人骨

オートバイと自転車とか洋楽ロックとか

SACHS

2008年11月18日 | メンテナンス実演(その他)
1.青い目の即身仏

ハロー人骨です。ハローハロー、ハロー。超お久しぶりです。
この間ナニをやっていたかというと、音楽ばっかやってました。
今年の夏はろくにツーリングも行かせてもらえなかったし(赤ん坊がいるので妻に悪い)、かわって家にとじこもり、子作りはもう良いからシコシコと音楽を作っていたのです。作ってどうするのかはまだナイショです。「32歳のおっさんが今さらバンド野郎もないだろう」と思われそうですが、ご安心を。年齢相応の裏方活動をしたいと思っています。まあそんなことはどうでも良いっす。

さて最近このウェブログは自他共に認めるバイクブログと化したので、バイク以外のことは書かないような雰囲気に、勝手に浸っています。それがようやく書くネタにありつきました。
というのは、先日修理を依頼され余所様のオートバイを分解する機会に恵まれたのです。しかも今回のクランケ(患者)はわが人生初の外人です。ドイツ人です。つまりジャーマンです。とうとう人骨モーターズの信用度もここまで来ました。カモーンBMW!

往診することになり、上のチビを連れて訪れてみると、そこにいたのはとっても小さなバイクでした。ナンバーはなんと原付です。BMWに原付なんてあったのか?
こいつがその正体です。



ご覧の通りのモペッドです。ゴテゴテのPOPも良い感じっす。大人のペット。もう見た目的にどこからどう覗いてもこいつはモペッド。何ていうんですかねこれは?
SACHS?
聞いたことねー。

オーナーは女の子。思いっきり日本人です。ちなみに髪真っ黒(可愛い)。

「だって可愛かったんだもん」

何でも聞くところよれば、見た目の可愛さに惹かれて購入したは良いけど、全く乗りこなせなかったため、買ってから1回しか給油してないとか。そんなに見た目が可愛いのかよモペッドや。彼女にモルモットなんか見せたら可愛すぎて気絶しちゃうだろうな。

SACHSと書いて「ザックス」と読むのだそうだ。車名は「OPTIMA50」。オプティマ。聞きなれない言葉だなあと思い車名の意味について調べたところ「ぴったりな(最適の)」という意味らしい。意訳すればさしづめ「普段着」ってトコだろうか。つまりゲタの意である。
その後このザックスはおよそ2年間、即身仏として彼女の実家に祀られていたそうである。今回このドイツから来た青い眼の即身仏にザオラルを唱えてやるのが私の役目である。

「それにさー、『SACHS』だなんて、なんか私の名前に似てない?」

ですので、ここでは彼女の名前を仮にザクコと呼びます。ザクコの実家を訪れると、ガルマ様ふうの彼氏とマチルダさん風のオカンが一緒にお迎えしてくれた。最高っす。
私が庭を覗くと、「最適上人」のミイラは既に厨子から出されていて、雑巾がけされているところであった。
ガイ者もとい外車と聞くと若干尻ごみしてしまうかもしれないが、まあ相手が白人だろうが上人だろうが開けちまえば中身は全部一緒だろうと安易に考え、かなり軽い気持ちで臨んだ。およそ考えられる故障個所は、キャブレターのつまりとバッテリーあがりくらいであろうと予測しながら。
しかしこのミイラを見た瞬間、私は一瞬唸ってしまった。

「こ・・・・これは」

「き・・・・気持ちいい・・・!」

のでは全然なく、得体の知れないメカニズム。かなり面喰ってしまった。
まず左グリップでギヤチェンジを行う仕様になっている。噂には聞いたことがあったが、ベスパ等はハンドルごとガゴっと回してシフトチェンジするというが、これがまさにそれだった。そういや足こぎペダルなんだもんな、チェンジペダルが無くて当然と言えば当然。
エンジンのかけ方からして既に分からん。リアブレーキも見当たらない。ハンドルからは夥しい数のワイヤー類が伸びている。2サイクル50cc短気筒。ガソリンはなんと混合給油。これもベスパと一緒か。
ちなみにリアブレーキは、ペダルを漕ぐのと逆方向に踏む仕組み。チャリンコのペダル逆回転のつもりで踏んだ日には速攻ロックだろう。
ホーンについては、なんと「チリンチリン♪」のみだ。

