属品を使おうかと思ったが、新居屋内は電波状況が良くないため、社外品の中型ループアンテナを購入した。純正付属アンテナのケーブルをこれまたちょん切って、新たに端子を儲け、社外品アンテナに付属したケーブルとハンダ付け接続して延長。アンテナの設置場所は、コンポとはずいぶん離れているが室内で最もよく受信感度の良い窓際とした。
しかし新たな課題が発生した。転居地である下総の宿命とも言えるが、相模方面の放送局が受信しずらく、特にそれが「ラジオ日本」(AM1422kHz、FM92.4MHz)に顕著ということだ。AM本放送FM補完放送ともに心許ない。これについてはいかんともしがたく、現状ネットラジオで代えている。「ラジオ日本」の番組には、洋楽や懐メロなど好きなものが多いし、週末の競馬放送もかけっぱなしにしていると無心になれて好きなのだ(ギャンブルとは無縁だが)。ゆくゆく自作のAM大型ループアンテナでもやってみようかなという気持ちもある。
いっぽう、新たに受信できるようになった近隣自治体のローカルFM「市川うららFM」は昔の洋楽が垂れ流しなので非常に心地良く大変に気に入っている。


毎正時と毎30分に1回入るジングル(2種類)もオールドファッションでgood

3.ヘッドフォンのこと

さいごに居宅における許容音量の話をしたい。これは環境的にどれだけの音量でスピーカーを鳴らせられるかという意味であって、単なる防音性のことではない。つまり周囲1㎞四方が無人であればどれだけ音漏れしても構うまい。実は前居宅はこの点がずば抜けてハイスペックだった。鉄筋コンクリート造りで、上下左右が空室だったし、というより棟全体ほとんど無住だった(取り壊しが時間の問題だったことが窺える)。おまけに隣接する建物もない。それゆえ深夜の爆音再生から音源と一緒に絶叫シャウトやらやりたい放題だった。いっぽう新居も、鉄筋コンクリート造りで、各居宅がしっかりコンクリート壁で隔離されており、かつ最上階カド部屋を押さえたが、階下と隣に住人が居るから以前のようには行かず、自ずと格段に常識的な生活が求められる(いやー、今まで幸せだった・・・)。
とは言いつつ、深夜に突然目が覚め、他にすること無いからそのままディスクと戯れるという「新しい生活様式」が、コロナ禍一人暮らしの恩恵によって半ば習慣化してしまったため、何とかこれだけ取り戻せないかな、と考えた。そこで未体験アイテムである「ヘッドフォン/イヤホン」を新たに導入することとした。従来ヘッドフォンは「お出かけ用」と「モニター用」のみ運用だったから、屋内リスニング用途で検討するのは初めてのことである。用途に鑑みオープンエア(開放)型ヘッドホンを選択するものとし、モデルはピンからキリなので、例の「コンポ本体とスタイラス価格の比較」理論をベースに、4万円コンポに見合った価格帯から選択するものに定めた。
WEB上の商品レビューやクチコミを目をやると、オーディオ製品のそれは相変わらず感覚的・抽象的で辟易とするため、参考にすることなく価格だけで選んだ。白羽の矢を立てたのはゼンハイザーHD599SEというモデルである。これは通常価格が30,000円弱だが、Amazonのセール時のみ半値程度で買えるというアルゴル型変光星のような価格変化をするのが魅力であった(カカクコムの推移グラフもこれに倣った矩形波を描く)。これにほれ込んだので時季を狙って購入。
聴感は2トラックをしっかり分離し、低域から高域までバランスよく鳴らしているので(ややドンシャリ)、これ以上言うことは無い。頭と耳への装着感もグッド。付属ケーブルは着脱式だが、ヘッドホン側端子はφ2.5超ミニプラグかつ4極となっている。何故4極なのかはいまだに分からない。有線運用だが一人暮らしのリスニングに不便な要素はなく気に入っている。


