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MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『市民』

2017-07-24 00:46:53 | goo映画レビュー

原題:『Az állampolgár』 英題:『The Citizen』
監督:ローランド・ヴラニク
脚本:ローランド・ヴラニク/イヴァン・サボー
撮影:イムレ・ユハース
出演:マルセロ・カケ=ベリ/アーグネシュ・マール/アルガワン・シェラキ
2016年/ハンガリー
(SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2017 審査員特別賞)

「難民」という概念を覆す作品について

 政治移民としてアフリカからハンガリーに移住してきた55歳の主人公のウィルソン・ウガベは市民権取得のためにハンガリー憲法の試験を受けているのであるが、今回も失敗してしまい、口論の末に試験官から1年後に再度受けるように助言され、そんな経緯から警備会社の勤務先から試験対策の家庭教師として紹介された同世代のマリ・ペトロヴィッチにハンガリーの歴史全般を教えてもらうことになる。
 ウィルソンのルームメイトが急に立ち去った後に、若いイラン人のシリン・ファルザディがそのルームメイトを頼ってウィルソンの家にやって来る。最初は断ろうとするのであるが、ウィルソン自身が自国のギニアビサウ共和国の内戦で妻を亡くし2人の娘も行方不明のままだったこともあり、不法滞在の上に身重のシリンを放っておくわけにはいかず、匿うことになり、ウィルソンの家で出産し、娘はミーナと名付けられる。
 一方、ウィルソンはマリとも深い関係に陥り、それを知った子供たちに家を追い出されたマリもウィルソンの家に住むことになり、奇妙な「四角関係」の共同生活が始まるのであるが、この危うい生活はマリが警察に通報したことで破綻してしまい、シリンは強制送還されてしまう。
 さて、ここで問題となるシーンがウィルソンが書留として受け取った手紙の内容である。普通に考えるならばこれは試験の不合格通知と見るべきであろうが、ウィルソンが彼の友人のハンガリー人とシリンと結婚させることに失敗し、マリのウィルソンに対する想いの強さを勘案するならばこれはマリが勝手に届けた結婚届による市民権公布の知らせのようにも思える。勝手に結婚させられたウィルソンは怒ってマリを家から追い出し、マリは友人のエヴァに車で迎えに来てもらい、その後、「ハンガリー人」の気まぐれによりシリンを助けることができず自分だけが市民権を得たことの後ろめたさからウィルソンは家を後にするとプリンスという名の男を頼りにオーストリア共和国に向かい新たな人生を始めたように見えるのである。
 「難民」という言葉を聞くと、外国からやって来る人のように考えがちではあるが、マリのように国内に住んでいてさえ子供たちに見捨てられて職を失くし行き場を失った「難民」は存在するのである。


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