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セレンディピティ ダイアリー

映画とアートの感想、食のあれこれ、旅とおでかけ。お探しの記事は、上の検索窓か、カテゴリーの各INDEXをご利用ください。

ピエール・ボナール展

2018年11月09日 | アート

招待券をいただいて、六本木の国立新美術館で開催中の「オルセー美術館特別企画 ピエール・ボナール展」(~12月17日まで)を見に行きました。オルセー美術館のコレクションを中心に、130点以上の作品で構成される過去最大級の回顧展です。

ボナールは、ナビ派(ゴーギャンに影響を受けた芸術集団)の一員として19~20世紀に活躍した画家。日本の浮世絵に影響を受けて、平面的な装飾絵画や、掛け軸風の縦長の作品、屏風まで作っていて「日本かぶれのナビ」という異名もあるそうです。

【関連記事】オルセーのナビ派展 (2017.3)

私がボナールの作品に何より魅力を感じるのは、彼の作品にあふれる明るさや温かさ、そして豊かさ。例えばゴッホのような、狂おしいほどの情熱には欠けるかもしれませんが、ただひたすらに幸福感を与えてくれる作品でした。

身の回りの世界を愛情深く、親密に描いた作品の数々が、当時の人々に装飾画として人気を集めたというのも納得です。かくいう私も、ワシントンのナショナルギャラリーにある、ボナールの Table Set in a Garden という作品が好きで、長らくポスターを飾っていた時期がありました。

モネ、ルノアール、マティスなどとの華やかな交友関係。ニースに近いル・カネの別荘。当時まだ珍しかった写真や映像といった表現方法をいち早く取り入れる行動力。ボナールが豊かで満ち足りた人生を送ってきたことが、彼の画業から伺えました。

アンドレ・ボナール嬢の肖像、画家の妹 1890年

真っ赤なスカートとかわいいわんちゃんに目が釘付けになりました。ボナールは動物好きで、猫1匹と犬4匹を飼っていたそうです。縦長なのは、ジャポニスムの影響でしょうか。

大きな庭 1895年

妹夫婦の別荘でのひとこま。一面のグリーンが美しい。

フランス=シャンパーニュ 1891年

一見ロートレックみたいですが...^^ 初期の頃のボナールは、リトグラフによるポスターや本の挿絵、版画集の制作に取組んでいたそうです。

化粧室 あるいは バラ色の化粧室 1914-21年

ボナールは妻マルトのヌードをたくさん写真に収めていますが、同じくマルトの裸婦像も数多く残しました。モデルのバラ色の肌と、バラ色の室内装飾がよく調和し、光あふれる美しい作品でした。

ル・カネの食堂の片隅 1932年

ボナールが描く食卓の風景が好きです。これは別荘のあったル・カネの食堂の風景。赤・黄色・ピンクと、色のバランスがすばらしい。

セーヌ川に面して開いた窓、ヴェルノンにて 1911年

マティスの「開いた窓」の影響を受けた作品。マティスはニースに別荘があり、ボナールと交流がありました。印象派の影響を受けた「ボート遊び」という作品もありました。

アンティーブ(ヴァリアント) 1930年頃

アンティーブは、ニースに近い町。太陽がきらめく美しい夏の風景です。


フェルメール展

2018年10月15日 | アート

奈良旅行記はしばしお休みします。

上野の森美術館で開催中の「フェルメール展」を見に行きました。東京は2019年2月3日まで、その後2月16日から大阪に巡回します。

バロック期を代表するオランダの画家フェルメール。17世紀に活躍し、その後忘れ去られた不遇な画家ですが、19世紀になってから作品が再び脚光を浴びるようになりました。寡作で知られ、現存すると考えられているのは35作品です。その希少性もあって日本でもかなり人気の高い画家のひとりです。

今回は35作品中9作品が東京で公開(大阪公開も含めると10作品が来日)という、過去最大規模のフェルメール展です。(途中で作品の入れ替えがありますので、詳細はご確認ください) また本展では、フェルメールと同時代に活躍したオランダ人画家たちの作品約40点も合わせて展示されています。

