goo blog サービス終了のお知らせ 

セレンディピティ ダイアリー

映画とアートの感想、食のあれこれ、旅とおでかけ。お探しの記事は、上の検索窓か、カテゴリーの各INDEXをご利用ください。

午後10時の殺意/砂上の法廷/アマチュア/グリース

2025年04月29日 | 映画

配信で見た映画3本と劇場で見た映画1本の感想をまとめてアップします。

午後10時の殺意 私は殺される! (Death Sentence, 1974)

1974年のサスペンス映画。「刑事コロンボ」と同じく、最初に犯人が明かされる倒叙形式で展開されますが、本作がテレビ向けに作られた作品と知って納得しました。この手法だと放送時間が短縮できますものね。

瞳さんにご紹介いただいて観ましたが、「陪審員2番」と似たテイストですごくおもしろかったです。物語は、ある殺人事件の陪審員に選ばれたスーザンが、裁判を傍聴していくうちに、自分の夫が犯人だと気づいてしまうという衝撃的な展開です。

不倫の末の殺人事件という背景に加え、夫の正体に気づいたスーザンの苦悩も深く描かれていて胸が痛みました。しかしそれ以上に、妻を愛していながら裏切られ、さらには殺人の容疑までかけられてしまった被害者の夫が気の毒でならなかったです。

砂上の法廷 (The Whole Truth, 2016)

キアヌ・リーブス主演の法廷サスペンス。「午後10時の殺意」を観た後、Amazonプライムのオススメに出てきて、何気なく見たのですが、これが思いがけない掘り出し物でした。

父親を殺した容疑で逮捕された高校生マイクの弁護を引き受けた弁護士リチャードが、事件の真相に迫ります。殺された父親ブーンやその妻ロレッタとも旧知の仲であるリチャードが、マイクを無罪に導こうと奮闘するなかで、思いがけない事実が明らかになります。

勘のいい人はすぐ真相に気がつくかもしれませんが、私はただ映画の展開に身を任せて見ていたので、最後までわからず、心地よくだまされました。マイク役は「ヒルビリー・エレジー」でヴァンスを演じたガブリエル・バッソ。本作での演技も印象的でした。

アマチュア (The Amateur, 2025)

ラミ・マリック主演の最新スパイ・サスペンス。ロンドンで起きた無差別テロで妻を亡くしたCIAの分析官チャーリーが、ド素人ながらもテロリストへの復讐に挑むというストーリーです。

予告を見て「これは絶対に私が好きな作品!」と確信して、久しぶりに映画館に足を運んだのですが、正直、期待ほどではなく、少し退屈してしまいました。

全体的にストーリーも映像も単調で、エンターテイメントとして物足りなさを感じました。もう少しビジュアルに華があれば、引き込まれたかもしれないと思うと残念です。

グリース (Grease, 1979)

オリビア・ニュートン・ジョンとジョン・トラボルタが主演した、1979年の青春ミュージカル。Amazonプライムのオススメに出てきて、軽い気持ちで観たのですが、すごく楽しかったです。

清楚なお嬢様サンディと、不良グループのリーダー、ダニーの凸凹カップルの恋模様が描かれます。ダニーの運動音痴ぶりに大笑い。一方サンディは、ダニーと仲直りしようとして、不良ファッションで卒業パーティに登場します。

John Travolta And Olivia Newton John - You're The One That I Want

お互いのために変わろうとする姿が愛おしくて、二人が歌う「You're The One That I Want」に不覚にも涙してしまいました。恋愛は、お互いに歩み寄ってこそ成り立つものだという当たり前のことにあらためて気づかされました。


僕らの世界が交わるまで/ありふれた教室/ドリーム・ホース 他

2025年04月26日 | 映画

配信で見た映画6本の感想をまとめてアップします。

僕らの世界が交わるまで(When You Finish Saving the World, 2022)

ジェシー・アイゼンバーグの監督デビュー作です。以前観た彼の監督作「リアル・ペイン 心の旅」がとても良かったので本作を鑑賞しましたが、こちらも期待通りにおもしろかったです。ジェシーの監督としての才能を再認識しました。

