原題:『燃える大陸』
監督:西村昭五郎
脚本:小川英/蘇武道夫
撮影:安藤庄平
出演:渡哲也/松原智恵子/赤座美代子/ケン・サンダース/久万里由香/山内明/岡田眞澄
1968年/日本
愛されるプレッシャーについて
モダンアートの全盛時代に乗じて主人公でイラストレーターの磯村敬一は女体にペインティングしたりなど奇抜なアイデアで売れていたのであるが、心の底では本人は満足していない。実は自分の才能に限界を感じていた敏一はレミー・マルタンのラベルのデザインを丸写ししたりして作品を仕上げていたのである。
そんな時に、松坂屋から「荒野」をテーマに作品の依頼が来て、オーストラリアの大地にインスピレーションを得た敬一は自費でシドニーへ渡航するのであるが、結局、作品を仕上げることはできなかったのである。
そもそも敬一がイラストレーターになった理由は、かつて学生ボクシングで活躍していたもののライバルの岡部に敗れたためなのだが、次のオリンピックの金メダリストとして有望だった岡部はそのプレッシャーを苦にして自殺してしまったのである。
敬一の作品にダメ出ししたヒロインの矢代冴子も自分の競走馬である「イサハヤ」が地元のレースに出場するためにオーストラリアに来ていたのであるが、イサハヤは先頭でゴールする直前で脚を骨折してしまい、安楽死の憂き目に遭う。
同じ頃、ダニーという青年が男たちに無理やり車に乗せられそうになっていた恋人のティナを救うために割れたビンで男の一人の腹部を刺して殺してしまう。逃走中に敬一がダニーを見つけて説得してシドニーに戻ろうとした矢先にダニーに石で頭部を殴られて敬一の車に乗って逃げられるのであるが、ティナが嘘をついてまで逃がそうとしたダニーは結局、警察に捕まってしまうのである。
これらのエピソードで分かることは、愛されれば愛されるほど生き物はプレッシャーに押しつぶされてしまうという現実である。敬一とケネスに挟まれて思い悩んだ冴子が自動車事故で亡くなった原因がここにある。
もう一つ見逃してはいけないこととしてダニーとティナがアボリジニーで、だから白人たちに襲われたのであろうが、それがはっきりと明示されていないのは本作がオーストラリアの協力を得ているからであろうし、それ故にダニーに殺された男もオーストラリア人ではなくイタリア人の漁師と設定したのだと思う。
英語のセリフが多いにも関わらず字幕が全くついていないというのは珍しい。