学生時代ぼくはブラスバンドをやっていたことがある。もっとも音楽好きを自認するぼくだがラッパを吹くのが大嫌いで(いや、プレーヤーとしてのあらゆる楽器演奏そのものが実はあまり好きではないのかも)、楽しかった記憶といえば自作曲をブラバンに編曲し指揮を取ったなんていう生意気な経験くらいである。
最近ぼくは今さらながら、いやプログレファンであることを鑑みれば順当な道のりかもしれないが、70年代のハードロックを聴き漁っている。といっても結構深く掘り下げる性格の自分はいまだにパープルやサバスをよーく聴いていると状況なのだが、そんな中で出会ったのがユーライア・ヒープ。出会わざるを得ない相手であろう。
ユーライア・ヒープと言えばアルバム「Look at yourself」(邦題:「対自核」←意味不明だが時代の雰囲気が出ていてよいと思う)が一般的な代表作なワケであるが、同じ5人編成で楽器パートも同様のパープルと比較した場合は当盤をもってしても今ひとつ冴えない。リヴァイヴァルとなるような様子も全くなく、ショップでは国内盤が見当たらない。もしかしたら廃盤なのではないかと思う。しかしEU盤が最近多数のボーナストラックを含んでブックレットもやたらと立派にリイシューされたので(当国では評価が高いのかな)、既に米Mercury盤で持っていた「対自核」それから「Demons and Wizards」の2枚を含め、EU盤で買いなおしてみた。この際新たにファーストとセカンドも購入してみた。今回はこのユーライア・ヒープのセカンドアルバムである「Salisbury」(ソールズベリー)について語ってみたいと思う。
「ソールズベリー」のジャケット
タイトルは有名な寺院があるイギリスの地名だが、そんなことはよく分からないので、純粋に音について語りたい。
世間にはぼくと同じように往年のHRのいちバンドとしてヒープに出会う方が多いのではなかろうか。そしてパープル風のサウンドを期待して肩透かしを食らうのではないかと思う。ぼくがまさにそうだった。確かに「対自核」あたりはHRの名盤として語り継がれるに足る出来だと思うのだが、それ以外はというとストイックなHRのイメージとはかけ離れている。特にこの2枚目の「ソールズベリー」(1970)に、パープルの「イン・ロック」を期待するような気持ちで接した人は「ウヘ~、こりゃナニ?」って気持ちになってしまうだろう。
別にぼくがこんな日記に書いたところでこれからヒープに接する人の誰かが見てくれるワケでも無いのだが、もしそんなぼくみたいな「URIAH HEEP」=「ハードロックの代表的バンド」と思って聴いてみようという方が居たならば、是非是非ぼくのつぶやきに耳を傾けて欲しい。
ヒープにパープルを期待するなかれ。むしろクリムゾンだと思って聴いたら良いと思う、特にこのセカンドアルバムといったら!
冒頭でブラスバンドの話をしたが、正確には「ブラスバンド」ってのは、金管楽器のみの編成を指すらしい。よって木管楽器たるフルートやクラリネット、サキソフォンまでラインナップしている一般の「吹奏楽」というのは、「ウインドオーケストラ」と訳すのが正しいらしい。詳しいことはよく分からないけど、ブラバン≒ウインドオーケストラなワケだ。
で、このヒープのセカンド「ソールズベリー」には、ヘヴィな3曲、キーボードのケン・ヘンズレーによる牧歌的な2曲(この2曲、HRバンドというくくりでかかってしまってはまったくもって理解しがたいことになるだろう)、それから16分に及ぶ終曲=タイトルナンバーという構成なのだが、この終曲は完全にプログレのノリなのだ。おまけになにをやらかしたかというと、まさにその「ウインドオーケストラ」、っていうかみんながいわゆる「ブラバン」と呼んでいるモノとの共演なのである!オーケストラとの共演といえばパープルのロイヤルフィルハーモニックとかELP四部作とかルネッサンスとか、その他色々やっているわけだが、ブラバンとの共演による「プログレッシブ・ハード・ロック」(←プログレでもなくHRでもない、既になんとも中途半端な区分である)なんていうのは他では聴いたことがなかった。
だってブラバンですよ!まがいなりにもハードロックのバンドが、ブラバンと共演?!もう聴いただけで心配になると思いますが、なのに期待して聴いてしまったぼくは、「うわッ!こりゃダメダ!」と叫んだわけです。
「♪ぱららーっ!ぱららーっ♪」っていうヤケにリバーヴの効いたラッパの咆哮に乗せて始まるこのタイトルナンバー「Salisbury」、一聴して「こりゃおしまいだ、好きになれっこない…」と思ったのです。だってジャケットを見てくださいよ。戦車のバックにボカーンと火の球…。どう見てもガンガン来るHRのノリじゃあありませんか?!(米盤とはジャケットや曲目が違うよ。今回のEU盤はそれらも全て網羅!)
