Carmel reilly 「With angels beside us」より
Marco 28
僕は父の死を天使から聞いた。
いや、その言い方は違っているかもしれないな、ことのあらましは、こうだ。
僕は家から遠い大学に通っていて、父は癌で臥せっていた。でも、治療の効果は目にみえてあり、僕らは父が元気になれるのではないかと期待していた。
ある日、広い市場で買い物をしていたら、誰かが肩を軽く叩いた。振り向くと、会ったことのない男性が立っていた。彼は、
「あなたのお父さんが、僕のことは心配しなくていい、そしていつも自分らしく、幸せでいなさい、と伝えて欲しいと言っているよ」
それだけ言うと、にっこりと笑って歩き去った。
市場はとても混雑していて、彼を追いかけたけれど見失ってしまった。
なぜかわからないけれど、何かよくないことが起きたのだと思った。
僕は走りに走って自分の部屋に戻り、実家に電話をかけたが話し中だった。15分も電話をかけ続けたのに、その間ずっと話し中なのだ。
その時、誰かが部屋のドアをノックした。
開けてみると、妹だった。妹は夜明け前に起きて、ここまで車を運転してきたのだと言う。
妹が入ってくるなり、僕は言った。
「何か悪いことが起きたんだろ?」
妹は頷いて、泣きだした。
僕は妹を部屋の中に座らせて、家に電話をかけ続けたのに繋がらなかったと言ったら、これは電話なんかじゃなく、面と向かって伝えなければと思って、わざと電話の受話器を上げてから家を出たのだといった。
あとになって妹が、なぜ僕が悪いことが起きたことを知っていたのかと尋ねた。
突然訪ねたし、何が起きたか知らなかったはずなのに、僕が知らせを聞いて意外と落ち着いていたのも不思議だったという。
妹はちょっとがっかりしているようにみえたのは気のせいか。
僕がもっとひどく驚いて泣いたりするのを期待していたのかもしれない。
もちろん、僕は泣いた。でもそれは一人になってから。
誰か大切な人が亡くなったとき、悲しみが沸き上がってくるのに時間がかかることってあるだろ?
とにかく、僕は父が亡くなったその瞬間に、父からメッセージを受け取ったのだ。
僕は天使なんて信じていたわけじゃなかったのだけれど、あの男性は天使だったとしか説明のしようがないと思う。