ソーシャルワークの TOMORROW LAND ・・・白澤政和のブログ

ソーシャルワーカーや社会福祉士の今後を、期待をもって綴っていきます。夢のあるソーシャルワークの未来を考えましょう。

介護保険制度改正議論が本格化

2008年05月25日 | 社会福祉士
 介護保険制度の財源は逼迫しており、改革が迫られていることは事実である。財源のみを抑制する基本的な方法としては、①軽度者を外すこと、②自己負担率をアップすること、③保険料を高くすること、④被保険者層を広げること、があり、これらのバリエーションを組み合わせることになる。さらに、全体としての自己負担率は変わらなく、小手先の改革ではあるが、保険料の租税の1対1の割合を崩し、租税割合を高くすることも考えられる案ではあるが、よほどのことがない限り財務省の抵抗で無理である。

 5月13日に財務省が出してきた提案は、介護保険制度改正に先手を打たれたものであり、出鼻をくじかれた感がいがめない。具体的には、上記の①軽度者を外すことを基調にしており、この軽度者は要支援だけでなく、要介護1や要介護2までと広くとらえており、中度者までを含んで外す提案である。ある意味、ドイツや韓国での対象者に近づけようということである。こうした軽度者を外していくについては、今回の改正ではなく、保険料が今回高くなった後の、次期改正の議論になるのではないかと予想していていたが、背に腹は代えられないということであろうか。

 具体的には、①全く軽度者を対象外にする場合、②軽度者の内でホームヘルパーからの家事などの生活援助のみを利用している者の生活援助給付部分を対象外にする場合、③軽度者は除外しないが自己負担を2割にする場合、に分けた提案である。①では年間の高齢者の保険料が15,000円、②では800円、③では1,700円下がるという。

 この財務省の案で決定的な問題は、軽度者には介護ニーズがないのかといった議論が不在であること、さらに、介護ニーズをどの程度公的に負担するのかの議論がされていないことである。このことは、高齢者の声に耳を傾けることである。以前にもアメリカの国民負担率で述べたが、相互扶助のもとで支え合うことの方が、はるかにリスクが少なく、同時に実質的な国民の負担は少なくなると考えるが、それは保険料を払い,サービスを利用する高齢者が最終的に決めることである。

 福田首相は「骨太の方針2006」に基づき、社会保障費の自然増分2200億円を毎年削減すると言っているが、それで国民のセフテイ・ネットが守られるかどうかである。財源の削減が先にあるのではなく、日本のセフテイ・ネットをどのようにするかの提案があり、結果として削減の議論をすべきである。さもなければ、国民は政治に不信を抱くだけである。その意味では、介護保険に限ったことではあるが、国民が議論する素材を提供してくれたことでは、財務省の提案を初めから否定することはないと思う。但し、怖いのは、これを既成事実化し、提案したことが国民の納得を得たかのごとく進むことである。

そのため重要なのは、利用者のことを最もよく知っているケアマネジャーが、上記の①から③の案が実現されれば、現在の利用者はどこが困り、どこが解決可能かを発言することである。ケアマネジャーには本来こうした利用者のアドボカシー(弁護)を行うことが仕事の一部であり、日常では、個々の要介護・支援者をアドボカシー(ケース・アドボカシー)しているが、今回は要介護・支援の高齢者全体をアドボカシー(クラス・アドボカシー)する正念場である。各市町村の介護支援専門員協会、さらには都道府県や全国の介護支援専門員協会は社会的な使命として、利用者を弁護する立場から発言していただきたい。

今日の議論は保険料や軽度者についてであり、他方、サービス事業者との関係での財源と介護報酬の関係についての議論も必要であるが、ここでは発言しておらず、それはそれで改めて議論されるべきことであり、既に、訪問介護や居宅介護支援事業については言及した通りである。

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8 コメント

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利用者の声を最も身近に聞けるものとして (どりーむ)
2008-05-23 22:36:26
白澤先生へ

どうして、先生のブログは、私が課題としていることに合ってしまうのでしょう
今日のブログのラスト。先生が介護支援専門員連絡会への社会的使命について、今、私が思っていることと同じです。とっても励みになります。

権利擁護ということについても、権利擁護=成人後見人制度等と思っているケアマネが多いようです。でも、日々のサービスが適切に利用できることも利用者の権利を守ることでもあり、介護保険制度が真に良い制度となるためにどうしていくかということも、利用者の権利擁護であるという意識を持つべきだと思います。

度重なる制度改正(悪)に振り回されないためにも、利用者の声を最も身近に接する私たちだからこそできること、しなければならないことの根っこがあるように思います
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同感です (白澤政和)
2008-05-23 22:50:55
 同感です。

 権利擁護イコール成年後見といったソーシャルワークには、私も苦々しく見ています。利用者の権利を擁護するためには、様々な手法や工夫をして、利用者の権利を守っていくことです。

 制度改革(悪)で、ケアマネジャーがやる気をなくしていくのではないか心配です。また、ケアマネジメントを導入することに関わってきた者として責任を感じています。ただ、現状でもケアマネジャーは利用者の権利を守る仕事ができると確信しています。それが、今日のブログの内容でもあります。
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小学2年生 (どりーむ)
2008-05-23 23:36:54
白澤先生へ

