Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

§108「反逆(上)」(荒木村重) 遠藤周作, 1989.

2021-01-23 | Book Reviews
 「信長は彼にとって憎しみと恐れ、コンプレックスと嫉妬、そういう複雑な感情を抱かせる相手だった。一度でもいい。彼はあの信長の顔が恐怖で歪むのを見たかった」

 司馬遼太郎の歴史小説は、崇高な志と合理的な考え方を兼ね備えた英雄を描かれているような気がしますが、遠藤周作の歴史小説は、歴史上の人物でさえも時代や自らが置かれた環境に翻弄され、心奥底深くに潜む自己を描いているような気がします。

 コンプレックスとは自らの劣等感や不信感や恐怖感を相手に投影してしまうこと。西国の雄 毛利輝元に睨みを利かせる要衝である摂津 有岡城主、荒木村重が織田信長に反旗を翻したのは、ひょっとしたら自らのコンプレックスを取り除こうとしたのかもしれません。

 一方、村重の妻 だしは、義父 信長への不信感や恐怖感をコンプレックスとして投影させず、自らが受け入れたのかもしれません。

「みがくべき 心の月の曇らねば 光とともに西へこそ行く」

 有岡城に残された一族と共に寄り添い、凛とした最期を迎えた彼女の辞世の句からは、西の彼方にあるとされる浄土へ迷いなく旅立つ、あるがままの自分としての自己と出逢えたような気がします。

初稿 2021/01/23
校正 2021/05/02
写真 有岡城跡
撮影 2020/04/18(兵庫・伊丹)
コメント
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