イグニッションを回すが何の反応もない。バッテリーはダメだろう。おそらくフラマグ点火と思われるので、バッテリーが無くてもエンジンはかかるはず。とりあえずザクコに始動方法を教わり試みる。かかればお慰みだ。ペダルを蹴るのだが、全くかからない。そもそもクランキングしている気配がない。
とりあえず取り説が出てきたので、これを見ながらトライすることにしたが、これまた単なるコピーをホチキス留めしたものであった。模範解答のコピー並みに見にくいため、すぐに見るのを辞めた。


2.メンテナンス箇所

当初いきなり修理にかかろうかと思ったが、はっきり言ってワケわかめ。
とりあえずは最適上人と戯れることから始めることにした。エンジンのかけ方が分からんので、2速に入れて押しがけすることにした。

チビをザクコに預けて遊んでもらっている間に道へ出る。頭の中は直せなかった時の言い訳づくりでいっぱいだ。「すみません、やっぱりナチス・ドイツの科学力は世界一ィィでした!」で良いかなとか。

2回ほど飛び乗ったところなんとあっけなくエンジンが始動。即身仏がパッチリとお目覚めになられた。キャブレターに問題はないと踏んだ。これはラクそうだ、ほとんど修理する必要もあるまい。ひと安心した。

ところが違うトラブルが発生。ギアが2速に固定されてしまい、動かなくなってしまったのだ。最初は操作方法がいけないのかと思ったのだが、間違っていない。操作方法はクラッチレバーを握ってハンドルレバーをガコガコするだけである。これが何故か全く反応しない。
やむなく2速だけで発進停止とする。センタースタンドがあるのでクラッチを繋いだ状態でアイドリングが可能だ。
エンジンの方は、温めてやればアイドリングも安定している。さすがジャーマン!

さて、あとは問題のギアチェンジである。チビは完全に預け、私と最適上人の2者だけでガチンコとなる。
最初は面食らった各種の変わった仕組みだが、だんだんと馴染むことができた。
まずはグリップを回転させる例のギアシフトだが、これは左のハンドルボックスに仕込まれたワイヤーを介して行われる。自転車と同じだ。クランクケースの真上にシフトリンケージのロッドがにょっきり突き出しており、これをワイヤで操作する。リンケージ本体を押してみたところ、ちゃんとシフトチェンジすることが判明。シフトがぶっ壊れてしまったわけではなかったようで、ひと安心する。となるとワイヤーが怪しいな。
なお、クラッチレバーにはツメが付いており、ボックスの切り欠きにはまることで、N、1、2の各ギアポジションにしっかり固定される仕組みであった。

続いてエンジン始動なのだが、クラッチを切ってキックしていたのだがいけなかったらしい。クラッチを握ると、スターターギアまでも切断されてしまうようだ。何故クラッチを握ったのかと言えばキックが全く降りなかったからなのだが、これは手動デコンプが存在しているせいあった。左ボックスに付いているレバーを引くと圧縮が抜け、ラクに蹴ることができる。デコンプなんてSRとかにしか付いていないと思っていたし、使ったこともなかったので一瞬びびったが、要は蹴ると同時に引いていれば良いだけだ。これで初めてクランキングしたよ。とほほ。