早速、お返事をありがとうございます。
介護保険制度が始まって、ようやく8年。介護支援専門員も、ようや小学2年生です。これから、だんだん自我を確立しかなくてはならない年齢に達したといえます。白澤先生他、多くの先生方からケアマネジメントの概念を教えて頂きました。今度は、教えて頂いたことをどう具体的にしていくのか、それが教えて頂いた私たちに課せられた課題だと思います。
どうぞ、これからも私たちの進むべき道を示唆して頂くとともに、歯がゆい思いをさせてしまったときには、どうぞ、叱咤激励をしていただきたいと思います。よろしくお願いします。

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責任感じます (白澤政和)
2008-05-23 23:58:24
 何人かのケアマネジャーから、私の講演を聞いてやりたくなったが、今はだまされた気持ちだと言われたことがある。

 本当は、ケアマネジメントは極めておもしろく、意義ある仕事だと確信しています。利用者には役立つ仕事だとも思います。ただ、介護保険制度の中で生きていかなくてはならないことが、つまらなくなっている部分があると考えています。

 本当の利用者の自立支援には、専門職には自由裁量が必要です。
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お邪魔します。 (高木知里)
2008-05-24 09:20:12
山形県介護支援専門員協会の高木です。この度は遠方での講演をご快諾頂き有難う御座います。先生に講演をご依頼申し上げたことを居宅のケアマネに伝え、先生から「何を伺いたいか」を質問いたしました。(十分なリサーチもしないままに研修委員レベルでご依頼申し上げたことをお許し下さい。)

軽介護度者が切り捨てられていくことを心配し、生活を支援する事(家事など)の重要性を話していました。この辺の課題については、まさしく先生がブログで書かれた通りのことを「現場の声」として語っていました。最後に「これでは措置時代のほうがいい(自分たちの裁量はない)」「コムスンを伸ばしておいてそれを規制するために改正している(制度設計のゆがみ)」と話し、白澤先生には「この状況で私たちは何をしたらいいのか」を話していただきたいと。

その話を聞きながら、これこそ「協会の使命だしソーシャルアクション」だと思っていたところでした。本日、ブログを読ませていただき、先生のブログで現実(実践者)と理論(研究者)は同じところで絡み合っていると思いました。

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実習施設について (しただ(有料老人ホーム職員))
2008-05-24 13:01:12
5月24日付けの実習指導者研修に関することで一言。実は、一昨年私のつとめるホームでこんなことありました。某大学の学生で、社会福祉士試験受験資格取得のため、私のホームで研修させて欲しいという申し出。聞けば、実習先は学生自身で探すよう求められているとのこと。私どもも受け入れ前向きに検討したところ、後日断りの申し出。よくよく調べたところ、有料老人ホームはその養成施設の対象外だとのこと。

おそらく今もその規定は変わらず、介護保険で特定施設の対象となっている有料老人ホームは養成施設に入っていないのではないでしょうか。因みに特定施設やグループホームは介護保険の規定では、高齢者施設の枠外で、在宅サービスの中にいちづけられています。グループホームなんかも対象外だったと思います(当時。すみません、もし既に制度が変わり、対象になっていたらごめんなさい)。

実習受け入れ等についても、刺激になりますし、積極的に考えているシルバー事業者もあると思います。そこら辺もぜひ検討ください。(重ね重ね、既に特定施設も養成施設対象になっていたとしたら、ごめんなさい。)
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有料老人ホームも可能 (Unknown)
2008-05-25 12:13:15
 ご意見を頂き、有り難うございました。したださんのご質問ですが、学校側としてもありがたい質問です。

 今回の法改正で、有料老人ホーム、グループホーム、特定施設をもっているケアハウスや高専賃等も可能です。詳しくは、例えば、「日本社会福祉士養成校協会」のホームページでの「」をご覧頂ければ、実習可能機関・施設が載っております。大幅に増えました。そのため、周知も大切なことが分かりました。

 なお、今回は社会福祉士をもっており、3年以上の経験年数があり、さらに指導者研修を受けた者のもとで実習を受けることになります。さらには、実習で学ぶことも一定、契約のもとで決められることになっています。そのため、機関や施設にはご多忙の中で、ご迷惑をおかけすることになりますが、先輩から後輩に仕事をつないでいく仕組みができるものと期待をしています。
 
 是非、指導者研修に多数ご参加下さい。
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有料老人ホームも可能 (白澤政和)
2008-05-25 12:17:55
 ご意見を頂き、有り難うございました。したださんのご質問ですが、学校側としてもありがたい質問です。

 今回の法改正で、有料老人ホーム、グループホーム、特定施設をもっているケアハウスや高専賃等も可能です。詳しくは、例えば、「日本社会福祉士養成校協会」のホームページでの「社会福祉士養成に係わる教育内容等の見直し案」をご覧頂ければ、実習可能機関・施設が載っております。大幅に増えました。そのため、周知も大切なことが分かりました。

 なお、今回は社会福祉士をもっており、3年以上の経験年数があり、さらに指導者研修を受けた者のもとで実習を受けることになります。さらには、実習で学ぶことも一定、契約のもとで決められることになっています。そのため、機関や施設にはご多忙の中で、ご迷惑をおかけすることになりますが、先輩から後輩に仕事をつないでいく仕組みができるものと期待をしています。
 
 是非、指導者研修に多数ご参加下さい。
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