中二病的な息子ジギーの痛々しさはあるあるですが、それ以上に母親エヴリンの「意識高い系」な大人ならではの痛々しさが心に刺さりました。エヴリンの「善意」が、無意識に人を傷つけ、周囲とのすれ違いを生んでいく様子がシニカルでした。

人のためと思って自分の価値観を押し付けることは、年長者にありがちなので、私自身も気をつけなくてはと肝に銘じました。等身大の母親を演じるジュリアン・ムーアのリアルな演技も見事でした。

ありふれた教室(Das Lehrerzimmer / The Teachers' Lounge, 2023)

ドイツの中学校を舞台に、盗難事件をきっかけに校内の秩序が崩れていく様子を描いた心理劇です。「セプテンバー5」に出演していたレオニー・ベネシュがすばらしくて、彼女目当てで観ましたが、本作の彼女もとてもよかったです。

新任教師カーラの熱意と真面目さが、逆に彼女を追い詰めていく展開は胸が痛みました。人種的偏見やプライバシー、モラルなど、さまざまなテーマが交差し、勉強を教えるだけではない、学校という教育現場での対応の難しさについても考えさせられました。

ドリーム・ホース(Dream Horse, 2020)

実話をもとにしたハートウォーミングな作品。ウェールズの小さな町に暮らすジャン(トニ・コレット)が、地域住民と協力して競走馬を育て、ダービーでの勝利を目指す物語です。

同じく競走馬を題材にしたハリウッド映画の「シービスケット」とはまた違う、素朴で温かい雰囲気が魅力でした。登場人物たちの熱意や議論好きなキャラクターに、同じくウェールズが舞台の「パレードにようこそ(Pride)」を思い出しました。

かつて訪れたウェールズの雄大な自然の美しさも心に残りました。

マイ・オールド・アス 2人のワタシ(My Old Ass, 2024)

タイトルからコメディを想像していたら、思いがけず深くてさわやかな青春映画でした。幻覚キノコをきっかけに未来の自分が現れ、人生のアドバイスをしてくれるという、ちょっと風変わりな物語です。

カナダの田舎町の風景がとても美しく、森の中の湖や、クランベリーの収穫風景など、ニューイングランド地方にも似た印象を受けました。

私だったら若い頃の自分にどんなアドバイスをするだろうかと考えながら観ていましたが、結局アドバイスすることは何もないという結論に落ち着きました。なぜなら、失敗も成功も、すべてその後の自分にプラスになっていると信じているから。

強いていえば「歯を大切に」かな?と思ったら、映画のラストで未来の自分も同じことを言っていたのでおかしくなりました。

ナイトスイム(Night Swim, 2024)

ホラーが苦手な私ですが、本作は“ほどよい怖さ”がよかったです。亡霊の女の子がアジア系だったこともあり、日本のホラーを思わせる雰囲気もありました。「仄暗い水の底から」のハリウッドリメイク「ダーク・ウォーター」を思い出しました。

聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア(The Killing of a Sacred Deer, 2024)

ヨルゴス・ランティモス監督作品は、唯一「女王陛下のお気に入り」を見ているものの、少々苦手でこれまで避けていましたが、本作は気になっていたので思い切って鑑賞しました。でも結果的にはやはり相性が合わなかったです。

前半のサイコスリラー的な展開には惹き込まれたものの、後半の展開は理解に苦しむことばかり。正直つらさが勝ってしまいました。


オーダー

2025年04月06日 | 映画

ジュード・ロウとニコラス・ホルト共演による、実話に基づいたクライム・スリラーです。Amazon Prime独占配信。

オーダー (The Order) 2024

ジュード・ロウは過去に部下を危険にさらし、命を落とさせた苦い経験を持つFBI捜査官ハスクを、ニコラス・ホルトは白人至上主義カルト集団「The Order(ジ・オーダー)」のカリスマ的リーダー、マシューズを演じています。

