著者 下村 敦史
「閉じ込め症候群」で入院中の女性患者・岸部愛華が深夜に体調を崩した。
当直中の産婦人科医・水瀬真理亜が診察すると、愛華は妊娠していた。
寝たきりの愛華は誰に妊娠させられたのか?
病院は騒然となり、事件はマスコミに報道されて批判の嵐が巻き起こる。
真理亜は真相を探るべく、話すことができない愛華の まばたきを通して彼女の「声」を聞くが……
(岸部愛華の主治医・脳神経外科医の言葉)
間違ったことを言ってしまったら、親の表情が一変することを知っているから、彼女は常に親の顔色を窺って、間違っていない言動を選んできた。
親としても表面上は価値観が一致しているから、認めるのも当然だ。
でも、それは決して彼女の本心じゃないし、娘の意思の尊重なんて美談でもない。
そもそも、本当に本人の意思を尊重しているなら、わざわざ「そんな自分」を自慢したり、吹聴したり、アピールしたりする必要はない。
そういう「絶対的な理想」がある人間は、自分の理想から外れた人間を許容しない。
愛華さんは親が望む理想の中でしか意思を示せなかった。