***

チケットは混雑緩和のため日時指定制となっていたので、前日にチケットぴあのサイトで購入しておきました。9時半からの回で10時頃に訪れ、待つことなく入場できましたが、会場内はそれなりに混んでいました。時間帯やタイミングでは日時指定でもかなり待つことがあるようです。各回の後半の時間が比較的すいているということです。

またチケットには音声ガイドと小冊子がついていました。音声ガイドはふだんはめったに利用しませんが、石原さとみさんの声は落ち着いていて聞きやすかったです。いつもは作品リストにメモをとりながら鑑賞していますが、小冊子がついているのでその必要もなく、作品を鑑賞することに集中できました。

 

ハブリエル・メツ―「手紙を読む女」 1664-1666年頃

まずは17世紀オランダ人画家の作品から。この作品はフェルメールから影響を受けたと考えられていて、構図や柔らかい色調、女性が着ている黄色い上着までそっくりです。同じメツ―の「手紙を書く男」と対になっていて、物語が感じられる作品でした。メイドが緑の布をめくって見ている航海の絵は、前途多難な愛を暗示しているそうです。

エマニュエル・デ・ウィッテ「ゴシック様式のプロテスタントの教会」 1790-1685年頃

実在する教会ではなく、異なる建造物の要素を組み合わせて描かれた、想像上の教会だそうです。音の反響が聞こえてくるような大きく荘厳な空間に引き込まれました。当時のオランダでは死者を教会に埋葬する風習があったそうで、手前にそれを示す墓穴が描かれています。

ヤン・ウェーニクス「野ウサギと狩りの獲物」 1697年

17世紀のオランダでは狩猟が貴族の特権で、獲物を描いた静物画は富を誇るものとして人気があったそうです。中央の野ウサギは頭から血を流していますが、毛並みがふわっふわでつややかで、まるで生きているようでした。

ヨハネス・フェルメール「マルタとマリアの家のキリスト」 1654-1655年

そしていよいよフェルメールの展示室へ...。本作はフェルメール唯一の聖書を題材にした作品で、かつ最も大きな作品だそうです。”ルカによる福音書”からの有名な一場面ですが、私は平野啓一郎さんの小説「マチネの終わりに」にあるやりとりを思い出しました。3人、特にキリストのお顔立ちが今どきの若者風?に見えて驚きました。

ヨハネス・フェルメール「手紙を書く婦人と召使い」 1670-1671年

この時代、恋人同士で手紙をやりとりするのが流行っていたそうで、手紙を読んだり書いたりしている作品が数多くありました。^^ 窓から入る柔らかい光、幸せな時間が満ちてくる美しい情景でした。

ヨハネス・フェルメール「ワイングラス」 1661-1662年

女性が口にあてているワイングラスはほとんど空で、男性が継ぎ足そうと待ち構えています。窓ガラスには馬の手綱を握る女性の姿が絵が描かれていて、女性に節制を促すメッセージがこめられているとか...。フェルメールといえばブルーの美しさで知られますが、私は今回、赤の美しさに魅せられました。

ヨハネス・フェルメール「手紙を書く女」 1665年頃

黄色い上着は本展で展示されている「真珠の首飾りの女」「リュートを調弦する女」にも描かれています。同じモデルさんでしょうか。前述のハブリエル・メツ―の「手書きを読む女」にも同じような黄色い上着が描かれています。

ヨハネス・フェルメール「牛乳を注ぐ女」 1658-1660年頃

フィナーレを飾るのは、ポスターにも描かれているこの作品です。ナビゲーターの石原さとみさんが、現代のSNSのような...とおっしゃていて、一瞬、え?と思いましたが、今まさに牛乳を注いでいる瞬間を切り取っているところや、小物の配置、光の捉え方など、なるほどインスタっぽい?うまいことを言うなーと、妙に納得しました。^^