ところが明らかに「21世紀の精神異常者」をパクったな、というジャジーなリズムを含め、「ヒープは全くハードロックではない」という頭に切り替えて対峙してみると、これが途端に秀作に化けます。クリムゾンだと思って聴いてみてはどうかというのは、そういうことです。おそらく日本でのデビュー盤となったサードアルバム「対自核」のイメージが強すぎるから、ヒープをハードロックと思ってかかってしまい、このアルバムを聴いた時にうわっ恥ずかしい!ってことになってしまうのではなかろうか?ファースト収録の「ジプシー」を聴けば確かにハードかつプログレッシブなこのバンドの両極面がおいしく混ざり合っているけど、全体的にどっちかというとこのバンドはプログレ指向の方が強い気がします。それでいてヒープにはプログレの重大要素のひとつともいえる「クラシカルな素養」を持つメンバーが居なかった。ケン・ヘンズレーは「7月の朝」みたいに何の変哲もないコードの3和音を平気でアルペジオで弾いてしまう能天気なプレーヤーだ。親しみやすいものの、キース・エマーソンに聴きなれた耳には今ひとつ稚拙に映ってしまう。ジョン・ロードのようないぶし銀的シブさも無いし、トニー・バンクスのような叙情性も無い。ヘンズレーはひたすら能天気。
だけど、この16分の大作は能天気ながら、立派なプログレですよ!ブラスバンドと共演したプログレって発想になれば、途端に萌えまくりっす。まあ確かにタルカスのような複雑さもなければ、キーボードのテクニックも今ひとつだし、叙情性にも乏しい。デヴィッド・バイロンの雄叫びだけがハードな感じだ。このどっちつかず感が、ハード「でもなく」プログレ「でもない」ユーライア・ヒープのイメージになっちゃったんだろうか。自分みたいに両方のジャンルを好んで聴ける寛大なロックヲタ系(結構多いと思うけど)には比較的すんなり入れると思うけど、どちらかだけが好きな人にはダメなんだろうね。次作以降大人しめになってしまうミック・ボックスのギターソロが、何度も繰り返すうえ妙に攻めてるところは聴き所でしょうか。バイロンのボーカルは中々良い。イアン・ギランと比べて、シャウトにそれほどの迫力はないが、引けを取らない無茶な超ハイトーン・スクリーミング。このスクリーミングにはギランより余裕が感じられれ、かなりの存在感をアピール。代わりに緊張感にはチョット欠けるかな…。オーヴァーダブのハーモニーも秀麗、クイーンがヒープのコーラスを参考にしたというのも頷ける。どうでも良いが、史上最強のスクリーミングヴォイスの持ち主は、ロブ・ハルフォードも確かにスゴイが、実はクイーンのロジャー・テイラーではないかと最近思う…。
とにかくプログレもHRも好きならば、このソールズベリーです!HR専門の方にはショボショボだし、完全なプログレファンには稚拙に映るだろうが、「足して2で割る」ならぬ「足して2倍に薄めた」ような出来映えは中々悪くありません!そして買うなら絶対豪華なEU盤。ブックレットの中でメンバーのヘンズレーが2002年くらいの後日談として、こんなふうに語っていました。
「どうでも良いけどあのジャケットは最悪だった」
いけないのは中身の音楽じゃなくて、外側のジャケットのせいで誤解を生んだのだと言いたかったのか、あるいは改めて聴きなおしたらさすがに「我ながらヤバい!」と思ってそう言い訳したのかどうかは分かりませんが、とりあえずジャケットからは想像も着かないような、能天気なマイナーキーのブラスバンド・ロックです。16分間の拷問は、3回聴いたら快感に化けて病み付きになりましたよこのぼくは。
ぱららーっ、ぱららーっ!