Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

§165「貧しき人びと」ドストエフスキー, 1846.

2023-02-10 | Book Reviews
 もはや、昇進が望むべくもないとはいえ、周囲からの評価に過敏に反応してしまう独り身の中年官吏と、誰からも支援を望むべくもなく孤児となったうら若き少女との物語です。

 ふたりが綴った手紙を読むと、それぞれの「現実」という生活において、それぞれがそう思う「世界」なるものを、それぞれに記されていますが、それらは近づこうとするものの交わることはなく、それぞれに自ずから分かれていきます。

 それを運命と思うことで悲哀と諦めに心を寄せることもできるかもしれませんが、ひょっとしたら、彼にとっては彼女との物語、彼女にとっては彼との物語として、そして読む人にとって自ずから分かる世界を存在させているのかもしれません。

「書きだしの数行をご覧になるとき、その先はなんなりと、お心の中でお読みとりくださいまし」(p.212)

初稿 2022/12/17
写真
「SUMMER」朝倉響子, 1984.(近景)
「NIKE」朝倉響子, 1981.(遠景)
撮影 2022/12/17(東京・墨田川テラス@新川)