続・浜田節子の記録

書いておくべきことをひたすら書いていく小さなわたしの記録。

若林奮『Ⅰ-4-2 LIVRE OBJET 後からの試作Ⅰ』

2015-12-30 06:54:37 | 美術ノート

 全体の印象からすると、重量があり頑強に固定された人工物として、がんじがらめに拘束された世界と換言できる作品である。

 美や情感とは無縁だが、真実が隠されているオブジェ・・・胸を打つのである。感動とは違う胸の鼓動、震えに近いかもしれない。

 直線・正円・正方形は人の為せる技である。人為・・・人間の創り上げた世界の規則正しく積み上げられた社会の側面、上部には大きな重し(権力)が束縛とも思えるロープで下部の社会を括りつけている。背後に見えるハンドルは手綱の強弱を制御するものに思われる。

 台座(地球)の上の人間社会は万全だろうか、長く続くと信じ未来永劫を願う社会の礎は、反旗を翻し体制が変わるかもしれない危機を潜ませている。下剋上の割拠は果てなく繰り返されている。
 否、それ以上に、この地上に平穏な未来が約束されているわけでないことは地球の歴史を見れば明らかな事実である。
 わたし達が動かぬものとして信じているこの地上は地球を取り巻く幾つかのプレート上に在り、ぷかぷか浮遊状態にあるプレートは刻々動き続けているのである。

《後からの》Staudy Ⅰafter Livre Objet・・・《それら物理的現象を学習したうえでの見解でもある作品(試作)である》ということだと思う。

 作品は明らかに浮いている。
 平穏に見える強固な社会の風景の不穏、若林糞は、見えない地上の空気を象っている。

 (写真は神奈川県立近代美術館/葉山『若林奮 飛葉と振動』展・図録より)


『銀河鉄道の夜』184。

2015-12-30 06:30:35 | 宮沢賢治

「標本にするんですか。」
「いや、証明するに要るんだ。ぼくらからみると、ここは厚い立派な地層で、百二十万年ぐらゐ前にできたといふ証拠もいろいろあがるけれども、ぼくらとちがったやつからみてもやっぱりこんな地層に見えるかどうか、あるいは風か水やがらんとした空かに見えやしないかといふことなのだ。わかったかい。けれども、おいおい。そこもスコープではいけない。そのすぐ下に肋骨が埋もれてる筈ぢゃないか。」大学士はあわてて走って行きました。


☆評(品定めをして)翻(作りかえる)章(文章)は、妙(不思議)な様(方法)の講(はなし)である。
  律(きまり)を破る字の想(考え)である。飛躍した辞(ことば)を当て、番(かわるがわる行う)念(考え)である。
  全(すべて)の章(文章)に己(わたくし)は、二つの相(ありさま)を兼ねている。
  普く推しはかる空(根拠のない)幻を、仮に録(文字に書き記している)。
  毎(そのたびに)括(くくる/一つにまとめる)題(解決すべき事柄)を学ぶ試みが総ての考えである。


『城』2189。

2015-12-30 06:18:41 | カフカ覚書

この長い仕切り机のすぐむこうには、低い小さな机があって、書記っちがすわっています。職たちはお役人に言われたら、その口授を筆記するのが役目なのです。バルナバスがいつもふしぎにおもうのは、この口述筆記のやりかたです。


☆ぎっしり詰まった書見台の前に低い小さな机があり、書記たちが座っています。反抗をのぞむと、彼らが小舟を口授し筆記するのです。バルナバス(生死の転換点)がいつも驚くのはこの出来事です。


マグリット『風景の魅惑』

2015-12-29 07:12:26 | 美術ノート

 『風景の魅惑』
 魅惑されるべき風景がない。風景という固定観念を打ち消しているのだろうか。

 額縁の中に描かれた風景を見る、切り取られた風景が額縁の中に納められる。慣習化されたそれらの組み合わせを鑑賞者は期待する。
 しかし何も描かれていないどころか、貫通する空虚は、有るはずのものが無いという状態である。しかも、『風景』と題しているにもかかわらず、額縁の中に在るはずの風景が見当たらないという落胆は、見る者に不信を抱かせてしまう。
 違えた約束・・・こうあるべき約束の欠如。
 傍らの鉄砲は何を意味するのだろう、遠く狙いを定め撃破する…破壊のエネルギーを想起させるモチーフである。立てかけてある赤い壁、赤色は危険の暗示なのか、あるいは何かを打破する闘志なのだろうか。

 額縁は、強い主張や意志があるかのように、支えもなく立っている。背後の黒に近い暗緑色は、壁と見まがうように描かれてはいるが幻の時空ではないか。

 鑑賞者は額縁の中に風景を探すが、この作品全体が魅惑の要素を内包した静かなる危機を描いている。

 有り得ない状況を、あり得るように描いている魅惑。風景と命名された額縁の中に至極当然に風景を探す眼差しの否定。眼差しは額縁を通過し暗澹を覗き見る。明らかに空無であるが、個人的には過去や未来を思い描くこともあるかもしれない。
 大いに楽しむべき歓喜は描かれていないが、自由に想起することは可能である。

