人骨

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ブロンプトン内装3段モデルのギア比をカスタムする

2020年11月25日 | 自転車

久しぶりの投稿は自転車ネタである。最後に自転車のことを書いてからどれくらい経つであろうか。7年とか8年経ているかもしれない。当時の記事に登場した愉快な仲間たち…会社の同僚でブロンプトンオーナーのS君、BD-1オーナーのわが父親、いずれも元気に今でも同じ自転車に乗っている。私もそうだ。

2019年の12月、S君より久々にお誘いのメールが届いた。年が明けたら10年ぶりに荒川サイクリングをやろう、と。会社の同僚に1名新たなブロンプトンオーナーが現れたことを記念しての企画であった。そこで、実はその時点で数年間乗ることなく屋根裏に放置していたブロンプトンを、久しぶりに引っ張り出してきた。しばらくぶりに対面すると、自慢のローラッカー塗装のフレームは、塗膜の下に葉脈のようなサビが進行していた。後述のショップ曰く、それは希少モデルならではの「味」なので気にしなくて良いとのことだが、その後錆びた箇所のクリア塗装が徐々に剝がれてきて錆が表面化してきた。これをいちいちケミカルで除去し、クリアでタッチアップして補修している。ローラッカー塗装というのは、無塗装の素材にそのままクリアを吹き付けたと聞いていたので補修方法としては完璧だと思ったのに、サビ除去をした箇所は色が無機質なねずみ色に変わってしまった。「何味か」と聞かれればしょっぱいとしか言えない。
どうして放置していたかと言えば、いずれ本稿で紹介する機会もあるかもしれないが、「S君」&「わが父親」という私の自転車ライフを支配する2体の神による様々な相克を経て、私の手元にメジャーなクロスバイクであるGIANTのESCAPEが中古で無償で転がり込んできたため、自転車と言えば専らそればかり乗っていたからだ。
ともあれ、久しぶりのブロンプトン遠征に備えるため、正月休みを用い、バルブ根元で破けてしまっていると思われるチューブ交換など復活の儀式を行った後、新たな仲間である「H君」交えてブロンプトン3台で輪行サイクリングを敢行した。S君と私はお馴染みM3Lで、強脚ロード乗りのH君はM6Rだった。H君が私にとって3体目の神になろうとは、想像だにしなかった。

数年ぶりの出番と同時にいきなり輪行、これこそブロンプトンがブロンプトンたる所以であろう。購入時にBD-1とかなり迷いつつブロンプトンを選んだ私は、結果としてこの自転車をどれだけ多く列車内に持ち込んだであろうか。輪行ユーズを最優先した選択は間違っていなかったと、改めて思い返した。
そして恩恵と同時に否応なく思い返されたのが、唯一の短所、重たすぎるペダルであった。これがブロンプトンから遠ざかってクロスバイクばかり漕いでいたことの遠因でもある。
すなわち

1速:軽い巡航用(登坂用ではない)
2速:重い巡航用(ママチャリより重)
3速:踏めない(使い道なし)

このギア比は、信号と坂の多い日本の町、例えば都内区部(城東除く)や多摩、横浜・川崎の街をスポーティに軽いギアで漕ぐことを全く想定していない(そもそもブロンプトンは通勤用に開発されたらしい)。こいつが生まれた英国に行ったことはないが、かの島にはアビー・ロードのジャケットのような平地しかないのであろうか。あるいは英国人は全員強脚なのだろうか。

このような思いの中で迎えた2020年1月のサイクリング当日。特に深い意図もなく、H君からM6Rを借りて僅かに試乗した。
6速モデルは私の購入当時からラインナップされていたが、選択肢から外れていた。検討の折にS君が「しょせん折り畳み自転車、3速で十分、どこかで割り切らないと」と言ったため、自分の中のどこかに「ブロンプトンは3速モデルで十分で、6速はオーバースペック」という思い込みがあったからだ。こいつに今回初めて触ったのだ。別に特に何もそんな期待感などは微塵も無かったが、こいつをひと漕ぎした瞬間、私はまるで初めてビートルズを聴いた時みたいにぶったまげた。思わず声を上げた。

「まるきり別の自転車じゃないか!」

このM6はロー側の1、2速が非常に軽いため上述のようなギアへの不満が何もないのだ!ブロンプトンと言えばギアが重いのがダメだよね?と思い込んでいたのに、違ったのだ。もうさっそく今すぐにでも、私の自転車もかくありたいではないか。今すぐ改めるべきではないか。さっきブロンプトンを選択したのは正解だったと言い切ったばかりだが、実のところ真の正解はM6で、その次がBD-1であり、M3はまさかの残念賞だったのではないか?!

