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観客席で思ったこと ~200文字限定のスポーツコラム~
 




※2014年12月に「TVステーションWEBサイト」に掲載したものを再録しました。


[3]五輪改革案「オリンピック・アジェンダ2020」の影響は?

■ 2020年東京オリンピックでの追加競技は?
 12月8日、9日にモナコで行われたIOC臨時総会で、「オリンピック・アジェンダ2020」に盛り込まれた40の改革案すべてが、満場一致で採択された。オリンピック大会を含むオリンピック・ムーブメントが時代の流れに乗り遅れないようにと、トーマス・バッハ会長が推進してきた「オリンピック・アジェンダ2020」は、世界中から寄せられた4万件以上のオリンピックに対する意見を40項目にまとめ上げたものだ。
 すでに、報道で大きく取り上げられているように、この改革案が採用されることによって、オリンピック大会で実施する競技数・種目数に関するルールが変わる。
 これまでは、オリンピック憲章(2007年に改定)で、夏季大会の競技(sports)数の上限を28とし、選手数を10,500人以下、役員数を5,000人以下と定めていた。これを、選手数と役員数はそのまま、上限28競技としていたものを、上限310種目(events)に変更した。また、開催都市の組織委員会が、競技・種目を追加提案できることを認めている。さらに、この追加競技・種目の選手・役員数は上限の15,500人に含まないとした。もちろん、競技の追加にはIOC総会の承認が必要だ。
 なお、競技とは、陸上競技、水泳、柔道といった統括する国際競技連盟単位のもので、種目とは、例えば陸上競技であれば、男子100m走、女子マラソン、男子ハンマー投げといった順位を決める区分のこと。ロンドン・オリンピックでは、陸上競技は全部で47種目あったのに対して、サッカーやバスケットボールなどは男女の2種目だった。種目数で制限するほうが現実的ではある。
 2020年東京オリンピック・パラリンピック組織委員会は、IOCに対して、どの競技・種目を追加申請するのだろうか。そもそも財政が厳しいおり、競技を追加すべきなのか。
 すでに野球、ソフトボール、スカッシュ、空手などの競技団体が追加競技として認められるようにアピールを始めている。現計画では、東京大会では28競技306種目が実施される予定なので、最大であと4種目の追加が可能だ。例えば、野球、ソフトボール、スカッシュ男女。日本のメダル獲得数を増やそうとしたら、(日本が得意と想像する)空手を提案する手もあるだろう。

■ オリンピックが再び肥大化する?
 そもそも、なぜ、競技・種目数、参加人数に制限があるのだろうか。
 オリンピックは16日間で1都市で開催するのが原則だから、実施できる競技数や参加者を受け入れる宿泊施設などには限界がある。しかし、競技数、種目数は、2000年のシドニー大会まで増え続けてきた(Fig1参照)。新しい種目に加えて、女性の種目が増えたことが影響している。1990年代からサッカー、柔道、レスリング、水球、近代五種、ウエイトリフティングなどで、次々と女性の参加が可能になった。
 競技数が増えるにつれて、選手、役員だけでなく、それらをサポートするスタッフや取材するメディア関係者も増えることになる。もちろん、観客も増える。短期間1都市集中開催の限界が見えてきたのも当然だ。
 それを危惧したIOCが、2004年発効のオリンピック憲章において、参加選手数を10,500人以下、役員数を5,000人以下と定め、さらに2007年発効のオリンピック憲章で、夏季大会の競技数の上限を28とした。下のグラフでわかるように、もし制限を加えていなければ、さらに実施競技数・種目数は増えていたことだろう。


 しかし、今回、採択された「オリンピック・アジェンダ2020」では、競技数の代わりに種目数の上限を設けたものの、開催都市の意向によって競技・種目を追加できる可能性がある。そして、その場合は総参加者数の制限が事実上なくなる。開催都市の責任になるのだろうが、再びオリンピック大会の肥大化を迎えることにならないのだろうか。

■ 夏と冬の競技の見直しを
 オリンピックの肥大化を抑える方法として、夏季大会のいくつかの競技を冬季大会に移動したらどうか、と考えていた。バスケットボール、ハンドボール、バドミントン、卓球など、屋内施設で実施する競技を、夏季大会から冬季大会に移すのだ。冬季大会は、雪上競技を行うための山間部の会場と、氷上競技のための都市部に別れることが多い。その都市部の施設で屋内競技をおこなうことは可能だと思う。
 例えば、バスケットボールはもともと冬の間の運動(意欲)不足を解消するために考えられたスポーツだ。その起源を考えれば、夏よりも冬のほうがふさわしいと言える。バスケットボールのような人気のある夏季競技を加えることによって、冬季大会への注目が高まり、IOCが目論むオリンピックの価値も高まるはずだ。
 一考に値する案だと思っていたのだが、今回の「アジェンダ2020」で冬季大会にも、種目数100、参加選手2,900人、関係役員2,000人という上限が設定された。冬季大会の競技数、種目数は下表(Fig2)のとおりで、スノーボードなど若者に人気のある種目が増える傾向にあり、私案である夏季大会の種目を受け入れる余裕はほとんどない。当面は現状の路線で行かざるをえない。


 しかし、IOCは、遅かれ早かれ、改革案「オリンピック・アジェンダ2020」の見直しをせまられることになるだろう。時代の流れの先には、オリンピック競技とパラリンピック競技の融合があるからだ。



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