水を描く @山種美術館

2018年08月21日 | アート

山種美術館で開催中の「水を描く」展(~9月6日まで)のギャラリートークに参加してきました。春に開催された「桜 さくら SAKURA 2018」展は ”美術館でお花見!” がテーマでしたが、今回は ”美術館で納涼!” がテーマです。

折しも今年は西日本で大きな水の災害がありましたが、一方で日本を取巻く豊かな水資源は、これまで美術の世界においても、芸術家たちにさまざまなインスピレーションを与えてきました。今年の夏は例年にない暑さでしたが、しばし酷暑を忘れて、涼の世界を堪能しました。

東山魁夷 「緑潤う」 1976年

親交のあった川端康成から、”今のうちに京都を描いて残しておいてください”と請われて手掛けた連作「京洛四季」の一作です。どこかで見た風景と思ったら、今年5月に訪れた修学院離宮の浴龍池でした。

これはその時撮った写真を同じ構図で切り取ったものですが、魁夷は見たままではなく、色も形も再構築しているのがわかります。”東山ブルー”とよばれる、青みがかった独特の色彩が、夢の中のような幻想的な世界を作り出していました。

宮廻正明 「水花火(螺)」 2012年

投網漁の網を花火に見立てた大胆な構図の作品。地は、薄い美濃紙を重ねて裏彩色という技法が取り入れられていて、表に絹が貼り込まれています。近くで見ると、凸凹した表面に青の点描と網目が細かく描きこまれていて、その繊細さに見入ってしまいました。デザイン性があってとても好きな作品です。

竹内栖鳳(たけうち・せいほう) 「緑池」 1927年

池からひょっこりカエルが顔を出している、なんとも愛らしい作品。水の透明感がみごとに表現されています。

小野竹喬(おの・ちっきょう) 「沖の灯」 1977年

ギャラリートークではスルーでしたが、私はこの作品とても好きです。たぶん幾何学的でシンプルな作品に弱いんだな...^^; 日暮れのピンク色に染まった雲、遠くにちらちらと光る漁火、詩情を感じる作品です。

川端龍子(かわばた・りゅうし) 「鳴門」 1929年

この作品は撮影することができました。開館に合わせてでかけたので、誰もいないうちにパチリ。目の覚めるような鮮やかな青色に圧倒されました。貴重な群青の絵具を3.6kgも使っているそうです。

迫力あふれる作品ですが、龍子は鳴門に行ったことがないそうです。この絵も最初は小田原の江ノ浦を描いていたのを、龍子が立ち上げた”青龍社”の第一回展に出展するために、途中から鳴門に描きかえたのだそうです。

奥村土牛 「鳴門」 1959年

こちらの鳴門は、以前「古径と土牛」展で見ました。山種美術館を代表する所蔵作品のひとつです。土牛は龍子と違い、実際に鳴門に足を運んで、揺れる船の上で、夫人に帯をつかんでもらいながら何十枚もスケッチしたそうです。写真だとうまく伝えられませんが、淡い緑色がとてもきれいです。

千住博 「ウォーターフォール」 1995年

滝の轟音が聞こえてきそうな清涼感あふれる作品。この絵は実際にキャンパスを立てて、上から絵の具を流して描かれているそうです。5色の滝を並べた「フォーリングカラーズ」という作品も、ウォーホルみたいな趣向で楽しかったです。

ゆっくり水のアートを鑑賞したあとは、いつものように1階の"Cafe椿"でひと休み。企画展にちなんだ和菓子をいただきました。5種類の中から私が選んだのは、小茂田青樹の「春雨」をモチーフにした”花の雫”というお菓子。雨に濡れた海棠の花が表現されています。


世界報道写真展2018

2018年07月15日 | アート

上野のあとは恵比寿に移動して... 東京都写真美術館で開催中の「世界報道写真展2018」を見に行きました。東京では8月5日まで、のち大阪、大分、京都、滋賀に巡回します。

