MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『朝が来る』

2020-12-08 00:59:30 | goo映画レビュー

原題:『朝が来る』
監督:河瀬直美
脚本:河瀬直美/高橋泉
撮影:河瀬直美/月永雄太/榊原直記
出演:永作博美/井浦新/蒔田彩珠/浅田美代子/佐藤令旺/田中偉登/中島ひろ子/利重剛
2020年/日本

若すぎる「生みの親」の苦悩について

 作品の前半は無精子症が原因で子供ができない主人公の栗原清和(昭和50年生まれ)と佐都子夫妻が偶然旅行先の宿泊所のテレビで目にした『ベビーバトン』という「特別養子縁組」を斡旋している法人を知り、団体がある広島県を訪れ、生まれたばかりの男の子を授かり「朝斗」と名づけて育てることになってから6年が経っているから2019年頃であろう。幼稚園で朝斗が友達をジャングルジムから落としたという「事件」を巡る「養父母」としての葛藤が描かれるのだが、それはただ血のつながりが無いという問題だけではなく、高層マンションの30階に住んでいる栗原家とその「階下」に住む住民との「経済格差」も微妙に絡んでくる。
 しかし本作のメインは栗原家族よりも朝斗に元々「ちび太」と名づけていた産みの母親で、当時中学生だった片倉ひかりの方だと思う。ひかりが交際相手の麻生巧との間に子供を作ってしまった原因は、片倉家において学業が優秀で大学(京都大学?)に進学することになる姉の美咲に比べられて劣等感に苛まれていた寂しさによるものだと思うが、中学生で妊娠、出産したことでさらに両親のみならず親戚からも冷ややかな視線を浴びせられるひかりは再び広島に行って『ベビーバトン』で働かせてもらえるように頼むのだが主催者の浅見静恵は『ベビーバトン』を閉めることにしていた。
 その後ひかりは栗原家の近所の新聞販売所で働き始めるのだが、そこで知り合ったトモカによって無断で連帯保証人にさせられており、ひかりが借金取りに完済するのだが、それは新聞販売所から盗んだお金だった。
 作品冒頭から栗原家に電話をかけている女性がおり、それは当初は『ベビーバトン』でひかりと同室だったコノミなのか、あるいはトモカなのか観客にはよく分からないのだが、実はひかり本人で、ここまでのミスリーディングは上手いと思う。
 栗原家を訪れたひかりは清和と佐都子に対して子供を返すか、代わりにお金を払うか「脅迫」するものの、朝斗をもらい受ける際に面会したはずのひかりを清和と佐都子は認識できず、誰なのかと詰問するのだが、それは6年前のひかりと全く外見が変わってしまっていたからで、それだけ苦労してきたのだが、ひかりにしてみたら2人がとぼけていると思ったのだと思う。その後、6年前にひかりから渡された手紙を読んでいた佐都子が筆記の跡に気が付き鉛筆で擦ってみると「なかったことにしないで」という文字が浮き上がる。手紙をチェックしているはずの両親に気がつかれないように書き添えたその「魂の叫び」は、佐都子の方から働きかけなければひかりは救われないという暗喩であろう。
 おそらく新聞販売所から被害届が出されて捜索していた警察によって佐都子は女性がひかり本人だと分かり、幸運にも歩道橋に佇んでいるひかりを見つけることができたのである。
 アップとハンディカメラの多用により画が重めで酔いそうになるが、河瀬直美監督作品のベストだと思う。


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