サツマイモの花
昨日送られてきた「育種学研究」(日本育種学会和文機関誌)に村松幹夫さんへの追悼文が載っていた。4月26日に亡くなられ、享年95歳だったという。
村松さんは京都大学卒業後、長年岡山大学で教鞭をとられていた。学究という名前がぴったりの方で、定年後も自宅の竹林でタケの種属間雑種の研究をつづけ、学会で発表されていた。
村松さんは植物の開花についても研究され、わたしの専門分野と重なっていたので、学会でお会いしたような時に話をお聞きしたが、その中にサツマイモの開花についての話題があったことを記憶している。
植物は過酷な環境が迫ると花を咲かせ、種子を結んで生き延び、種の永続を図る戦略を持っている。花芽ができるまではできるだけ旺盛な生育をして多くの花と種子をつけるのが有利である。そのためには花芽の形成を始める時期をはからなければならない。その手掛かりは気温と日の長さ(日長)である。(湿度や降水量などの季節的変化も手掛かりとされるが。)
特に、日長の季節変化は年によってずれることがなく、信頼できる指標である。冬に向かって種子を結ぶ植物は日が短くなることが開花のシグナルで短日植物と呼ばれ、逆に夏に向かって開花する植物は長日植物と呼ばれる。
サツマイモは短日植物で、日本では沖縄を例外として花が咲く前に霜が降りるので、サツマイモの開花を見ることができない。以前沖縄に行ったとき、花盛りのサツマイモ畑を見て感激したことを覚えている。
植物の開花反応は日長と気温の交互作用に基づくモデルで説明できるが、サツマイモに関してはこれが一筋縄ではいかない。村松さんはサツマイモの開花反応についての仮説を作り、学会で発表された。以前このことについて意見を交わしたことがあったので、「ちょっと複雑で凝りすぎているでしょうか」と、発表後意見を求められたが、明確な感想は申し上げられなかった。
その後、わたしは、サツマイモの近縁種で、試験管の中で、培養している植物が連続照明下で花をつけ続ける突然変異体の存在を知り、取り寄せて大学院生のS・K子さんにいろいろと実験してもらった。
この植物は試験管から取り出しても花をつけ、アサガオに接ぎ木すると開花を促すなど、面白い現象がわかった。
おそらくこの変異体は、花芽分化を抑制する機構が損なわれていて、環境条件にかかわらず常に花成誘導物質を体内で生産していたのであろう。
サツマイモの開花生理を研究する材料としては面白いものであったが、在職中にもっと突っ込んだ研究ができなかったのが心残りである。
日本ではほとんど見ることができないサツマイモの花を写真に撮った方がいる。以前このブログで紹介した植松國雄さんである。植松さんはその著書『野菜の花写真館』(啓文舎 2021年)の中にサツマイモのきれいな写真を載せられている。
彼はわたしのカミさんの大学クラスメートのパートナーだったので、どこでこの花を見られたか伺おうと思っていたが、残念なことにこの本を上梓してから間もなく亡くなられた。
サツマイモの花についての思い出を書かせてもらった。
村松幹夫さん、植松國雄さんを偲んで、心からご冥福をお祈りする。
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