

来日零戦のブログエントリーは2回目です。2013年3月30日オリジナル栄エンジンの始動見学会に行ってきました。
航空発祥記念館の駐車場特設会場に引き出された機体は今まさに艦上から発進せんとす姿そのもので狭い館内の展示場に飾られた機体とは別物の雰囲気をかもし出していました。

主脚の内傾・トーインが見られる
同日3回行われた始動見学会の前回始動の余熱がエンジンカウル上方の陽炎はお飾りで置かれた長い時間の眠りからの覚醒を意味します。
1944年サイパンで米軍に捕獲以来、実に70年近く現役でいた事になる。航空機は空を飛ぶために車の車検にあたる耐空証明が必要とされます。規制の比較的緩いと言われるアメリカでさえももうそろそろ難しくなったと。。。すでに生産を終えた保守部品の供給の無いエンジンのメンテナンスには一体どれほどの労力と資金が掛ったのか。。。。
現在の所有者であるP.O.F(プレーン オブ フェイム博物館)ではこの歴史的機体の寿命を延ばすために通常行われる離陸時出力や上昇時出力を極限まで抑えエンジンの負担を軽くしたと言われています。近年ロケット機”秋水”の修復復元が製造メーカーである三菱小牧南工場で行われました。この際にもP.O.Fの実機のデータ提供が行われたようです。バブル期なら未だしもメーカーはこの手のプロジェクトには消極的で企業イメージにプラスにならないと考えている。。。
悪しき思い出の象徴と言われる零戦ですが許されざる過去の歴史遺産として残って欲しいものです。

オリジナル栄エンジン搭載の飛行可能機体は現在世界にただこの機体一機。他に飛べた(過去形)機体は現代のエンジンに換装されています。いかにP.O.Fが歴史的資産価値を重要視しているかが解ります。 このような取り組みに一時の物珍しさはあっても継続的に多額の資金を調達する必要があり日本社会ではおそらく共感せず維持も管理も難しいでしょう。。。不思議な事に外国では零戦のスクラップ機体を探し復元を目指すプロジェクトがいくつもあり零戦の価値は哀しいかな今の日本にはなく埃だらけのボロボロ機体を上野博物館などで見るのみです。。。。
さてエンジン始動1時間以上前から50人以内に陣取り好位置をキープすべく並びましたが入場ゲートで私が並んだ入場券もぎのお兄ちゃんはすこぶる手際が悪く僅か数分の差で最前列に座れませんでした。。。それも正面だった。。。
エンジン始動20分前。。。だんだん気持ちが高まってきます。。。
5分前。。。スタッフが入場 P.O.Fのパイロットが乗機。。。 エンジン始動は米軍によってセルモーターが搭載され極めて始動性がよくなっています。オリジナルではエンジンカウル横のクランク連動穴にイナーシャハンドルを挿し込み回します。。。艦上で一斉出撃など数十機が一斉にエンジン始動する際、始動困難機があると機付き整備員は大変な目にあったと記録がありました。
今回このイナーシャハンドルを回す粋なパフォーマンスがありました。始動前にエンジンカウル横にイナーシャハンドルを挿し込み”コンタクト” その後台車につけられたサイレン様のものを回しセルスタート!
いとも簡単に栄21型空冷複列型14気筒」。総排気量27.9リットル、重量590kg、1130馬力 栄エンジンは目覚め白煙を吐きオイルの燃焼臭と排気を放ち始動しました。プロペラの推進力は後部天幕を揺らしまさに出撃前。。。。
おそらくパイロットは気筒温度計を見ながらのスロットル操作。。。アイドリングから一段と回転が上がった時には場内から歓声が。。。。。 動画も取りましたがこの生音と空気の振動、エンジンが放つ臭いは伝えようもなく割愛します。
栄21型エンジンは後年2000馬力級のエンジンが登場するまで傑作と言われ特に気化器の安定性には定評があったそうです。自動混合気化器・AMCを採用した事により外国機に多かった背面飛行時に起こりやすい失火やエンジン停止が少なくこのことも零戦の空戦性能の高さの一因だったとも伝えられています。大戦後期物資不足でオクタン価の低いガソリンと粗悪潤滑オイルで飛んだ零戦はアメリカ側の試験でハイオクタン高精製燃料と高純度エンジンオイルで優秀な性能を示したと。。。。
このエンジンが離陸最大出力となった時には一体どうなるんだろうとしばし感激に咽びました。
僅か10分余りのエンジン始動でしたが限り有る命の10分を垣間見る幸運に感謝です。
来日零戦は四月初めの機体解体見学会をもって展示は終了しまたアメリカに帰る予定でししたが展示好評につき8月までの期間延長をP.O.Fが認めまだ見られるチャンスがあります。
空戦性能を重視され極限以上に軽量化された機体は航空機として果たして優れていたのだろうか?極度にバランスを欠いた人命軽視設計には今もって批判がある。

