種苗の海外流出
先だってのテレビニュースで,日本の柑橘品種が中国で栽培され,果実がネット上で販売されていることが報じられていた。
中国の柑橘農家がミカンのみずみずしい切り口を示している写真には,「愛媛28号」という「品種名」が付記されていた。日本の作物品種が海外に流出していることは聞いていたが,これは明らかに盗品ではないかと思った。
ネットで情報を調べると,「愛媛28号」は「愛媛果試28号」を連想させ,後に「紅マドンナ」として商標登録されたものではないかということだ。
わたしが盗品ではないかと考えたのは,県名に系統番号がつけられたものは,通常その県の農業試験場が育成途中のもので,門外不出のはずだからである。
しかし,調べてみると,この品種は2005年に「愛媛果試28号」として品種登録され,2007年にJAえひめが「紅マドンナ」と商標登録している。「愛媛果試28号」が農家から出荷される場合には,それぞれ別な商標で販売されている。だから,中国で「愛媛28号」の名前で発売することは,その限りでは問題はない。
しかし,国内でこの品種が栽培されるにあたっては,育成者権者(品種について許諾権を有する者)の許諾が必要だが,中国での苗の増殖や栽培が許諾を得ていることはあり得ない。だが,中国での許諾なしの増殖や栽培が違法だとは言えない事情がある。
育成者権が中国で認められているのなら,増殖・栽培に許諾は必要である。しかし,「愛媛果試28号」については,育成者が中国政府に育成者権の申請をしておらず,合法的な手続きで購入した苗を,中国に持ち帰って増殖するのは自由ということになる。
品種の海外流出でよく問題にされるのは,ブドウの「シャインマスカット」である。この品種は2016年に農水省農研機構の育成品種として登録され,皮ごと食べられておいしいことから,高級フルーツして高価で取引されている。
ところが,「シャインマスカット」と同一と思われるブドウが,中国で別の商標をつけて栽培され流通している。韓国でも同様なことが見られるという。そして,この中国/韓国産の「シャインマスカット」が香港や東南アジアで,日本産のものに比べると格安の値段で売られているとのことである。
中国や韓国で「シャインマスカット」の育成者権が認められていたら,160億円以上の許諾料が得られたという試算がある。
外国で育成者権を申請できるのは,日本で品種登録後6年以内となっていて,「愛媛果試28号」にしても,「シャインマスカット」にしてもその年限は過ぎてしまっている。育成者は,海外での品種の流通に,切歯扼腕の思いをされているだろう。
わたしは,優れた農産物が安価に消費者の手にわたるのは喜ばしいことと思う。しかしそこには,それをもたらしてくれた人たちへのレスペクトと報酬がなければならない。品種改良は年月と費用が掛かる仕事である。「愛媛果試28号」は16年,「シャインマスカット」は33年を要した仕事であった。
日本では昨年種苗法が改訂され,種苗の海外流出の防止が強化された。国内法だけでなく,国際的にも種苗の流通についての紳士的なルールができ,消費者も育成者も安心して産物を楽しめるようになることを,わたしは切望する。
ノラボウナ
今畑では,ノラボウナの花蕾が抽苔してきている。毎日摘み取って菜花のおひたしを楽しんでいる。このノラボウナ,東京多摩地方から奥多摩にかけて栽培されてきた在来種である。葉菜としては使えないが,自家採種が可能で,肥料要らずの手間要らずなので,その良さが知られて栽培が増えているらしい。わたしは,大学の先輩から種子を譲り受け,もう10年以上作り続けている。こうした品種を残してくれた農家の方々に感謝。
STOP WAR!