原題:『生きててごめんなさい』
監督:山口健人
脚本:山口健人/山科有於良
撮影:石塚将巳
出演:黒羽麻璃央/穂志もえか/松井玲奈/安井順平/冨手麻妙/八木アリサ/飯島寛騎
2023年/日本
奇妙なアナロジーについて
主人公で出版社の編集部に勤める園田修一が清川莉奈と最初に出会う場所は莉奈が働く居酒屋で、恋人の有栖川麻里亜と喧嘩をしている最中の神宮寺葵の注文したサワーの種類を間違い、さらに麻里亜の服をサワーで濡らしてしまったことに叱責された莉奈が逆切れしてカニの脚を神宮寺に投げつけて大騒動になったのである。修一は行き場所が無い莉奈を背負って自分が住むアパートに連れて帰ったことをきっかけに同棲を始めるのである。
出版社に勤めながら修一は小説家になることを夢みているのだが、なかなか執筆ははかどらず、同僚のミスをカヴァーすることで手一杯の状態なのだが、莉奈は自分のエキセントリックさが好きになれず、しばらくは大人しく暮らしているものの、たまたま修一の仕事場に顔を出したことで修一と一緒に仕事をすることになる。莉奈の「個性」が見逃されるはずもなく、やがて修一が公園の遊具のメンテナンスの仕事を始めることとは裏腹に莉奈の方が作家として活動することになり形勢は逆転してしまうのである。
ストーリーは悪くはないものの、誰も気がつかないようなことを書いておきたい。修一は仕事に追われて2021年5月11日に催される彼が尊敬している作家の多和田彰の講演会に間に合わず、行った時にはもう終わっていたのであるが、偶然高校の先輩だった相澤今日子と再会する。今日子は大手出版社の編集者で多和田彰の担当だったのである。2人で飲んでいると修一のスマホにメールが来て、スマホには「5月25日」と表示されていたから、二人は日を改めて飲んでいるのかと思ったら、帰宅した修一と莉奈の会話から、どうやら多和田彰の講演会があった日の晩なのである。その上、スマホの「5月25日」は曜日から2021年ではなく2022年のようで、どうせ観客に気が付かれないと思って適当にしている演出が個人的には好きになれない。
と、ここで書き終わるつもりだったのだが、そう言えば今日子が勤める大手出版社が開催している新人賞の締切日である6月30日に修一は小説を書き終えることができず、7月1日になって今日子に見てもらおうと原稿を持っていくのだが、今日子に見せた原稿はそもそもページの並びがデタラメで、締め切りも守れなかった修一は叱責されてしまうのである。最初にこのシーンを見た時には自分が書いた原稿のページを正確に並べない人など存在するだろうかと思ったのだが、もしかしたらこのシーンと、日付がデタラメの本作はアナロジーで、修一の作家失格が山口健人監督の映画監督失格を暗示しているのかもしれないと思い至ったのであるが、それは山口監督の次回作を見なければ判断のしようがないのである。
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