もうだいぶ前のことだから、記事にしてもいいと思う。
姉が勤めている病院に新規の患者さんがあって、その方の名前が学生時代の教師と同じだったという。
同姓同名の人なんだなと思って病室に行くと、まさにその先生だったそうだ。
私と姉は同じ中学・高校に通っていたので、私もよく知っているが、鬼婆的な怖くて有名な先生だった。
姉は何も知らないふりをして仕事をし、病室を出ようとしたとき、先生が言った。
「あの、もしかしたら〇〇の卒業生の方?」
姉はもうびっくりしてしまった。
マスクをしているし、姉が卒業してから40年あまり経っているし、教え子の総数を思えば、どうしてそのうちの一人の顔を覚えていられるだろう。
互いに泣きながら話をしたそうだ。
御年90歳を超えていらっしゃる。
「みんな私のことを嫌っていたでしょうねえ。だけれども、どの子もとても良い子ばかりでしたよ」
穏やかな表情でそうおっしゃったそうだ。
私の父が80を過ぎてから入院したときは、環境の変化のために頭が混乱する「せん妄症」になってしまい、大変だったのに。
姉はこのことを同級生に話したくてたまらないのだが、病院には守秘義務があるので言うこともできず、日本にいない私に話してくれたというわけ。
ひとしきり、その話を堪能したあと、
「ちょっと待てよ?てことは、私たちが学生だったあの時には、
今の私たちよりもずっと若かったってこと?」
という事実に気づき、これに愕然とした。
あの頃、私たちにはお婆さんに思えたけれど、せいぜい50代の半ばぐらいだったのだ。
若い人にとって、年上の人の年齢などどうでもいいことで、
親ぐらいの人たちは、ひとからげで「年寄り」ということになっていた。
若作りしてヘラヘラしている私は、きっと若い人には完全に「年寄り」なんだろう。
因果は巡る。
それはわかっているけれど、若いってことはなんと残酷なことであろうか。