スプラウト 会計のはなし、日々のはなし

名古屋市千種区の税理士法人スプラウトの税理士/社労士/CFP®が綴る日々の様々なこと。

税制改正と資産税実務

2011-07-26 17:57:56 | Weblog
先週の水曜日に
名古屋税理士会の
全国統一研修に行ってきました。

講師は
本年度から税理士試験委員(法人税法担当)をされる
上西左大信(うえにしさだいじん)先生。

法人税法講師として
試験委員の話を聞きたいという興味もあったので
研修会場である
金山の中京大学文化市民会館
まで行ってきました。


テーマは当初
「平成23年度税制改正の動向」
だけの予定だったようですが

震災の影響等で
平成23年度の税制改正は
ほとんど見送りになってしまったため

午前は
「平成23年度税制改正の動向」

午後からは
「資産税実務の留意事項」という
2つのテーマでお話していただきました。


上西先生は
税制調査会の委員もされているので
かなり詳細なところまで説明がありました。

平成23年度税制改正の中で
トピックなものとしては
まず法人税の方で「雇用促進税制(措置法)」
という制度が新設されました。

これは現在の雇用状況を少しでも改善するために
作られたものですが

一人雇用するごとに
20万円の税額控除(法人税額×20%限度)
ができるようになりました。

要件としては
①当期末の雇用保険の一般被保険者数が前期末に比べて
 10%以上及び2人以上増加していること
②前期・当期で事業主都合の離職者がいないこと
③給与増加額(当期給与-前期給与)≧前期の給与×雇用者の増加率×30%
の3つを満たす必要があります。

(注)上記は中小企業を前提とした説明です。大企業の場合は要件等が少し変わります。

この雇用促進税制は
平成23年4月1日から平成26年3月31日までの間に
開始する各事業年度について適用されます。


あとは消費税の方で
「免税事業者の要件の見直し」がされました。

従来は
ある期の課税売上が1000万円を超えた場合
その翌々期から消費税の納税義務者になる、というルール
でしたが

課税売上高が
上半期で1000万円を超える場合には
翌期から消費税の納税義務者になるように改正されました。

この上半期の課税売上が
1000万円を超えているかどうかは
年1回でまとめて決算をしているような場合
わかるのが結構遅くなるので

課税売上に代えて
上半期の給与を使って判定してもいいことになっています。

給与は毎月支払うので、期末近くにならないとわからない
ということはないですからね。

この消費税の改正は
平成25年1月1日以後に開始する個人事業者のその年
又は法人のその事業年度について適用されます。


午後からの
資産税実務の留意事項は
資料の収集方法から始まり
具体的な事例についてまで
かなりレベルの高い講義をされていました。

特によかったのは
「時価と贈与」についての話。

個人から
時価よりも著しく低い金額でモノを買うと
買った側で贈与税がかかる可能性があるのですが

この場合の

「時価の意義」

「時価よりも著しく低い金額の基準」

については平成19年に判例が出ています。

まず
相続税・贈与税における「時価」とは何か?
ですが

結論からいうと
「相続税評価額は時価ではない」
ということです。

資産の時価を把握するのは容易ではないので
画一的な評価基準である相続税評価額を
時価に相当するものと考えること自体は
課税実務上合理性は認められますが

だからといって時価=相続税評価額
というわけではありません。

土地の場合の相続税評価額は
路線価方式を使うことが多く

この路線価方式による評価額は
大体、公示価格の80%くらい
に設定されているのですが

このように時価と相続税評価額に
明らかに開きが認められる場合もあるわけです。

では
通常の時価の80%に設定されている
相続税評価額で売買取引した場合に

「時価よりも著しく低い金額」で
取引したことになるかどうか

ということですが

相続税評価額は
「時価よりも低い金額」ではあっても
「時価よりも著しく低い金額」には
あたらないようです。

したがって
個人間で
相続税評価額を対価として
取引しても
買った側で贈与税課税されることは
(原則として)ないということです。

今回の研修を受けて
税法は
理屈ではなく
法律の世界の話なので
法律の条文、役所の通達、判例を
踏まえて、各事案の取扱いを検討しなければならない
ということを再認識しました。


税理士は
資格をとるまでに
死ぬほど勉強しているはずなのに

実務ではさらに
もっと深く広く勉強する必要があります。

ただその勉強の成果は
お客様からは見えにくく
評価されにくい。

だからといって
会計、税法の研鑽を怠るのは
プロとして失格だと思うので

地道に努力を続けていかなければと
あらためて思いました。