 文字(言葉)は、現象(光景)を喚起させるが、実態はない。
 たとえば「風景」と書かれていれば「風景」を期待する脳の仕組みは、単にデーターの集積による観念に過ぎない。
 鑑賞者の眼差しを問う作品であり、眼差しと思考との接点が介在している。


(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)


『銀河鉄道の夜』183。

2015-12-29 06:32:21 | 宮沢賢治

いま川の流れてゐるとこに、そっくり塩水が寄せたり引いたりもしてゐたのだ。このけものかね、これはボスといってね、おいおい、そこつるはしはよしたまへ。ていねいに鑿でやってくれたまへ。ボスといってね、いまの牛の先祖で、昔はたくさん居たさ。」


☆千(たくさん)の縷(連なる糸)の縁(つながり)を推しはかる記である。
  隠れた策(くわだて)の語(ことば)を千(たくさん)組みあわせ、釈(意味を解き明かすこと)を拠りどころにしている。


『城」2188。

2015-12-29 06:18:35 | カフカ覚書

もっとも、いつまでもおなじ本のところに立っているわけではありません。しかし、それは、本をとりかえっこするのではなくて、席を交替するんです。バルナバスがいちばん感心するのは、席を交替するときにお役人たちがたがいにからだを押しつけあいながら移動する光景だそうです。ほかでもありません。場所が狭いためです。


☆それにもかかわらず、いつも同じ本のままではありません。驚くべきことにバルナバス(生死の転換点)は、交換するのでもなく本を区別するのでもありません。互に位置を交替し、通りすがりに押していくそうです。狭義の空間に関してですが。


マグリット『呪い』

2015-12-28 07:24:52 | 美術ノート

 『呪い』青空に浮かぶ雲・・・ただそれきりである。
 空を見上げる・・・多くは祈りなど希望につながる行為である。しかし、『呪い」とある。
 空に負の要因はあるか。
 「災いは天から降ってくる」という、一理あるかもしれない。

 空を見上げて呪うとは、どういうことだろう。空の果て、遠い過去へのやるせない思いなのだろうか。

 災害は空の彼方に在る太陽と雲の関係にに起因していることが多い。雲のない晴れ間続きの干ばつ(日照り)、雲に覆われた長雨、地球上の照度の差異による風の強度、極寒、極暑・・・。

 雲によって引き起こされる災害、水の三態は地球の運命を左右してきたし、不穏を孕む大きな要因である。

 負の産物をもたらすものとして恨めしく空を見上げ、雲の動向から目を離せない地上の存在者たち。

 現れては消え、消えては現れる予測不可能な雲の行方に心を痛めている。
 災害という物理的現象は、人の心に大きな傷を残す。辛酸をなめても運命に従うしか術はない。英知、力の及ばない自然の理である空の雲は、確かに『呪い』という心理的対抗手段を持ってしか怨みを埋めることは出来ない。

 神の力も及ばぬ自然の理の根源として、雲の散在する青空を描いたのだと思う。

(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)


怖いほどに・・・。

2015-12-28 06:45:34 | 日常

 すぐに忘れる、怖いほどにすぐに忘れてしまう。
 今、何かをしようとしていたけれど、何をしようとしていたのか思い出せない。まったく《今少し前》に考えていたことが記憶の中からすっぽり抜け落ちている。

 まずいな・・・こういうの認知の始まりではないか。

 自分に出した指令が、従おうとしてその指令が消失していることに気付く。たった今、今少し前・・・。

 意気消沈してぼんやり考える。(何だったのか)ダメだ…どうしても出てこない。こんな風にいろいろ忘れていくのだろうか。なのに思い出したくないような過去の出来事が予告もなしに脳裏を走る。

 わたしの記憶装置はどうなっているのだろう。
 今日為すべきことを明日に延ばす、そうしてそれらは積み重なって為すべきことは永遠に忘れ去られることもある・・・かもしれない。

 怖いけれど、わたしの中の葛藤は他人に見えないので忠告されることも叱責されることもない。

 けれどよく考えてみると、今に始まったことじゃないことに気付く。
「先生が今お話ししたでしょう、それを思い出せばいいんです」と、教師。
(…ええっ、何をお話してくれたんだっけ、思い出せないよ)と、小学生のわたし。


 ずっと昔から、今に始まったことじゃないのかもしれない。


『銀河鉄道の夜』182。

2015-12-28 06:34:42 | 宮沢賢治

ここは百二十年前、第三紀のあとのころは海岸でね、この下からは貝がらも出る。


☆飛躍した字の自由を番(かわるがわる)念(考え)、全て題(テーマ)の太陽を基(根本)にしている。
  皆(すべて)の眼(要点)は化(形、性質を変えて別のものになる)の解(部分部分に分けて)推しはかる。


『城』2187。

2015-12-28 06:27:19 | カフカ覚書

机のうえには、大きな本をひろげて、順々にならべてあります。そして、たいていの本のそばにはお役人が立っていて、それを読んでいます。


☆論点を示す偉大な本を広げて順々に並べてあります。そして本には大抵反論があり、それを読解しています。