現在、Bunkamuraザ・ミュージアムでは『みんなのミュシャ』が催されるているのだが、本作の特徴はアルフォンス・ミュシャ(Alphonse Mucha)の作品そのものよりも、ミュシャに影響されたアーティストや作品を紹介しているところにある。
例えば、1900年前後の10年間のパリにおける活動でミュシャはアール・ヌーヴォーの礎を築いたのであるが、それは1960年代のアメリカのヒッピーたちに決定的な影響をもたらす。ダイアナ・ロスとザ・スプリームズ(Diana Ross & the Supremes)が1969年にリリースした『レット・ザ・サンシャイン・イン(Let the Sunshine In)』のアルバム・ジャケットはディーン・トレンス/キティ―ホーク・グラフィックス(Dean Torrence / Kittyhawk Graphics)によってなされたものだが、ミュシャの作品と言われても違和感がない。
日本におけるミュシャの受容は1901年の藤島武二(1867年-1943年)による与謝野晶子著『みだれ髪』の表紙装画が嚆矢といって良いと思う。
しかし日本には日本画や浮世絵を基礎とした竹久夢二(1884年-1934年)から中原淳一(1913年-1983年)に繋がる日本の美人画(夢二式美人)が存在し、やがてミュシャの流れと大正ロマンの流れが複雑に絡まっていくのである。
(『黒船屋』 竹久夢二 1919年)