スカーレット手帖

機嫌のいい観客

ラ・ラ・ランド

2017-03-01 | 映画ドラマまんが
初めて買ったシングルCDは大黒摩季「ら・ら・ら」でした。

それはそうとして、話題作「ラ・ラ・ランド」を封切り翌日にさっそく見た。

この作品、
「ララランド」ではなく
「ラ・ラ・ランド」ということが重要である。

つまり、
「ラララ~♪
ではなく、
「ら・ら・ら(哀)」
であるということを強く申し上げたい。


これは相当なイメージの違いであり、
CMの打ち出し方などを見ていると、興行側も意図的にそのようにプロモーションしているとしか思えない。

・「アカデミー大本命」
 ※アカデミー初・「アカデミー作品賞を覆された作品」になっちゃったけどなんだかんだで6冠受賞
・「踊り出すカラフルな衣装の男女」
・「気鋭の若手監督渾身の1作」

とか言われたら、観客は結構な圧で「ラララ~♪♫♪♬!!!」が来ると思うではないか。
それが、メインは哀感である。
この読後感、みんな、打ちのめされて出てくるのではないか。
ミュージカルという形態を取った、夢と青春の日々を描いた恋愛ムービーだった。

ロサンゼルスで夢を追う男と女。
男・セブはピアノ弾き。こだわりのオールドスタイルジャズメンで、商業主義と相いれない。
かつての名店が「サンバとタパスの店になり下がった」と言って怒り、看板をバキバキに壊す。勝手に自分の曲を弾く。
自分のジャズハウスを持ちたいが、尊敬するチャーリーパーカーの愛称にちなんで店名は「チキンスティック」にするんだと譲らない。
ちなみに当方、大学時代はジャズ研である。
いろいろとよみがえる。
やったよな、ベイシー、クインシー、アートブレイキー。
いたよな、こういう人。
いろいろあったよな。
うんやめよう、もう思い出すのはやめよう。

女・ミアは女優を目指すカフェ店員。
オーディションを受けまくるが落ちまくり、渋滞から出られない、業界のパーティーでよくわからない付き合いに巻き込まれる。
ジャズは好きではない。
車はプリウス。

この二人が、わりとトレンディドラマ的な展開で出会い、記号のように引き寄せあって、また理のように離れていく、という時間の経過を追った、ただそんなひとときの話なのだが、感想としてはこれに尽きる。

ラスト10分、思いがけぬ再会からの展開に
なんだかとにかくびっくりするぐらい泣いてしまった。


「ラララ~♪♫♪♬!!!」を期待して何か物足りない気になっていたそれまでの2時間がふきとばされた気分であった。
「人生は一度」ということを、こういう表現で叩き込まれたのは初めてかもしれない。
今、上手に渋滞を抜けて分岐できた道は、今だからなのだった。
あの時は出来なかった。
あの時はこう生きるしかなかった。
タラレバは無いのであった。
This is real. That is la la land. ということなのだった。

「la la land」というタイトルがすばらしいのは、
あまりこの俗語の意味が分からない日本人にも、なんとなくイメージが伝わってくることだ。
ネットの辞書を引くと、


la-la land

1.〈米俗〉〔麻薬や酒に酔ったときに味わう〕陶酔境、恍惚、我を忘れた境地◆La-La Landとも表記される。
2.〈米俗〉ハリウッド、ロサンゼルス◆ロサンゼルス全体を指すこともあるが、特にハリウッドについて使われる場合が多い。


とのこと。

でも、「la la land」の境地というのはどういうことか、なんかわかるでしょう。
「ら・ら・らんど」。すばらしい哀感。
ところで一緒に見に行った夫が、時々「ド・ド・ドリランド」と小さな声で口ずさんでいる。