山里に生きる道草日記

過密な「まち」から過疎の村に不時着し、そのまま住み込んでしまった、たそがれ武兵衛と好女・皇女!?和宮様とのあたふた日記

親子のすれ違いに潜む悲劇を告発

2023-09-15 19:58:50 | アート・文化

 バイプレーヤーの名優である望月優子が主演に抜擢された、木下恵介監督の映画「日本の悲劇」を観る(画像は木下恵介記念館webから)。戦争未亡人であることが背景にある。そのため、シングルマザーとして二人の子どもを接客業をしながら懸命に育てる。母親は「どんな冷たい世でも子どもがいるだけで生きていける」としているが、その子どもたちは母の過剰なまでの愛情に反発して家を出ていく。

      

 このへんの事情は現在でも心当たりがある事象だ。映画では望月優子が鉄道自殺するにいたるが、追い詰められていく過程をじわじわと描いていく。 映画は1953年(昭和28年)に公開されたが、その当時のニュース画像を織り込んでいる。それは、大東亜・太平洋戦争の総括をしないままの経済復興に浮かれる「逆コース」を暴露しているその監督の手法は当時としては斬新なフラッシュバックとなっている。。朝鮮戦争による他国の被害は日本の経済発展のばねとなる。

          

 冒頭間もなく、監督の言葉を映し出している。「我々の身近におこるこの悲劇の芽生えは 今後いよいよ日本全土におひ繁ってゆくかも知れない」と、今日の日本の事件・事象を予告している。プロローグとエピローグで奏でる佐田啓二のギター「湯の町エレジー」はどうしょうもない矛盾を心に刻んでいく。

           

 1946年に同じ題名「日本の悲劇」でドキュメンタリー映画を公開した亀井文夫氏の作品がときのGHQから上映禁止処分となった。恵介はきっとその仇を取ろうとして物語化したのかもしれない。戦前の作品で軍部後援「戦ふ兵隊」(上映禁止)をオラが若いころ観たが、内容は疲れた兵隊像が多く非戦ドキュメンタリー映画だったのに感動。戦後の「生物みなトモダチ」の久しぶりのドキュメンタリー映画は、亀井の到達点だった気がする。

            

 恵介映画のキャストには、上原謙・多々良純・桂木洋子・柳永二郎・北林谷栄・淡路恵子らの懐かしい顔ぶれがあったのもうれしい。毎日映画コンクールで望月優子は女優主演賞、恵介は脚本賞を得ている。できるだけ感傷を排して事実のリアリティを描く恵介の手法は、この「日本の悲劇」から「女の園」へ、そして「二十四の瞳」へと昇華していく。

         

 こうした木下恵介監督を受け継ぎ発展させたのは、現代では是枝裕和監督ではないかと思える。彼の作品もスーパーヒーローは出てこない。誰も悪くないのに結果は悲劇的。それはオラの親父や母親の苦労と悲劇と重なる。明治生まれの父母の歩みはそのまま日本の近代史に翻弄された生涯でもあったのがわかった。

 とくに親父の晩年は病気もあったが期待していた息子たちに対する希望を失ってしまい、自殺するのではないかと毎日ハラハラしていた。刃物はできるだけ隠した記憶がある。朝起きてから親父が生きていることを確認する悲しみがオラの思春期だった。その点で、この映画とダブルところがあり、その結果、物事を眺めるしかないヘラヘラした今のオラがある。   

 

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