10年も昔の後悔は当然ながら先に立たず、是非もなし。であれば今更ながらカスタマイズに手を染めるしかないのか??

「カスタム致し方無しかー?!」

突如にして私はいきりたち、両名の面前で宣誓したのであった。

「ここに、私こと人骨の今年の目標は、マイ・ブロンプトンの多段化に定むることを、宣誓するッ!」

しかし私はあっけなく宣誓を破り、多段化ではなく3速のままでレシオ変更、すなわちギアを軽くする道を選んだ。両名とも私の宣誓をおそらく覚えていないから構うまい。理由は単純で6速化が10万円コースだったからだ。
それなら最初っから6速にしておけば良かったじゃないかと思われるかもしれないが、そんなことはない!M3だけのメリットがあるじゃないか、それはッ!
M6より200g軽いことくらいか。
購入時に、ちゃんと試乗して、M6にしておけば良かった。

気を取り直して、数年ぶりにブロンプトンに関する情報収集を行ったところ、こちらのページがたいへん参考になった。

リンク先の表からも分かるだろうが、競合種のBD-1(改め現在では「Birdy」に統一されていることを知ったよ)は一般的なロードバイク同様9速のコンポーネントを積んでいる。これと比べればブロンプトン3速モデルのギア比設定はさながら通勤型ではなく近郊型電車の様相である。重たいと感じるのはスペックからも明らかである。
私のM3Lは購入時のままのフロント50Tリア13Tというノーマル仕様である。普段1、2速しか使っておらず、2速をトップギアに固定しても運用には特に支障あるまい。3速は「下り坂で、敢えて漕ぐ」シチュエーションでしか使わない。その頻度が低いばかりか、現実にはその反対のシチュエーション、すなわち「上り坂で、1速よりも軽い0速が欲しい」に遭遇する頻度の方が遥かに高い。したがって、私がこの自転車に求めていることを端的に喩えれば、1-2-3速を、0-1-2速化することと言える。ノーマル2速と全く同じペダル重さを、3速ギアの位置に、何らかの方法でスライドさせることを目標に据えれば、最適な解が導き出されるのではなかろうか?
3速モデルの1-3速の変速割合は「0.75:1.00:1.33」なので、「1段上がるごとに4/3倍にUP、1段下がるごとに3/4倍にDOWN」という等倍変化をする。つまりノーマル2速のペダル重を新3速の位置にスライドさせた場合、ノーマル1速のペダル重は理論上新2速の位置にそのままスライドするはずだ。そして「ノーマル0速」すなわちノーマル1速×3/4倍相応のペダル重が「新1速」として出現するはずだ。このようなギア比の計算方法にはこれまで全く知見が無かったものの、上のリンク先を参考に、当たらずとも遠からずだろうという計算式を以下に考えてみた。「m」はクランクひと漕ぎあたり移動距離(メートル)であり、全て0.75:1.00:1.33の比率(計算上、もう少し詳細な値を用いている)だ。

 

F歯数 1速m 2速m 3速m
50.00 3.82 5.09 6.78
44.00 3.37 4.48 5.97
40.00 3.06 4.07 5.42
37.14 2.84 3.78 5.04

最も左の列はフロントスプロケット(自転車ではチェーンリングと言うらしいので、以降そう呼ぶ)の丁数を表している。ブロンプトンに設定されているチェーンリング丁数は純正で54T、50T44Tの3種類と、社外品で40Tがある。54Tは検討する意味が無いので割愛。39Tや38Tの汎用チェーンリングもあるらしいが、適合調査が面倒なので割愛した(が、調査価値はありそうだ)。
4行目に書いた37.14というのは、実際には40Tを用いているが、リアのスプロケ(自転車ではコグとも言うらしい)をノーマルの13Tから1丁上げて14Tに交換した場合における換算値である。上のリンク先サイトでは、「チェーンリングを40Tに換装すれば軽い方に1段ギアが増えて良い」、とあるが、これは外装2段ギアを装備したM6の結論としてはもっともであるが、M3の結論としてはもうひと押し必要なわけで、これがリアスプロケの歯数変更となる。
こうして換算37.14にすれば3速でのひと漕ぎが5.04mとなり、ノーマル50Tの2速の5.09mとほぼ同一値になるため、純正2速のペダル重さを3速に割り当てられたことになる。1速の重さは出たとこ勝負で2.84mという値となったが、上のリンク先で照合すれば悪くない値だ。これで「軽い方に1段ギアが増え」たことになる。実現すれば、無用の長物だった3速が生まれ変わって完全に常用域に変わり、加えてスポーツバイクのように軽い新たな1速が得られることになる。川沿いサイクリングロードよりも、沖積面から台地、丘陵地を交互にせわしなく駆け巡る(らざるを得ない)私のポタリングスタイルに相応しい解が、理論上、導き出されたのではなかろうか。これ以上軽くしてはトップギアが軽すぎになるため、私の2020年度カスタム目標はここに確定した。
3速のままで、フロント40Tリア14Tだ。
(これは余談だが、東京は坂が多いというよりも沖積面と台地が入り組んだ地形であることを、皆もっと知っておくべきと思う。「下町」「山の手」というのはそういう意味だ。地形をよく読めば、坂道を避けて目的地に着くことが可能な場合もしばしばある。)

