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業深い者たちのキャッチボール

2014年12月22日 | 読書
 「2014読了」136冊目 ★★★

 『家族の歌』(河野裕子・永田和宏,他 産経新聞出版)

 この歌人夫婦のことは知っている人も多いだろう。
 息子や娘も歌人であるし,さらには息子の嫁までつくるようになって,計五人の歌とエッセイで構成された一冊である。

 短歌を少しでも興味があれば周知のことだが,病に倒れた河野裕子を巡って死に向かう日々,死後の喪失に向き合う日々の記録と言ってよい。

 あとがきに,息子の永田淳が書くように「ある種の見せ物にも似た企画」なのだろう。
 しかしこれは「短歌」という表現手段を持ち得た「家族」が,それぞれの思いをさらし合うという,きわめて稀な「見せ物」であり,実に興味深かった。またリレー形式で書いていく,字数の決められた枠での文章モデルとしても貴重な一冊のように思う。

 歌人河野裕子のがん闘病とその暮らしについては,存命中,そしてその死後も本人と夫である永田が書き連ねてきたことは多い。今さらながらに,書くこと,詠うことの重みを感じさせる。
 永田はこう書いている。

 私たちはどんな悲しみを詠うときにも,常に歌の出来栄えを意識下に測ってもいる。(略)何度も挽歌を作ったが,故人への悲しみを詠みながら,なおいい歌ができれば喜ぶのが作歌というものである。なんという自己矛盾。


 家族全員がこの「業深い種族」である日常は,私などとても想像できない。
 ただ,ここに表されている,細々した暮らしや相手を想う気持ちの本質は,ところどころではっとさせられることが多かった。

 受けとめた思いは,昨今の「家族」のあり様の変化とは相いれないものかもしれない。けれど信じ切っていきたいことばかりだ。
 引用しておく。

 叱られて子供は育つ父は父の母には母の叱り方があり(裕子)

 君の択びに文句のあらうはずがない初対面の男と呑んで盛り上がりたり(和宏)

 私が結婚して,母は,「家を明るくして,温かくして待っているのよ。暗い家に一人帰しては駄目よ」とよく言うようになった。(紅)


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