Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

♪54「夏くれば」

2022-07-02 | Season's Greeting
 小林秀雄は「西行」のなかで約八百年前に存在した放浪の詩人についてこう記しています。

「孤独という得体の知れぬものについての言わば言葉なき苦吟を恐らく止めた事はなかったのである」(p91, 1942.)

 そして、数ある詩のなかから幾つかを挙げたなかの一句。

「雲雀あがる おほ野の茅原 夏くれば 涼む木かげを ねがひてぞ行く」(p91, 1942.)

 ひばりが春から夏にかけて羽を休める場を野原から木陰へ移ろうことになぞらえて、環境の変化に応じて生じる出来事や物事のかたちやありようもまた、言葉を介して自らがどう捉えどういう意味を与えるかによって変わりうることを示唆しているのかもしれません。

初稿 2022/07/01
出典 小林秀雄, 1961.『モオツァルト・無常ということ』新潮文庫, pp.77-97.
写真 ちご沢の森で涼む木かげ
撮影 2020/06/07(埼玉・東松山)