その第一歩としてまずクランクの交換が必要となったのだが、DIYが身上ながらこれはショップに頼んでしまった。2020年7月のことである。その理由や如何に。

実は上記計画に先立って、新たな神H君からの情報提供に基づき、内装5速ギアを用いた多段化計画が発動しており、その実行寸前まで至っていた。具体的には、純正内装3速ハブの供給元であるスターメー・アーチャー社による「内装5速ハブ」が別途製品化されているので、これにスワッピングするというものであった。
しかし私には独力でハブの交換、すなわちスポークを組む自信が無かったため、5速化スワップはショップに依頼することが妥当と考えた。そこで同商品の販売ならびに取付けを扱っているショップ宛にWEBオーダーフォーム入力にて改造の注文をしたのだ(4万円コースであった)。ところが想定外なことに翌日に「当該改造をお勧めしません」という趣旨のお電話(返信メールではなく)を頂いてしまった。初めは「ならば何故にwebに掲載しているのか」という疑念を抱いたが、その際の電話対応の丁寧さと、質疑応答における見識・経験の豊富さに逆にすっかり感服してしまい、好感と信頼感を持った(例の6速化が10万コースであること、その理由なども併せて丁寧に教えてくれた)。そこで以下に示した「ショップからの提案」に従って、当初の多段化計画を上述のレシオ変更計画へと練り直すとともに、その第一歩となる「クランク交換作業」をお願いしてしまったのだ。
なお、内装5段は製品精度に疑問符ありとのこと。ギアチェンジがシビアすぎるほか、走行中に勝手に変速するなど、始末が悪いらしい。取扱いはしているがクレームも多いため、「どうしてもやりたいならやるが、結果は自己責任で」とのことであった。私はそれを聞いて諦めた。お勧めしない内装5段のHP掲載の継続の真意は、ショップにとってはこれで1名客が増えたわけなので、「撒き餌」ということで納得がいった。

多段化に代わる提案は、順を追うと次のようなものであった。

  • ブロンプトンは2013年(?)の仕様変更によりクランクとチェーンリングが別体式の「スパイダークランク」を導入した
  • 私の個体は旧式の「チェーンリング一体式クランク」のため、丁数を自由に変えるためにまずは「スパイダークランク」へ換装することが必須
  • 2012年(?)の仕様変更ではチェーンの太さが細身のものに換えられていることから、旧式のクランク周りと併せて「チェーン」そのものと「リアスプロケット」も同時に交換が必要
  • 「44Tチェーンリングがセットされたスパイダークランク」を純正パーツで取寄せできるので、まずはそこから試してみては如何か?
  • 何故なら多くのお客様がフロント44T化だけで十分幸せと言うので、ひとまずそれを味わっていただき、お好みでその先をご自由にされてはどうか?

私にしては珍しく「多くのお客様が」というこの日本人らしい提案を受け入れ、ショップへの好感と信頼感に身を任せ、言われた通りにすることとした。工賃部品代込みで2万円程度で交換作業をお願いするとともに、同じく言われた通りひとまず「44T化のみ」仕様を味わってみることにした(なお、正式発注後にボトムブラケットまで要交換だったことが判明したそうで、なんとそこを無償でやって貰えたので、かなり嬉しい)。

 