物語の舞台は、一見のどかで平和なアメリカ北西部の田舎町。ハスクは心の傷を癒すためこの地に赴任しますが、そこには白人至上主義団体「Aryan Nations(エイリアン・ネイションズ)」が根を張っており、さらに町では連続強盗事件も発生していました。

ハスクが、現地の警察官ボウエン(タイ・シェリダン)と捜査を進めていく中で、強盗事件の背後に、Aryan Nationsから分離した過激派集団「The Order」の存在があることが明らかになります。

そして、The Orderのリーダーであるマシューズが、資金獲得と武装強化のために犯罪を重ね、ついにはユダヤ人のラジオ司会者アラン・バーグを暗殺するという凶行を起こします。

ニコラス・ホルトは、先日見た「陪審員2番」(Juror #2)に続いて、テロ組織のリーダーという難役に挑戦していました。繊細で静かな外見とは裏腹に、内に秘めた狂気とカリスマ性が伝わってくる演技は圧巻でした。

Aryan Nationsの集会で、突如として人々をひとつにまとめてしまうシーンには、鳥肌が立ちました。

一方、FBI捜査官としての責任感と自責の念に葛藤するハスクを演じるジュード・ロウもまた、感情の機微をていねいに表現していて、心を引き付けられました。

正義感から任務にのめり込むあまり、またしても部下を危険に巻き込んでしまうというドラマチックな展開に、胸を衝かれました。

これまで白人至上主義組織を扱った映画といえば、南部を舞台にした「プレイス・イン・ザ・ハート」や「ブラック・クランズマン」などが思い出されますが、本作は北西部が舞台ということに意表を突かれました。

比較的自由な思想の地域だと思っていたこの地にも、極右思想が根付いているという実態を知り、恐怖を感じました。

トランプ政権下の今のアメリカにも通じるテーマが描かれていて、見応えがありました。あまり知られていないのが惜しいですが、是非とも多くの方に見ていただきたい作品です。


陪審員2番

2025年03月29日 | 映画

クリント・イーストウッド監督、ニコラス・ホルト主演の重厚な法廷ドラマです。

陪審員2番 (Juror #2) 2024

日本でも人気の高いクリント・イーストウッド監督の最新作ですが、劇場公開はなく配信のみだったことに驚きました。約1か月前に鑑賞しましたが、当時はUNEXT限定配信だったため、トライアル登録して視聴しました。

近年のイーストウッド監督は、比較的肩の力を抜いた作品が多かった印象ですが、本作はコミカルな要素を排除し、骨太な法廷ドラマとして仕上げられています。人間の本質を問うテーマが描かれ、観終わった後も考えさせられる作品でした。

物語の主人公は、念願の子どもを迎えようとしているジャスティン(ニコラス・ホルト)。彼はある殺人事件の陪審員に選ばれます。しかし裁判が進むにつれ、「もしかすると自分こそが真犯人なのではないか」と疑念を抱くようになります。

というのも、事件当夜、彼はバーからの帰り道で車が何かにぶつかった感触を覚えていました。当時は何を轢いたのかわからなかったものの、後になって事件の発生日時や現場とぴったり一致することに気づきます。

過去に飲酒運転で逮捕歴があるジャスティンは、子どもの誕生を前に葛藤します。真実を告白すべきか、それとも黙っているべきか...。

裁判では、被告人が恋人と頻繁にトラブルを起こしていたこと、事件当夜にもバーで派手な口論をしていたことから、陪審員たちはほぼ全員が有罪と考えていました。ただひとり、ジャスティンを除いて。

彼は「もっと調べるべきだ」と主張し、無罪を主張します。しかし、なぜ彼はそうしたのでしょうか。もし有罪に投票すれば、自分が疑われることなく裁判は終わったはずです。それなのに、なぜ自らを追い詰めるような行動をとったのでしょうか。

私はこの場面で、自分ならどうするかと何度も考えました。決して聖人ではない私ですが、それでも「何もなかったことにして生き続ける」ことはできないだろうと思いました。いずれ自分自身に耐えられなくなり、精神的なバランスを崩してしまうかもしれません。

