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桜と絵本と豆乳と

死なないための仕掛け

2017年08月15日 | 読書
 同じ題材を扱ったノンフィクションを複数読むことは、ほとんどない。『奇跡のりんご』ぐらいしか今は思い浮かばない。この新書を見つけた時、違う著者の文庫本を読んだことを思い出したが、すぐに手にとりたくなったのはやはり出来事そのものの興味深さだろう。文庫の方はこのブログに5年前感想を残していた。

 「物語に支配されない力」~『37日間漂流船長』(石川拓治 幻冬舎文庫)を読んで




2017読了82
 『ある漂流者のはなし』(吉岡忍  ちくまプリマ―新書)

 読み終わって、少し変なことを考えた。「もし、この武智さんが見つからなかったら」ということだ。そうすればこの漂流の「価値」は何もないことだなあ、と当たり前のことだけれど、なぜかしみじみと感じた。生きて帰ったからこそ、これらの本が出て、様々な場で取り上げられ、見聞きした人に何かを伝えたのだ。


 武智さんが経験した極限状態は、生死という結果の前に存在したわけだが、もし亡くなって記録もなければ、本当に「無」だった。それが何か不思議な気がする。どんな人間のどんな些細なことでもそれは当てはまるかもしれない、しかし武智さんの「生きる」記録は、もし自分だったら、と問いかけが強い気がする。


 その理由として「一人ぼっち」という状況がまず大きい。応答する相手がいない。そして次第に無くなっていく食料と水、さらに大自然の脅威にさらされ…。漂流中の思考や出来事に関して、生物学的なことや心理面での解説も多くあった。しかし、やはり有名なあの一言に行き着く。「人間って、なかなか死なないものだ


 ゆえに「死なない」ための「心掛け」という視点で読めば、面白い。だからこそ著者や編集者は「プリマ―新書」という形で若い読者を対象としたのかもしれない。心掛けはいくつも挙げられるが、個人的に印象深いのはあれこれと逡巡する心に逆らわないこと。それは物事に馴れない生き方だ。順応だけでは駄目だ。

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