塀の上の仔猫

個展出品作からの1点「ハラハラ 初めて塀の上」

時折カメラとスケッチブックを手に、魅力的なノラ猫モデルとの出逢いを求めて取材（？）に出かけます。

この絵のモデルになった子供三毛に出逢ったのは、もう7～8年も前になります。
場所はノラ猫のメッカともいうべき谷中。
おぼつかない足取りで塀の上を歩く仔猫の姿に、思わず連続してシャッターを切りました。
しかし、いざ作品にしようとあれこれ構想を練り始めると、何故か“これぞ”という構図になかなかたどり着くことが出来ず、保留状態のままで何年も過ぎてしまいました。

そして今回、いったい何がきっかけなのかは分かりませんが、この思い切り横長の大胆な構図が突然降りてきました。
機が熟した・・・ということなのでしょうか。
描きながら、何だか嬉しくてたまりませんでした。


個展が始まってからまだ2日しか経っていませんが、この作品、思わぬお褒めのお言葉をいただきます。
「この塀がイイですねぇ。　ところどころ欠けていたり、薄汚れたところが年月を感じさせてくれて・・・」な～んて。

実はこの塀、もう存在していません。
1～2年前だったか、久し振りにノラたちに会いに行ったところ、塀だけでなく、その近辺全体がきれいに整備され、私のお気に入りだった景色は姿を消していました。

古くなったものを新しくする・・・その必要性の有無は別として、長年存在してきた古いものでしか持ち得ない魅力は失いたくないものです
そこには一朝一夕では決して作ることができない、何かかけがえのない大切なものがあるように思えてなりません。

写真の中に残された風景が甦らせてくれた、その時の私が感じた“何か”を、これからも絵の中で表現していきたいと思います。


ところで・・・、“塀”に対する熱心な感想を下さった方のほとんどが、最後に慌ててこう付け加えてくださいます。
「あっ、あっ、も、もちろん子猫も可愛らしくて、素敵です・・・・・・」と。

（お気遣い？）ありがとうございます。