俵万智さん
一昨日NHKプレミアムから放映された,俵万智さんを対象にした『プロフェッショナル 仕事の流儀』のビデオを観た。2月6日のブログで予告した番組である。
わたしは彼女の詠んだ歌はあまり知らないが,サラダ記念日の歌に触れた時,短歌を見る眼から鱗が落ちた気がした。以来ちょっと気になる存在である。
撮影は俵さん59歳の秋から始まり,大晦日60歳の誕生日で終わる。この間に,50首の歌を詠んで歌集を出すことを,俵さんは目標にしている。
40歳で俵さんはシングルマザーとなる。そのころ,コマーシャルとか,標語とかいろいろな注文をこなしていて,「言葉から言葉をつむいで」いた。しかし,自分の和歌を作ろうとすると,なにも浮かんでこないスランプに陥る。つまり,言葉から言葉を紡ぐことで,心が置き去りになっていたのだ。言葉は心と一対でなければならない。
そこで,「言葉から言葉つむがず」と,上の句となってその思いが表現される。そして,子育ての中で感じる心を言葉にして,歌集を3冊出版した。しかしその下の句はこれまで作られてこなかった。
60歳で子供が手を離れ,これからどう生きていくのかということを考え,50首の歌集を作ることを考える。そんな中で,俵さんは趣味のアボガドの水耕栽培から,空白だった下の句を思いつく。
「言葉から言葉つむがずテーブルのアボガドの種芽吹くのを待つ」
そして,今度出す歌集の題は『アボガドの芽』とすることを決める。
番組では,俵さんの顔がアップになっていて,童顔は相変わらずだが,このひとも60歳かと感慨を覚える。軽やかの歌風からはちょっと想像できない張り詰めた雰囲気を漂わせている。
ちょうど両親の面倒を見るために仙台に引っ越してきたばかりで,街路樹の銀杏の葉が道路に積もっているのを見て,家の中に葉が落ちてきたら,小さなごみ箱では間に合わないということを想像し,
「わが部屋に銀杏降らねば小さめのごみ箱探す東急ハンズ」と詠む。しかしこれが気に入らない。6時間かけて,
「小さめのゴミ箱探す霜見月イチョウ降ることなきリビングに」で完成とする。
前に観た『プロフェッショナル』で,テレビの『プレパト』では寸時にして出されて俳句に手を入れる夏井いつきさんが,一句に苦吟されているのを見て驚いたが,やはり大変なことだと感じた。
「言葉になっていないものを言葉にするのが詩」と,俵さんは言い,ゲストの小説家又吉直樹さんは,「一首の中に一つの小説が盛り込まれている」と俵さんの歌を評していた。
番組の最後に,俵さんが息子さんと50首を選び,60歳の誕生日を祝うシーンがあり,それまでとは違う穏やかの雰囲気が流れていた。
テレビの画面を撮影
STOP WAR!