毎年開催されている「世界報道写真コンテスト」で、今年入賞した8部門42人の作品が展示されています。ポスターの衝撃的な写真は今年の大賞作品で、ベネズエラ・AFP通信のロナルド・シュミット氏が受賞しました。ベネズエラで大統領に対する抗議デモが警察機動隊と衝突。オートバイの燃料タンクが爆発し、炎に包まれた若者の姿を追っています。

このほか今年も、テロや紛争、弾圧、貧困など、過酷な現状を捕えた作品が数多くありました。ここでは比較的刺激の少ない作品をご紹介しますが、一見アートのように見える作品でも、描かれている背景は重いです。

昨年は先進国を中心に女性が差別やハラスメントを訴えたMe Too運動が起こりました。しかしその声さえも上げられない女性たちがいることを、本展を見て改めて思いました。上の写真は人々の部・組写真1位に選ばれた、オーストラリアのアダム・ファガーソン氏の作品。ナイジェリアでボコ・ハラムに誘拐され、自爆テロを強要された少女たちを撮影しています。

この他にも、経済の衰退でセックスワーカーにならざるをえなくなったロシアの女性たち、全身を覆う水着を着てようやく水泳を教えてもらえるようになったイスラムの少女たち、性暴力を避けるために思春期になると胸が目立たないようバンドで圧迫させられるカメルーンの少女たちをとらえた作品がありました。

ミャンマーの少数民族ロヒンギャの苦難を描いた作品もいくつかありました。これは一般ニュースの部・単写真3位に選ばれた、バングラデシュのムハンマド・マスフィクアー・アクタール・ソーハン氏の作品。対岸の仮設住居区から自分たちの村が燃えている様子を見守るロヒンギャ難民を撮影しています。

環境の部・組写真2位に選ばれた、イタリアのルカ・ロカテッリ氏の作品。狭い国土ながら革新的な農業技術で、アメリカに次ぐ世界第2位の食品輸出国を実現しているオランダを紹介しています。農地が年々減少し、食料自給率が低い日本の将来へのヒントが見つかるかも...と思いながら見ました。

人々の部・単写真1位に選ばれた、スウェーデンのマグナス・ウェンマン氏の作品。レジグネーション(生存放棄)症候群という病気で、何年も昏々と眠り続けているコソボ難民の姉妹の姿をとらえています。原因は不明ですが、トラウマやうつ病が関係すると考えられています。少女たちが体験した過酷な過去が、内なる命を奪っているように感じられました。

未知の文化に出会えることもこの写真展の魅力です。これは人々の部・単写真3位に選ばれた、中国のリ・ファイフェン氏の作品。中国中部の黄土高原で2000年以上の歴史をもつ横穴式洞窟住居”ヤオトン”に住む兄弟の姿をとらえています。土の中なので断熱効果も抜群だとか。窓から入る柔らかな陽射しにフェルメールの絵画を思い出しました。

スポーツの部・組写真3位に選ばれたデンマークのニコライ・リナレス氏の作品。スペイン国内でも賛否両論の闘牛ですが、多くの少年がスターになることを夢見て闘牛学校に通っているそうです。夜の街中でひとり練習する少年の姿に、ふと映画”リトル・ダンサー”を思い出しました。

自然の部・単写真2位に選ばれた、ドイツのトマス・P・ペシャク氏の作品。南アフリカ領マリオン島に生息するイワトビペンギンは、絶滅危惧種に指定され、数が年々減っているそうです。ペシャク氏は、やはり数が激減しているナミビアに生息するアフリカペンギンの写真でも今回入賞しています。

***

日本の写真家の入賞はありませんでしたが、日本を撮影した写真では、(日光猿軍団など)ニホンザルを興行目的で訓練する文化を描いた作品、また世界各地のごみ問題をとらえた作品の中に日本の古紙回収の写真が含まれていました。