ジャスティンも同じだったのではないでしょうか。彼は、被告人が有罪になることで安心しようとしながらも、どこかで「自分の罪が明るみに出ること」を望んでいたのかもしれません。

この映画は、陪審員制度の在り方についても問いかけている、と私は思いました。作中の陪審員たちは真剣に議論していましたが、それでも「人間の良心に頼る制度」に限界があることを感じさせます。

日本でも、選挙などで「自分の考えを持たずに、声の大きい人に流される」場面が見られます。同じように、陪審員が十分な捜査ではなく「一般市民の主観」によって有罪を決めてしまうことには、危うさがあるのではないでしょうか。

本作は、そんな「正義のあり方」について考えさせる映画でした。


フライト・リスク

2025年03月22日 | 映画

メル・ギブソン監督、マーク・ウォールバーグ主演のアクション・スリラーです。

フライト・リスク (Flight Risk) 2025

本作は、映画館で見るのにまさにぴったりの作品! 前から5列目で鑑賞したこともあり、迫力と臨場感に思わず身体が動いてしまうほどで、スリリングな展開に大満足でした。

物語の登場人物はわずか3人。保安官補のハリス(ミシェル・ドッカリー)は、重要参考人ウィンストン(トファー・グレイス)をアラスカからニューヨークへ輸送する任務を担います。

まずはアンカレッジまで小型機で向かうのですが、その時のパイロットのダリル(マーク・ウォールバーグ)が実は黒幕に雇われた刺客だったという設定です。

逃げ場のないアラスカ上空、小型飛行機の中で繰り広げられる命がけの死闘と心理戦は見ごたえ抜群。飛行時間は上映時間とほぼ同じ90分、見ている私もまた極限状況の緊迫感を味わいました。

ハリスはダリルを拘束することに成功したものの、飛行機の操縦は未経験。自動操縦や無線指示を頼りにどうにか乗り越えようとしますが、何度も危険な状況に襲われます。

雪山に激突しそうになったり、雪の塊に突っ込んで機体が雪まみれになったり、スリリングな展開が続きます。また、ダリルはなぜかハリスの過去の過失を知っていて、心理的にも追い詰めようとするのです。

そんなダリルを演じるマーク・ウォールバーグは、髪を剃って禿げ頭にしているし、終盤では機体から放り出されるという、大スターらしからぬ散々な扱い。^^; メル・ギブソン監督とは過去作で何度か共演している間柄なので、彼のために一肌脱いだのかもしれません。

一方、どんな状況でも屈しない強さを見せるハリスを演じるミシェル・ドッカリーは、堂々とした佇まいがかっこよく、とても魅力的でした。

着陸が最も難しいと言われる飛行機操縦ですが、クライマックスでは燃料が尽きるという絶体絶命のピンチに襲われます。でもそれゆえに、着陸時に炎上の危険を回避することができたというのは、なかなかうまい設定でした。


ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ

2025年03月15日 | 映画

アメリカ・ニューイングランドにある名門寄宿学校を舞台に、それぞれ事情を抱え、クリスマス休暇を学校で過ごすことになった3人の物語。

ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ (The Holdovers) 2023

この作品、評判が良くて気になっていましたが、latifaさんから「セント・オブ・ウーマン」に似ていると聞き、絶対に私好みの作品に違いない!と確信して、観るのを楽しみにしていました。

実際に観てみると、両作品には多くの共通点がありました。どちらもニューイングランドの名門寄宿学校が舞台で、ひょんなことから家族ではなく変わり者の年配者と長い休暇を過ごすことになった生徒の物語。そして旅を通じて心を通わせていく展開も似ています。

とはいえ、「セント・オブ・ウーマン」では、何といってもアル・パチーノ演じる色男で遊び上手な主人公が魅力的。特に、若い美女を誘ってタンゴを踊る名場面は、忘れがたい強烈なインパクトを残しました。

それに比べると、本作の主人公は(失礼ながら)やぼったい中年の先生。艶やかなシーンもないのですが、観終えたあとに温かい余韻が残る、すてきな作品でした。特に、アンガスとハナム先生の関係が、最初と最後で大きく変わっていた点が印象的でした。

