原題:『背後の人』
監督:八木美津雄
脚本:津久田一正/八木美津雄
撮影:平瀬静雄
出演:池部良/八木昌子/桑野みゆき/岡田英次/路加奈子/小沢栄太郎/清村耕次/金井大
1965年/日本
背後に見える「人」について
主人公で著述業を営んでいる志戸芳雄は雅代と結婚していたのだが、空襲で妻を失い本人も負傷し終戦後20年を過ぎても砲弾の破片を摘出する手術をしている状態だった。病院で出会った看護婦の井浦水奈子に交際を申し込むのだが、水奈子にクリスマスイブまで待って欲しいと言われる。そんな時いつも彼女と一緒にいる看護師の泉田正明の存在が気になり始める。
水奈子の同僚の緒方路子から泉田の情報を仕入れて調査していくうちに、ついに泉田が井浦市太郎という水奈子の兄であることがわかる。市太郎は北九州で15年前に黒人米兵を殺害した容疑で死刑にされることから逃れるために全国を回って逃走を図っていたのである。
芳雄は市太郎を助けようとしたのであるが、15年も逃走を続けている市太郎はもはや誰も信用できなくなっていた。せっかく見つけた住み込みの仕事も体を壊して一日でクビになってしまい、結局、市太郎は時効の3日前に亡くなってしまうのである。
戦後20年経っても肉体的に苦しむ芳雄や、精神的に苦しむ市太郎を尻目に実業家の沢田繁次郎はベトナム戦争の特需で夜ごとパーティー三昧で彼の伝記を書いている芳雄は、ただ兄の遺骨を抱えて去っていく水奈子を見送るしかないのであるが、このラストシーンは『第三の男』(キャロル・リード監督 1949年)のラストシーンの「変奏」なのかもしれない。芳雄が水奈子の背後に市太郎を見ていたが今は十字架が見えると言うのも日本人がキリスト教に頼るという皮肉なのかもしれない。
本作は1950年に起こった小倉黒人米兵集団脱走事件をモチーフにしたものだが惜しむらくはカレンダーが昭和41年なのか昭和39年なのかはっきりしていなかったところである。