今年の受賞作品は、こちらのサイトで見ることができます。
WORLD PRESS PHOTO 2018

また他の年の感想はこちら。
世界報道写真展2019
世界報道写真展2017
世界報道写真展2011-2016


ミラクル エッシャー展

2018年07月12日 | アート

梅雨入りして間もなくのこの日、雨の中、美術館をはしごしてきました。まずは上野の森美術館で開催中の「ミラクル エッシャー展」へ。(7月29日まで東京。のち大阪、福岡、愛媛に巡回予定)

エッシャー(1898-1972)は、数学的要素をもつ作品で知られるオランダの版画家です。特に錯視を利用して描かれた数々の”だまし絵”は、見たことのある方もいらっしゃると思います。本展はエッシャーの生誕120年を記念して開催されるもので、イスラエル博物館のエッシャーコレクションから約150点が展示されています。

上昇と下降 1960

私のエッシャーとの出会いはまだ小さい頃。ピアノの先生の家に、エッシャーや安野光雅さんの絵本が何冊もあって、順番を待つ間いつも飽きることなく見入っていました。おそらくこれが私が数学の不思議と出会った原点で、以来数学好きがずっと続いて結局大学でも専攻することになりました。そんな懐かしさもあって、楽しみにしていた展覧会です。

本展では、科学、聖書、風景、人物、広告、技法、反射、錯視の8つのキーワードをもとに、エッシャーの世界を紐解いています。風景の作品を見ると、のちの錯視の作品に生かされていることがよくわかります。緻密で、遠近や全体・各部分のバランスが正確で、まるで設計図のよう。だからバランスを意図的に崩して、トリックを仕込むことができるのでしょうね。

アトラニ、アマルフィ海岸 1931

エッシャーは地形の変化の乏しいオランダで育ったので、旅先、特にイタリアやスペインで出会った風景に惹かれたそうです。また、アルハンブラ宮殿で幾何学的な装飾模様に魅了され、研究を重ねて、のちに幾何学的パターンを取り入れた独自の表現を確立しました。

写像球体を持つ手(球面鏡の自画像) 1935

エッシャーは自画像を全部で12点残しているそうですが、本展で展示されていたのはどれもひとクセあっておもしろかったです。例えばこれは、球体に写った自分の姿が、周辺の空間の歪みとともに描かれています。エッシャーならではの自画像ですね。

表皮 1955

エッシャーは、木版、リノカット、リトグラフ、メゾティントと、いろいろな手法で版画作品を作りました。妻を描いたこの作品は、黒(輪郭)・ライトグレー(雲)・ダークグレー(雲)・赤の4版からなる木版画ですが、4つの版木もそれぞれ展示されていて、興味深く見ることができました。

爬虫類 1943

これも好きな作品です。エッシャーがよく用いたトカゲのモチーフが、2次元から3次元、また2次元へ。無限ループの4コマ漫画のように描かれているのがおもしろい。

昼と夜 1938

これも大好きな作品。左右対称の2つの村が昼と夜2つの世界にみごとに描き分けられていて、いつまで見ていても飽きることがありません。

メタモルフォーゼII 1939-40

そして本展のフィナーレを飾るのは、エッシャーの集大成ともいうべきメタモルフォーゼ。エッシャーおなじみのモチーフが、さまざまな姿に変容しながら一周しています。途中には、あのアマルフィの海岸も。エッシャー自身による貴重な初版プリントだそうです。


あなたの存在に対する形容詞 ミルチャ・カントル展

2018年06月08日 | アート

映画の後に、銀座のメゾンエルメス フォーラムで開催中の「あなたの存在に対する形容詞 ミルチャ・カントル展」(Adjective to your resence by Mircea Cantor) を見に行きました。

ミルチャ・カントルは1977年ルーマニアに生まれ、現在はパリを拠点に活動している現代美術のアーティストです。私は以前、現代アートの祭典「ヨコハマトリエンナーレ2011」で氏の作品を鑑賞する機会があり、2つの会場で見たどちらの作品も強く印象に残っていました。(リンク先から当時の記事に飛びます)