ニューイングランド地方が好きで、アメリカ東部の名門校や大学を舞台にした作品が好みということも、この映画を気に入った理由の一つかもしれません。(「グッド・ウィル・ハンティング」「モナリザ・スマイル」など)

この作品の中で、特に印象に残ったシーンが二つあります。

一つ目は、クリスマスパーティーで、アンガスがスノーグローブ(球形のガラスに入ったクリスマスの飾り)をじっと見つめる場面。幸せだった子ども時代を思い出しているのかな、と思いながら観ていたので、その後の展開に驚かされました。

二つ目は、ハナム先生がボストンで偶然、昔の知人と再会するシーン。彼の驚くべき過去が明らかになりますが、これをきっかけにアンガスとの距離がぐっと縮まったのです。

そして、この映画を観ていて、私がとても懐かしく感じたのは、学校のセクレタリーであるミス・クレインです。

アメリカに暮らしていた頃、どこに行っても必ずミス・クレインのような、気配りができて頼りになる女性がいました。息子の学校のことで相談に乗ってもらったり、ボランティアに誘ってくれたり、どれだけ助けられたことか。

その時の経験が、今の私に大きな影響を与えていることは間違いありません。

映画のストーリーとは直接関係はないのですが、アメリカの“よき隣人”としての生き方を改めて思い出させてくれる作品でした。


名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN

2025年03月08日 | 映画

小石川でのバースデーランチの後、池袋へ移動して鑑賞したのが本作。伝説的フォーク・シンガー、ボブ・ディランの伝記映画です。

名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN (A Complete Unknown) 2024

ボブ・ディランは私より少し上の世代の音楽ということもあり、実はあまりなじみがありませんでした。ただ、音楽を題材にした映画が好きなのと、ティモシー・シャラメとエル・ファニングが出演していることもあり、観てみたいと思いました。

1960年代のアメリカといえば、公民権運動、キューバ危機、ベトナム戦争など、社会が大きく揺れていた時代。若者の間ではヒッピー文化や平和運動が広がり、インドやスピリチュアルなものへの関心も高まっていました。

そんな背景の中で、フォーク・ソングの優しいメロディとメッセージ性の強い歌詞が、当時の若者たちの心をつかんでいたのではないか、と想像します。

そういえば、この時代に青春を過ごしたスティーヴ・ジョブズもボブ・ディランに心酔し、インドを旅したというエピソードを思い出しました。

物語は、ニューヨークを訪れた若きボブ・ディランが、フォーク界の大御所たちに才能を認められ、一気にスターダムへと駆け上がるも、自分のやりたい音楽と求められる音楽との狭間で葛藤するというもの。

クライマックスは、ニューポート・フォーク・フェスティバルでの伝説的なパフォーマンス。ボブは、アコースティックギターではなくエレキギターを手にし、ロックを演奏したことで観客から大ブーイングを浴びます。

しかし、それは彼が新たな音楽の道を歩み始めた瞬間でもありました。

フォーク・シンガーにはあまり詳しくないのですが、伝記映画「ウォーク・ザ・ライン」で描かれている伝説のアーティスト、ジョニー・キャッシュが登場していたのがうれしかったです。

本作は、ボブの音楽活動だけでなく、ロマンスも交えた青春映画でもあります。ボブの恋人・シルヴィを演じたのは、私の大好きなエル・ファニング。彼女が演じたシルヴィは、実際の恋人スーズ・ロトロをモデルにしているそうです。

ティモシー・シャラメとエル・ファニングといえば、ウディ・アレン監督の『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』でも恋人同士の役で共演していたことを思い出します。(この映画も大好きです!)

