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楽しい物語だったということ

2012年12月18日 | 読書
 『SOSの猿』(伊坂幸太郎 中公文庫)

 解説を書いている評論家曰く,

 『SOSの猿』は,古くからの伊坂ファンにはあまり評判が芳しくなかったようだ

 かなりコアなファンもいると思うのでそういうことはあるのかもしれない。
 私はいつものように楽しく読めたが,確かに夏に読んだ『あるキング』も少し印象がそれまでとは違った気がしたし,この作品もちょっと目まぐるしすぎる要素もある。
 それでも私にとっては,やはりエンターテイメント作家として,かなり惹かれる一人であることに違いない。
 そして違いなかった。

 ストーリーの中に,ひきこもりの少年と監禁された親子が出てくる。
 天童荒太ならどう書くだろうか,などと突飛な発想も浮かぶほど,重苦しくない?印象を持っていることに気づく。
 つまり,伊坂幸太郎作品には必ず救いの手が差しのべられ,どこからか光が差し込むような展開を見せてくれるからだ。
 作品に色があればどこか明るい薄黄系のイメージか。

 そして,どこかしたたかにユーモアを持つ存在もいたりして…。
 今回は主人公の母親とその友達のおばちゃんたちのやりとりは絶妙だったなと思った。それからコーラスの雁子さんのキャラも実によく立っている。

 『あるキング』ではマクベスの台詞引用が目をひいていた。
 今回は引用ということではなく西遊記の登場人物そのもの,孫悟空が姿を現して…という縦横無尽ともいうべき設定である。そんないわば実験的ともいうべき話も,えっと思わせながらすんなり入りこませてくれるのがなんとも伊坂らしい。

 こんな一節がある。

 物語は,語り手が喋ればそれが真実となる

 これをどう受け止めるか。
 つまり「喋る」方法をどう突き詰め,どう豊かなものにしているか,この点だけが物語として成立するか否かの分かれ道なのである。

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