MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『スパイの妻』

2020-12-10 00:59:30 | goo映画レビュー

原題:『スパイの妻』
監督:黒沢清
脚本:黒沢清/濱口竜介/野原位
撮影:佐々木達之介
出演:蒼井優/高橋一生/坂東龍汰/恒松祐里/みのすけ/玄理/東出昌大/笹野高史
2020年/日本

「真骨頂」の「デタラメさ」について

 全く訳の分からない作品だと思う。例えば、主人公で福原物産を経営する福原優作が仕事相手のイギリス人のドラモンドはただの商人なのかスパイなのか、旅館「たちばな」にこもって竹下文雄が満州の関東軍の細菌兵器の人体実験のノートを英訳し、優作の妻の聡子はその原本を津森泰治に渡してしまうのだがそもそも原本と英訳は同一のものと見なせるのか、聡子が優作の会社の倉庫から盗んだフィルムを憲兵分隊本部で映写されると聡子が「女スパイ」だったという証拠が映っているのだが、「人体実験」が映った映像のように何故誰も本気にしないのか、狂ってはいない聡子が何故精神病院に入院しているのか、そもそも「スパイの妻」とはスパイの夫を持った妻なのか、スパイである妻なのか、このように全てがデタラメのように見えてくるのだが、「デタラメ」こそが黒沢監督の「真骨頂」なのである。
 だから第77回ヴェネツィア国際映画祭で「銀獅子賞」を獲得した監督にNHKが独占インタヴューをしており、NHKが製作に関わっている関係上断れなかったのであろうが、戦争時の日本の国家機密を巡るテーマについて訊きたがるインタビュアー(武田”真”一アナウンサー)に対して、ずっと映像の妙を追求していただけでそれほど「日本社会の暗部」に興味が無さそうな監督の困り顔が笑えた。黒沢監督の全ての作品を観たわけではないが、本作がベスト、あるいは一番わかりやすいと思う。
 作品内では小林千代子が歌っていた「かりそめの恋」の原曲、キャスリン・グレイソンとハワード・キールが歌う「メイク・ビリーブ」を和訳しておく。

「Make Believe」 Howard Keel & Kathryn Grayson 日本語訳

僕は君を愛しているという振りをすればいいんだ
君が僕を愛しているという振りをすればいいんだ
他の人たちはそのように装おうことで安寧を見つけるのさ
君にはできそうかな?
僕にできるかな?
僕たちにできるだろうか?
見せかけのキスを二度三度交わし合いながら
僕たちの唇が交じり合うように装ってみるんだ
当たり前のように僕が君を愛している振りをして
本当のことを言うために
僕はそうするんだ

正しいかりそめのゲームは
私が知るゲームの中で最も楽しいもの
私たちが見る夢は
私たちが見る世界以上にロマンチックなものなのよ

もしも僕たちが夢見ることが
その通りに起こらなくても
それは大して重要ではない専門的なことなんだ

あなたと私は決して出会えないという
冷たく厳しい現実が存在するけれども
私たちは慣習的な作法など気にする必要はない
もしも私たちの考えを実践に移すならば
私たちは全ての後悔を追い出せる
私たちがいつも選ぶものを想像しながら
私があなたを愛しているという振りをすればいいのよ
あなたが私を愛しているという振りをすればいいのよ

他の人たちはそのように装おうことで安寧を見つけるのさ
君にはできそうかな?
僕にできるかな?
僕たちにできるだろうか?
見せかけのキスを二度三度交わし合いながら
僕たちの唇が交じり合うように装ってみるんだ
当たり前のように僕が君を愛している振りをして
本当のことを言うために
僕はそうするんだ

Howard Keel & Kathryn Grayson, "Make Believe" from "Show Boat" (1951)


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