アルゴル型変動価格

むすび

本稿執筆にあたって、なんとなくマイクロリニアより上位のシバタ針を試してみたくなってしまって、冬ボーナスの使い道として購入してしまったため、その話も紹介したい。
一昨年、愛用の東芝レコードプレーヤー同型機の部品取り品をHard Offにて偶然発見・入手し、愛機に欠品していたダストカバーとヒンジならびに純正カートリッジ(C-280M)を手に入れた。そのカートリッジの付属シェルがえらく軽量だったため、「そもそも本機はトーンアームの設計含めてこの重量を前提に開発されたはず・・・」という考えが頭をよぎり、いつかこのシェルを活用してみたくなった。カタログデータでは、取り付けるカートリッジの自重範囲はシェルを含めて12~20グラムという指定である。現状シェル一体カートリッジAT100E/Gにマイクロリニア針VMN40MLを着けたそれは20グラムとMAXギリギリである。しかし新品購入した(って言っても10年も前だが)一体カートリッジを分解までする気にはならなかったところ、思い出したのが、前稿にてご登場いただいたヨドバシカメラ横浜店員さんの言葉「入門用の安物カートリッジ」ことオーテクAT-VM95シリーズだ。というのも、現在着用しているAT100に対応したシバタ針VNM-50SHを単品購入するよりも、VM95カートリッジと対応シバタ針がセットになったVM-95SHを購入した方が安いのだ!
改めてカタログを見ると、95シリーズはスタイラスに対応するカートリッジの設定が1グレードしかないので確かに廉価な印象は受けるが、既存ラインナップとはそもそも位置づけが異なる「一体型トーンアーム向け製品」というポジションにいる。それゆれシェル上部からの貫通ビス留めにのみ対応しているのだが、東芝シェルがまさに上から留める貫通穴タイプなので、私の意図と製品の企図がぴったり当てはまる。それなら性能面において私が使用あるいは所持しているカートリッジ(AT120E、AT100E、C-280M)と比較した場合はどうだろう。おそらくこれらは「どんぐり」の背比べであろうし、これまで自分の豚耳による聴感上の違いは「若干再生音量が違うかな?」という点を除いて感じたことはない。メーカーサイトのスペックを見比べる限り、AT100とVM95で各値に若干優劣の差が見られたが、豚耳に関係はなさそうなレベルと判断した。取り付けに関するメーカー注意書き「本シリーズは、貫通穴タイプのヘッドシェル(AT-HS6、AT-HS10、AT-LH13H、AT-LH15H、AT-LH18H)へのみ取り付けができます」だったが、東芝シェルのビス間隔はオーテクと完全一致だったため問題あるまい(この規格は統一ではないのかな?不明)。
というわけで新たな「どんぐり」を求めて師走の町へ出かけ買い求めてきた。C-280Mシェルに取り付け計量したところ合計で15.5グラムとなった。AT100に比較して4.5グラムの軽量化を実現したことになる。針圧を調整し水平を出していざターンテーブルに針を落とす(オートスタートで…)。AT100では「どさっ」という着地感だったところ、「そそぉっ」っという滑らかな挙動が得られるようになり、4.5グラムの軽量化はこれだけの差があるものかと感心した。続いて試聴する。予想通りVM95カートリッジはAT100と比べて聴感に変化は感じない。スタイラスはどうかというと、マイクロリニアとの性能差は小さく感じる。経験則から針はしばらく使用した方が実力発揮するという感想を持っているため(エージング)もう少し様子を見るが、ダエンからマイクロリニアに変えたときほどの衝撃はなかった。
そういうわけで!もし歪対策でダエンより上のグレードにこれからスタイラスを換えたい方がいたら、シバタ針ではなく、マイクロリニア針&カートリッジセットのAT-VM95MLが、最もお買い得ではないだろうか。歪の解決的にはマイクロリニアで十分かなというのが、シバタを初体験した私の現時点の感想だ。マイクロリニアは長寿命と相まってコストパフォーマンスが高く万人にお勧めできる。「入門レベル」の先輩マニアとして、あの店員さんに代わって、VM95MLカートリッジを胸を張ってお勧めしたい。


手持ちシェルを活用したシバタ+カートリッジ

 

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