チョークレバーは右手ボックスにあるのだが、これはなぜかスプリングが仕込まれたワイヤーであり、引ききった状態で固定できない。つまりチョークを機能させるにはずっとレバーを引いていないといけない。これは少々面倒くさい。
また取り説には、冷機始動時はキャブについている「ボタン」を5秒くらい押してから始動すること、と書かれていた。これも「は??」だった。おそらく想像だが、フロートレベルよりさらに上面に別のジェットがあるものかと思われる。試さなかったが、ずっとボタンを押すとオーバーフローするのだろう。とにかくいままでお目にかかったことの無いメカニズムが満載。
この状態でキックを試すと無事エンジンが始動した。

ザクコが練習中に壁に当ててねじれたというフロントフォークは軽く手足でひねって修正し、フラットスポット寸前のタイヤに空気を入れ、あとはギアシフトワイヤーの処理だけとなった。
最初は遊びの調整が狂っているのかと思い色々試したのだが、どうやらそうではないらしい。
このワイヤーなのだが、まさにチャリンコ然としており、フレーム裏側を通ってシリンダーへ達すると、そこから先はアウターがないむき出しの状態である。赤錆こそ来ていなかったが、白っぽくてカサカサになっている。これでは潤滑なんて期待できないだろう。
もしかして単なる油切れ?油切れにしても、ここまで全く動かないものだろうかワイヤーって。
あいにく油脂類を持参していなかったため、借してもらったクレ556を用い、上も下も外してフリーとなったワイヤーへガンガンと油を注ぐ。組み付けるとこれが、動いた。そんなものなのかぁ。

最後に赤錆びに染まったチェーンを取り外して、持ちかえって磨くことにした。
それから身体検査して分かったが、このマシンはバッテリーレスであった。
この時点で方針決定、再度ワイヤーにしっかりグリスを送りこみ、チェーンの薄いサビを落としてグリスを吹けば良いだろう。
2年放置の即身仏が、グリスアップだけで蘇る奇跡。さすがジャーマン。なのか?!
次週に再度チビを連れザクコ宅を訪れ追加の作業を行う。事前にワイヤーブラシでサビ落とししグリスアップを済ませたチェーンを仕込み、シフトワイヤーには専用グリスを注入した。これだけでシフトチェンジは問題なく行えるようになった。

3.インプレッション

試みに給油がてら数キロ程度の試運転を行ったのでインプレでも。
まず始動性。これはかなり良くない。2スト50㏄ながらキック(ペダル)がかなり重い。
うちのコレダ号はおそらくオートデコンプを搭載しているだろうから、キックは非常にラクである。仮に走行中にエンストしたとしても、跨ったまま軽く蹴るだけで再始動が可能である。
ところがこのザックスは、デコンプレバーを引いても体重をかけなければ始動できない。おそらく跨ったままエンジンをかけるのはムリだろう。
そして肝心のエンジンのかかり具合であるが、これがまた良くない。重たいキックを数回やるのは、かなり疲れる作業だ。普段着という名を持つOPTIMA50は、ゲタはゲタでも洒落たサンダルとは程遠い「鉄ゲタ」である。

