隣の町の百貨店のCDショップの入り口の傍らにトイカプセルつまりカプセルに入ったおもちゃの自動販売機がおいてある。大人が買い物をしている間にその販売機のところでじっとカプセルにはいったおもちゃを見ている子供はけっこう多い。
今日、ハイドンの交響曲の聴きたくなってちょっとCDショップにいったらトイカプセルの自動販売機のところに3才くらいの女の子が張り付いていた。
お父さんがエスカレーターの方に進んでいくとその子は泣き出した。おもちゃがほしいのだと思う。しばらくお父さんはエスカレーターに乗らずに女の子の様子を見ていた。それからもう一度お父さんがエスカレーターに乗ろうとすると女の子はまた泣き出した。
お父さんは仕方なく半ば無理矢理女の子の手を引いてエスカレーターの方に進んでいった。女の子は泣きがらお父さんに手を引かれていった。それはやむを得ない。子供がむずがるのにあわせておもちゃを買っていたらきりがない。子供になめられて泣けば買ってもらえると思われたらもうおしまかもしれない。お父さんも辛いところだと思う。
お父さんは子供に理由も説明せずに黙って手をを引いていったけれど、あの状態では子供も今日はおもちゃはだめと言っても聞き入れてくれる状態ではなかったと思う。本当につらいところだけれど仕方がない。
僕が通っていた幼稚園の近くに駄菓子屋があった。そこにトイカプセルの自動販売機がおいてあった。僕と同い年のN君は僕と違う幼稚園に通っていたけれどその幼稚園のそばにすんでいた。
ある日そのトイカプセルの自動販売機のところでN君は友達に「これはカプセルの中におもちゃが入っている。ここに10円を入れてここのレバーを回すとカプセルが出てくる」と言って自動販売機のしくみを説明して、自分も10円玉を入れてガチャンとカプセルを取り出して大切そうにそれを持ち帰っていった。
幼稚園からの帰り道、僕はそれを眺めて説明のうまい子やなあと思った。カプセルという言葉を知っていることがすごいと思った。そして買ったものを大切に持ち帰る子やなあと思った。
そのN君という子は僕と同じ年に僕と同じ高校を受験してトップで合格した。大学も旧帝国大学と言われるところに進学した。顔に特徴のある子だったのでその幼いときのトイカプセルのことを僕は妙に覚えていた。しかし賢い子というのはもう幼稚園の年齢から賢いのだなとしみじみと思う。