Tracking Happiness (幸せを追い求めて) @横浜美術館
白装束の女性たちが白い空間をひたすら掃き清めるスピリチュアルな映像作品

Holy Flowers (聖なる花) @日本郵船海岸通倉庫
無骨な釘やビスを、鏡を用いて万華鏡風に表現した写真作品

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今回はカントル氏の日本における初個展。氏の作品がもつ透明感のある無機質的な世界は、レンゾ・ピアノ設計のガラスブロックの空間にぴたりとマッチしていると思いました。作品は全部で3点ありました。

上からぶら下がっているのは「風はあなた?」という作品です。この展示室には、左奥に見えている身長より低い小さな引き戸から入りますが、中に入るとカランコロンと金属が織りなす涼やかな音色に迎えられます。上から下がっている何十もの風鈴と、小さな引き戸がワイヤーでつながっていて、引き戸が開くたびに音がなる仕組みとなっていました。

下から見上げたところです。金属管でできたシンプルなウィンドベルですが、整然と並びなかなかの迫力でした。そういえば昔の個人商店には、お客さんが引き戸を開けて入るとチャリンと鳴って奥に知らせるベルがあったっけ...と思い出し、このアナログな仕掛けがなんとも懐かしく感じられました。

手前にあるのは「呼吸を分かつもの」という作品です。アクリルグラスでできた屏風に、何本もの白い直線が交わっています。最初は蟻の行列?と思いましたが、よく見ると有刺鉄線を表しているようです。

近づくと、線は指紋で描かれていました。指紋の連なりが、こんなクールなアートになるなんて!と新鮮でした。これならインテリアやクラフトなど、身近なところに取り入れられそう...なんて言ったら失礼ですが、思いがけない発想に驚きました。

この他、もう一点「あなたの存在に対する形容詞」という映像作品がありました。透明なプラカードを持つ人たちが、桜咲く東京の町を練り歩いているところを延々撮影した40分の作品です。一見カルトな感じで不気味でしたが、無言のまま、何も書かれていないプラカードを持つ人々は何を表しているのでしょうか...。

日本では主張する、デモに参加するというのは少し勇気がいりますが、海外では市民の権利として認知され、わりとよく見る光景です。まずはアクションを起こしてみたら?というカントル氏からのメッセージのようにも受け取れました。


カラフルニットの巨大グモ

2018年04月26日 | アート

六本木ヒルズに映画を見に行ったら、ランドマークの巨大グモの彫刻がカラフルニットで覆われていました。

いつもは無骨な蜘蛛の彫刻が、カラフルな縞々ニットでおめかししています。そういえば、先日 Casa Brutusの記事を見たことを思い出しました。六本木ヒルズのオープン15周年を記念して開催されている、テキスタイルアーティスト マグダ・セイエグさんによるインスタレーションです。(~5月27日まで)

マグダ・セイエグさんのアートは、ヤード・ボミング(Yard bombing)とよばれています。セイエグさんは、ドアの取っ手を毛糸で覆ったことがきっかけで、消火栓、道路標識、バスなど、無機質な物体を毛糸で覆うアートをはじめ、世界にムーブメントを起こしました。セイエグさんのTED Talkがあったので、リンクしておきますね。

毛糸テロ(ヤード・ボミング)はどのように世界に広がったのか (TED)

編み物は得意ではなかったというセイエグさんですが、近くで見るとなんともいえない味わいがあって、手作りのぬくもりにほっとします。配色も独特のセンスがあってすてきですね。ジオメトリックなデザインに、数学専攻とうかがって納得し、親近感を覚えました。

巨大蜘蛛を取り囲む広場の柱もニットで覆われていました。こちらも色のバランスがすてきです。

***

ところで、そういえば日本にもヤード・ボミングがあったな~と思い出しました。

(ネットからお借りしました)