また、本作を通じて初めてジョーン・バエズというアーティストを知りましたが、その歌声と表現力にすっかり魅了されました。演じたモニカ・バルバロもとても魅力的。

特にニューポート・フォーク・フェスティバルでのボブとジョーンの掛け合いは、息がぴったり合っていて、アーティストとしてのお互いへの深い尊敬が伝わってきました。

それだけに、恋人のシルヴィがその場面を目の当たりにするのは、どれほどつらかっただろうと想像し、胸が締め付けられました。


セプテンバー5

2025年02月24日 | 映画

1972年ミュンヘンオリンピック襲撃事件を、現地で独占報道を行ったABCのスポーツ班の視点から描いた、臨場感あふれる作品です。

セプテンバー5 (September 5) 2024

1972年9月5日、ミュンヘンオリンピック開催中に、パレスチナ武装組織「黒い九月」がイスラエル選手団を襲撃するという衝撃的な事件が発生しました。オリンピックという平和の祭典の場が、一転して恐怖と悲劇に包まれた瞬間でした。

私自身、この事件についてはスティーヴン・スピルバーグ監督の映画『ミュンヘン』を観て知りました。事件当時の私はまだ幼く、何が起こったのか理解することはできなかったのでしょう。

『ミュンヘン』は、事件そのものではなく、その後のイスラエル側の報復作戦を描いた作品ですが、私にとってスピルバーグ監督のベスト3に入る衝撃作でした。

本作『セプテンバー5』は、ミュンヘン事件そのものを描いていますが、実際の銃撃戦や射殺シーンはありません。代わりに、現場にいたABCのテレビクルーの奮闘を通して事件が進行していくという斬新な手法が取られています。

約90分という比較的短い上映時間ながら、圧倒的な緊迫感が持続し、見終えた後には重い余韻が残りました。

1964年の東京オリンピックが日本の敗戦からの復興の象徴であったように、1972年のミュンヘンオリンピックもまた、ドイツの戦後復興を意味していました。

そのため、ドイツ国内で開催されたオリンピックで、イスラエル選手団を標的としたテロが発生したことは、国際社会に大きな衝撃を与えました。

当時、アメリカではABCがミュンヘンオリンピックの独占中継を行っており、事件発生時も現場にいたのはスポーツ班のクルーでした。

報道班ではなくスポーツ班がこの事件を中継する決断を下し、独占中継権がCBSに移る時間になった際には、ABCのロゴをCBSの映像に重ねて放送を続けました。

また、プレスが事件現場となった選手村から締め出された際、あるスタッフがIDを偽装して選手として潜入し、内部の様子を伝え続けました。

一方、この事件では、ABCの中継映像がパレスチナ武装組織によって視聴されていたことが問題となりました。警察の動きがリアルタイムでテログループに筒抜けとなり、結果的に救出作戦の失敗につながったのです。

映画の中で、私にとって特に印象的だったのは、ドイツ人女性スタッフのマリアンヌの存在です。彼女はドイツ語を理解できるため、現地の情報にいち早くアクセスすることができました。

彼女はドイツ人という個人的な立場を超えて、人質の全員救出を願い、また正確な情報を世界に発信することを使命として任務にあたっていました。

しかし、人質が全員射殺されたことを知ったとき、「ドイツが判断を誤った。ドイツのミスです。」と痛恨の表情で語った姿が、ひときわ心に残りました。


リアル・ペイン 心の旅

2025年02月21日 | 映画

ソーシャル・ネットワーク」のジェシー・アイゼンバーグが監督したヒューマンドラマです。

リアル・ペイン 心の旅 (A Real Pain) 2024

先週、夫から「夜に飲み会が入った」と連絡があったので、「久しぶりにひとりで映画でも見に行こうかな」と、仕事帰りに映画館に寄り道しました。

夜の渋谷、スクランブル交差点はまさにカオスな賑わい。半ば後悔しつつ、映画館シネクイントの入っているパルコへと向かいましたが、その頃には人もだいぶバラけていて、ほっと一安心。

この日観たのは、公開時から気になっていて「観に行きたい」と思っていた表題の作品です。

『ソーシャル・ネットワーク』は15年前の作品ですが、当時観たときはスピード感のある展開と、アイゼンバーグのマシンガントークに圧倒され、一種のハイ状態に。興奮が2週間ほど冷めなかったという、忘れがたい体験をしました。

そんなアイゼンバーグがどんな作品を作ったのか、気になっていました。監督デビュー作『僕らの世界が交わるまで』(When You Finish Saving the World)は知らずに見逃してしまったのが悔やまれます。