純正44T換装後のクランク。左の旧純正50Tと比べると随分小さい

フロント44T化した結果は、果たして従来に比べればえらく乗りやすくなった!上述した「ひと漕ぎあたりの移動距離の計算式」2行目相当となり、この変化だけでもかなり新鮮だ。嬉々としてショップから自宅まで漕いで帰った。
これで幸せかどうか。確かに50Tより遥かに幸せだ。だが計算式で導き出した理論上の最適解は44Tでなく37.14Tだった。新鮮さゆえにいま嬉しいのだろうが、やはり理論の追求が私にとって幸福の条件ではなかろうか。仮に理論値と感覚値が異なる結果になったとしても、試さずにはいられようか。私は改造後2週間も待たずそのことを確信し、再度ショップを訪ね40T、14Tの各パーツを発注した。
そこから先の作業は満を持してDIYで十分だろう、パーツ注文のみである。DIYならいざとなれば(気に入らなければ)自分で元に戻すこともできる。ここはしたたかに、確実に幸せを狙いたい。
44T化のインプレは改めて後に述べる。

40Tチェーンリングは純正設定が無く社外品のみだが、このショップで1万円弱で在庫として扱っていた。歯1枚の価格としては高杉に思えるが、こいつはチェーンガードが特殊なのだ。純正チェーンリングが「金属製チェーンリングにプラ製のチェーンガードをネジ留め」という仕様のところ、こちらは「チェーンリングとチェーンガードが全て一体成形された金属」という手の込んだ歯であるゆえ、高いのだろう。スパイダークランクの恩恵により交換作業はリング部分だけを換えれば良いので、何ら難はあるまい。
ところがリア14Tスプロケ(こちらはわずか1,000円程度)が国内在庫切れで海外取寄せ扱いとなり、こいつがコロナのせいでいつ入荷するか全く見込みが立たないと言う。
先行してチェーンリングだけ40Tに換えてしまうとチェーンのコマを詰めるか詰めないかの瀬戸際となるため(面倒なので詰めたくない)、時間を犠牲にしてでもリア14Tと同時交換するものと決めた。それを待つこと約4ヵ月、途中で催促したところ「実はまさかのメーカー生産中止だったため、代わってスターメー・アーチャー社へ照会と取寄せを試みている」などと紆余曲折し、このたびようやくリア14Tが入荷したため、晴れて40Tとセットで交換したのが、現在地である。

 


40Tならびに、めっちゃ待たされた14T

 


チェーンリングはヘックスねじ5本外せば交換可能

 


リアスプロケは普通にタイヤを外した後にCリング1枚外せば交換可能

ところで納品待ちの4か月の間、フロント44Tのみで散々乗り回した。50Tと比べれば、散々乗りまわせるくらいの改善があったからだ。しかしやはり3速の出番は多くはなく(下りではない平地で使える機会が多少現れた)、上り坂での1速も前よりはるかにマシにはなったものの、まだまだ登板ギアとしては頼りない。多摩の横山を横切ろうとでもすれば山々が私にこう語りかけてきた。

「多摩丘陵は伊達じゃない!!」

「44Tの改造努力など無駄無駄ァ!!!」

自分の好みが「多くの人が幸せになれる」パターンから外れていることを知ったし、事前に思い描いた幸福にブレが無いことも証明されたので、ある意味で貴重な4か月間であった。
そもそも自転車で原付の制限速度を超えて走るのは危ない。むかし人を轢いた自分はそこだけは慎重だ。しつこいようだが重いギアは要らない。

完成した新生M3Lのインプレッションについては、希望通りのギア比を手に入れたこともあって満足以外の何物でもない。まさに1-2-3速が0-1-2速になったわけであって、理論上の最適解が間違いなく私の幸福値であった。多摩丘陵の比高差20m程度の緩い坂道ならば、0速で座ったまま漕ぎ抜くことも可能だ。多摩の横山も名台詞を吐くことなく大人しく私を受け入れてくれるし、サイクリングロードを全開で走っても30km/h出ないが特に不満は無い。
要するにブロンプトンは遅くて良い。

ただし、幸福は人それぞれであり、例えばS君などはM3Lのノーマルギア比に何の不満も感じていない。私はブロンプトンの3速仕様が悪だと言っているのではなく、私の使い方~サイクリングロードではない、坂がちの一般道を、どっしり座ることなく、クルクル漕ぎたい~に合わせ、市販品を用いた部品交換の範囲で個人の幸福を追求しただけであることを、最後に申し添えたい。

内装3速モデルユーザーで、ギアが重いと感じ改善を企んでいる方や、これから新たにブロンプトンオーナーになるも3速か6速で迷っている方などは、色々とネットで情報収集するでしょうから、私の経験がその一助となることを祈念して、筆を置きます。

 


H&Hというブランドの40Tチェーンリング