江ノ電江ノ島駅前の車止めのバーにあるスズメの飾りに、長年にわたって季節やイベント毎に毛糸の洋服を着せている方がいらっしゃいます。(詳細はコチラ) 私も江ノ島水族館に行った時に偶然見たことがあります。

日本にはもともとお地蔵さんによだれかけを着せる文化?がありますが、ヤード・ボミングに通じるところがあるかもしれませんね。


巡りゆく日々 サラ・ムーン写真展

2018年04月25日 | アート

シネスイッチで映画を見た後、すぐ近くのCHANEL NEXUS HALLで開催されている「D'un jour a l'autre 巡りゆく日々 サラ・ムーン写真展」を見に行きました。サラ・ムーンは大好きな写真家なので、楽しみにしていた展覧会です。

(本展には出品されていません)

私のサラ・ムーンとの出会いは1980年代。当時、サラがCacharelのAnais Anaisというフレグランスの広告を手掛けていて、そのクラシックでロマンティックな世界にひと目で惹かれ、たちまちお気に入りの写真家となりました。

その頃、(今は閉店して無い)プランタン銀座のギャラリーでサラの写真展があり、足を運んだことも懐かしい思い出です。プランタンは閉店する頃はふつうのファッションビルになってしまいましたが、80年代はフランス文化の発信基地のような役割を担っていたと記憶しています。

私は仕事でアメリカと関わり合うようになる前は、どちらかというとフランス志向が強かったので、当時のプランタンや東急文化村が運んでくる”パリの香り”が大好きでした。

サラ・ムーンといえばシャルル・ペローの「赤ずきん」の写真絵本にも衝撃を受けました。石畳の道、大きな車、忍び寄る男の影。サラが写真でつづる物語は、いわゆる”子どもの童話”ではありません。ミステリアスでイマジネーションを刺激し、どきどきしながら引き込まれたことを思い出します。

今も現役で写真や映像の世界で活躍しているサラ。近年はコスメティックのNARSのコレクションを手掛けたとのことですが、私は何も知らずにNARSのコスメを手に取ったことに(記事はコチラ)あとから不思議な巡り合わせを感じました。

  

そんなわけで出向いたサラ・ムーン展。本展は、サラ・ムーン自身が構成を手掛け、日本初公開の作品を中心に100点が展示されています。動物や風景の写真など幅広くありますが、私が惹かれるのはやはり女性を撮ったファッション写真です。

真っ白な展示空間は、サラによるリクエストだそうです。移ろいやすく不確かな、一瞬を切り取った作品の数々は、夢の中の風景のようでもあり、古い記憶が呼び覚まされる懐かしくも不思議な体験でした。

  


桜 さくら SAKURA 2018

2018年04月05日 | アート

都内の桜もほとんど散ってしまいましたが、今しばらく桜の話題におつき合いくださいませ。先週、山種美術館で開催中の「桜 さくら SAKURA 2018 美術館でお花見!」展(~5月6日まで)のギャラリートークに参加してきました。

近代日本画のコレクションで知られる山種美術館が、桜を描いた作品を厳選して公開する展覧会で、今回6年ぶりの開催とのことです。山種美術館は好きな作品が多く、こじんまりとした雰囲気の中、作品が身近に感じられるところが気に入っています。今回もいくつかの作品と再会するのを楽しみにしていました。

主な作品に解説がついていますが、美術館を開設した山崎種二氏が画家との交流の中で収集された作品なので、美術書とはひと味違い、体温が伝わってくるように感じられます。今回は学芸員の方のお話をうかがいながら、より興味深く作品を鑑賞することができました。

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上のフライヤーにある作品は、土田麦僊(つちだばくせん)の「大原女」(1915)。京都・大原ののどかな春の情景が屏風に描かれ、小鳥のさえずりが聞こえてくるような気がしました。大原女さんの足を線でさっと描いて動きを表現しているのは、セザンヌなどの近代西洋画の影響なのだそうです。

