自分の方へ向かう犬・・・・微妙なタイトルである。
自分は当然自分(人間)だと考えるのは早計かもしれない。自分は犬自身であるかもしれず、自分(犬)が自分(犬)に向かうという意味を含んでいる。そして重要なのは犬は作家自身の化身とも考えられ、犬は他者としての世界全体とも考えられる点である。
視覚的には限定された空間であるように見えるが、内実は広く大きい。しかし、常に原点であるこの距離感に立ち戻るという構図である。
この世界を沈める(攻撃する)としても、とてつもない反発力で浮上してくることは必至であるが、決して解放された自由の身であるわけではなく、心身は動こうとすれば相応の圧をはねのけなければ前身は叶わない。
「自分の方へ向かう犬」は限定を定めない流動的な空気感(世界観)を秘密裏に主張している。即ち大いなる振動である。
写真は『若林奮 飛葉と振動』展・図録より 神奈川県立近代美術館