この本には昭和9年8月から27年10月に亘る時代小説、現代小説が収録され、そのジャンルも多岐に亘っている。表題の「雨の山吹」は結末がずば抜けていい。「翌日、雨の中を又三郎は汝生をたずねてゆく。途中の一軒家の垣に添って山吹が咲いている。二つの枝が絡み合うように、雨にぬれて咲く花が、汝生夫婦の姿にみえ、又三郎はその家の主婦に、二枝だけ切ってもらう。」自殺をほのめかした遺書を残して、家士と出奔した汝生を赦す気持ちが伝わってくる。