展覧会のスタートを飾るのは、東山魁夷の「春静」(1968)。京都・鷹ヶ峰の風景を描いた作品ですが、整然と立ち並ぶ杉の木?の中、満開の桜がひときわ美しく目を引きました。

小林古径が、安珍・清姫の道成寺伝説を8枚の絵巻物に仕立てた『清姫』の中の1枚「入相桜」(1930)です。安珍・清姫を埋葬した場所に植えられたという入相桜は、2人の魂を優しくなぐさめているように見えました。

奥村土牛の代表作「醍醐」(1972)。師である古径の7回忌の法要の帰りに立ち寄った、京都・醍醐寺三宝院のしだれ桜に極美を見出し、10年後に完成させたという作品です。

同じく土牛の「吉野」(1977)。連なる山々を花霞が覆い、夢のような風景です。

石田武「千鳥ヶ淵」(2005)。石田武はイラストレーターから日本画家に転向し、山種美術館賞を受賞して注目された画家だそうです。他に「月宵」「吉野」が展示されていましたが、どれもデザイン性があってすてきでした。本作は、さざ波の立つ薄緑色の水面と枝を伸ばした桜の花々、遠近の表現に引き込まれました。

第二展示室は夜桜のコーナーでした。こちらは千住博の「夜桜」(2000)。ほのかな月明りの下、桜の花々が空から降り注ぎ、幽玄な美しさが怖いほどでした。左下に金で描かれた細い月がちらりと見えます。

ゆっくり桜のアートを鑑賞したあとは、1階の”Cafe椿”でひと休み。企画展にちなんだ和菓子を楽しみました。5種類ある中、こちらは菱田春草の「桜下美人図」をモチーフに”うたげ”と名づけられたお菓子です。


世界一大きな額縁

2018年01月23日 | アート

昨日の雪で、東京区部は20cmほど積もりました。朝早く玄関を開けるとそこは雪国。車は通らず、しんと静まり返っていて、まるでSFの世界でした。やがて太陽が上りはじめると、今度は屋根から落ちる雪解け水の大合唱。時々ばさっと落ちる雪の塊がパーカッションのような合いの手を入れています。凍りつかないうちに全部溶けてくれ~と応援しています。

***

さて先日ネットのニュースを見ていて、今年1月1日アラブ首長国連邦のドバイに「ドバイフレーム」という新しい建造物ができたことを知りました。

高さ150m、幅93m。2本のタワーの間は”スカイデッキ”とよばれる展望室でつながり、下層階は”パヴィリオン”とよばれる博物館となっていて、その造形から”世界一大きな額縁”とよばれています。日本には借景とよばれる庭造りの文化がありますが、まるで額縁が風景を切り取っているように見えますね。

スカイデッキからは、南側にブルジュ・ハリファを含む高層ビル群の”新しい”ドバイ、北側に歴史地区の”古い”ドバイ、そしてスカイデッキの床にはガラスのパネルがあり、150m下が見渡せます。パヴィリオンでは、”過去”のドバイから”未来”のドバイ、歴史からテクノロジーまで紹介されているそうです。

公式サイトを見ると、建物の幅は93m、スカイデッキの面積は100平方メートルとありますから、建物の奥行は約1mでしょうか。以前ドバイが舞台のミッション・インポッシブルでものすごい砂嵐のシーンがありましたが、倒れないかしら?と心配になります。空洞を風が抜けるから、かえって安全なのかしら?

設計したのは、メキシコの建築家フェルナンド・ドニス。ドニス氏は2008年にドバイ市が主催する国際コンペで優勝しましたが、ドバイ市はドニス氏と契約をかわすことなく、勝手に変更を加えてプロジェクトを実行したとして、現在著作権をめぐる問題が起きているそうです。

【参考サイト】
Dubai Frame: Emirate's controversial mega structure opens (CNN.com)
都市を見下ろす巨大な額縁、新名所「ドバイフレーム」完成 (CNN.co.jp)
THE DUBAI FRAME (公式サイト)
Dubai Frame (Wikipedia)