すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

寝覚めの頭でかの国を旅する

2021年07月17日 | 読書
 明るくならないうちに覚醒してしまう朝が続いたので、何か眠くなる本を…と思ったわけではないが、何の拍子が『山月記』(中島敦)を借りてしまった。理論社が出している「スラよみ!現代語訳名作シリーズ」で、表題作の他に、『名人伝』と『李陵』が収録されている。読みやすかったので、眠くならなかった(笑)。



 『山月記』…高校生の時に読んでいるんだろうが、記憶はない。いわゆる「変身譚」という類の物語、教訓的に読むしかできない感じもあって、なんとも言えない。作品価値を知らない者の妄想としては、続き話の表現活動が思い浮かぶし、そういう楽しみ方もあってもよくないか。いやいや古代中国思想に反するか。


 同じく短編の『名人伝』は、同様の中国思想が背景にあるにせよ、最後がなんとも言えないので好きだ。天下の弓の名人を目指し、技芸に励む者の極致がいったい何に収まるのか。これは落語になっていないのかなあ、日本に変えても、弓でなく別の技芸に変えても十分に通用し、深遠さと滑稽さが入り混じる話になる。


 『李陵』は、実際の歴史と人物がモチーフになっている。スケールの大きい展開はやはりかの国だ。ごく短い観光旅行をしただけで口幅ったい言い方になるが、大陸的な思考、行動力が描かれている作品だ。空間そして時間の感覚が異なる国をこれほどに著せる作家、若い時は感じられなかったが、改めて素晴らしい。