意外な組み合わせですが、本作も前作『僕らの~』もエマ・ストーンが製作に参加しているそう。これはやはり、『ゾンビランド』での共演がきっかけでしょうか。エマ・ストーン、よく分かってるな~と、そのこともうれしくなりました。

さて、本作は、ニューヨークに住むユダヤ系のデヴィッド(アイゼンバーグ)と、従兄弟のベンジー(キーラン・カルキン)が、亡くなった祖母の祖国であるポーランドを訪ねるツアーに参加する物語。

冒頭からデヴィッドのマシンガントークに、「この人大丈夫?」と思ってしまうのですが、実は彼は社会ときちんと折り合いをつけて生活している常識人。一方のベンジーは、周囲の空気を読まず、自分の主張を決して曲げない不器用な人間です。

ベンジーは行く先々でツアーの集団行動(といっても8人ほど)を乱す発言や行動をしますが、結果的には彼の自由奔放な言動が人々を楽しませ、魅了し、考えるきっかけを与えていきます。

そんなベンジーを誰よりも気にかけているデヴィッド。しかし彼は、ベンジーに対して「誰よりも大好きで、誰よりも大嫌い」という、相反する感情を抱いています。その気持ちに、私はとても共感しました。

私自身、どちらかというとデヴィッド側の人間なので、ベンジーのような人をうらやましく思う反面、「できればあまり関わりたくないな...」と感じる部分もあるのです。

映画がポーランドを舞台にしていることもあり、ショパンの音楽が多くの場面で使われていたのがうれしかった。ただ、ひとつ欲を言えば... 私はショパンが好きすぎるあまり、音楽のほうに気を取られてしまった部分もあったかもしれません。^^

派手な作品ではないですが、私はこういう繊細な作品が大好きです。


アプレンティス ドナルド・トランプの創り方

2025年02月11日 | 映画

現アメリカ大統領ドナルド・トランプ氏の成功までの道のりを描いた作品です。

アプレンティス ドナルド・トランプの創り方 (The Apprentice) 2024

タイトルの「アプレンティス」には「見習い」という意味がありますが、これはトランプ氏がかつてレギュラー出演していた人気バラエティ番組「The Apprentice」に由来しています。

私はこの番組を見ていませんでしたが、当時トランプ氏が番組内で採用した社員に「お前はクビだ!」(You are fired!) と言って解雇するのが流行語のようになり、日本でも話題になっていた記憶があります。

映画の舞台は80~90年代のニューヨーク。当時のアメリカは景気が良く、まさにイケイケの時代。トランプ氏が着こなす上質なスーツや、当時流行した太めのネクタイといったファッションがとても懐かしく感じられました。

また、日本もバブル真っ盛りで、企業の時価総額ランキングを日本企業が席巻していた時代。ニューヨークを象徴するロックフェラーセンターを日本企業が買収したことも話題になりました。

そのため、映画には日本人のキャラクターもちらほら登場し、当時の音楽やカルチャーもふんだんに盛り込まれていました。懐古趣味も手伝って、個人的にはとても楽しめました。

肝心のトランプ氏の自伝としては、本作の内容に正直それほど驚きはありませんでした。というのも、だいたい知っている通り、想像していた通りのストーリーだったからです。

おそらく映画にできない「闇の部分」も数えきれないほどあるのでしょうが、それらにはほとんど触れず、チェイニー副大統領を描いた映画「バイス」(Vice) のような毒もありませんでした。

やはりトランプ氏が政界から引退し、完全に影響力を失った後でないと、より踏み込んだ映画を作るのは難しいのかもしれません。

人格的にはいろいろ問題があるものの、今のアメリカではこういうパワフルなリーダーが求められているのだろうな、ということが改めて分かりました。

私自身、決して好きなタイプではありませんが、すごいと思うのは彼がたばこも、お酒も、ドラッグも一切やらないこと。

はちゃめちゃな言動が多い一方で、芯がしっかりしているからこそ、ここまでの成功を収めたのかもしれませんね。