続いて操作性等。
シート座高は自転車のサドル然としており調整が可能だが、一番低くしてもかなり高い。780くらいあるんじゃないか。ゲタ代わりの原付でこのサドル高は日本人の体格に合っているとは言えず、ザクコに至っては足が着かなかったことであろう。
独特のステップ(ペダル)であるが、走行中はママチャリで坂道を下っている気分で軽く足をかけていれば良いのでそれほど違和感はない。ところが前述の通りリアブレーキはペダルを逆回転させるという奇妙なギミックである。左足でも右足でもブレーキ操作が可能という点ではメリットなのかも分からないが、走行中にペダルの位置がずれると正方向へ空漕ぎしてからブレーキを踏める位置まで随時調整する必要がある。これではパニックブレーキには対応が困難だ。
ウインカースイッチは右手にあるが、これまた日本車ではお目に掛からない位置についている。「フロントディスクブレーキ車のリザーバタンクが着く場所」と言えば分るだろうか。はっきり言って、手届きません。ドイツ人の大きい手でもムリだろう。古いカブとかはウインカースイッチが縦形であったが、操作方法はこれに近い。アクセルから手を放さないと操作できないので、私は走行中は左手でウインカーを操作したよ。
もう1か所操作しづらいのが、「1速でクラッチを切ってアイドリングキープ」である。
このバイクは左グリップを回転させシフトワイヤーを介しギア操作をするのだが、グリップ位置を各ギアへ固定するための仕掛けとして、クラッチレバーにツメが仕込まれている。これはクラッチを繋いだ時にレバーが各ギア位置でボックスにガッチリはまることでギアが外れないようにするものだ。ツメの位置とずれているとギアは入らないしクラッチも繋げない。
都合1速はシフトワイヤーに引き方向のテンションがかかる。よって1速に入れる時のグリップは重い。だから1速でクラッチを切ってアイドリングしているときは、レバーのツメが機能していないせいでグリップにテンションがかかったままとなる。グリップ位置が1速から外れないように、左手で位置をキープしていると手が疲れてくる。アイドリング後に発進しようとしたらグリップが戻ってしまっていてツメがハマらず空ぶかし、という経験を何度かした。ワイヤーの遊び調整でラクなポジションを探したが中々上手くいかない。ここもマイナスポイントだね。
それから混合給油仕様も面倒。給油後スタンドのレシートとにらめっこしながらエンジンオイルを足し、タンクをよくシェイクしなくてはならない。

続いて音。これは文句なくすごい良い音である!国内規制なんて無視だから当然なのかもしれないけど、見た目に似合わず50ccとは思えない低音の効いた獰猛なエキゾーストノートを出します。
「ばらんばらんばらん!ばイィィィん!」です。
遊び仲間のT課長のスズキ逆輸入原付も良い音しているが、やっぱり海外のバイクは気持ち良い音が多いのかな。
しかしOPTIMAで一番良い音がするのは、上述のホーンであることは言うまでもない。
走行中、
「うわ危ねー割り込みだ、こいつオレの存在に気づいていないらしい!どいてくれー、チリンチリン!
と鳴らしたところで、多分その音は自分にさえ聞こえない。もうこれは風鈴かなんかだと思った方が良い。夏に荒川土手あたりまでツーリングに出かけ、のどかな田園風景の中をのんびり走りながら、「あー暑いけど風が気持ちいいなあ、チリンチリン」というのが正しい使い方だろう。

乗り味は極めてビジネスバイクに近い。低速から非常によく粘り2速発進もできる。ハンドルグリップのギアシフトは、操作方法自体は案外すぐに慣れるので問題ない。2速しかないため速度にはあまり期待していなかったが、50km/hまで問題なく出るようだ。大体発進時のみ1速であとはほぼ2速固定、ほとんどギア操作必要なし。オートマに近い。今回アップダウンは走行していないのだが、登板能力がどれほどのものなのかは気がかりであった。

上記インプレは1回乗ったきりのものですので、慣れればもっと効率よく作業できるかもわかりません。あしからず。

4.むすび

そうそう、忘れてはいけない、モペッド最大の特徴があった。
「エンジンを切って漕いでも自転車のように乗れる!」
ところが私はそのことを忘れていたので試していない…ホントに走るのか?!
うろ覚えだけど日本の法律って、エンジンつきの乗り物は「エンジン切って、降りて押せば、歩行者扱い。それ以外の状態は自動車扱い」だった気がする。だからチャリンコとして乗りたくても、車道限定でヘルメット着用がマストなんじゃないかな?よく分からん。
モペッド自体は結構街中で見かけるけど、そういや漕いでいる人は見たことないよね。ザクコも見たことないと言っていた。
しかし、練習したけど乗りこなせず壁に激突して泣いた彼女は、たぶん1回か2回は漕いでいると思う。
ちなみに私が上記法律に詳しい理由は、バイク運転中に右左折したい信号が目の前で赤になった時に、よくエンジン切って歩いて堂々と押して渡るからだ。
すいません短気なDQNで…。

ということでSACHS完。
コメント (8)
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