しましましっぽ

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「検察側の罪人」  雫井脩介 

2014年05月31日 | 読書
「検察側の罪人」  雫井脩介   文藝春秋     

東京地検刑事部のベテラン検事、最上毅はある殺人事件の資料の中に気になる名前を見つける。
その事件は『蒲田の老夫婦刺殺事件』。
競馬好きの夫が仲間に金を貸していて、その借用書の中にあった「松倉重生」と言う名前。
それはすでに時効になってしまったが、23年前に起きた殺人事件の重要参考人だった。
最上が学生時代に世話になった、北豊寮の管理人・久住夫妻の一人娘で中学2年だった由季が殺された事件。
松倉が犯人の線は濃かったが、本人は否認を続け逮捕には至らなかった。
最上は、蒲田の事件も松倉犯人説を取り、担当を部下の沖野啓一郎にする。
警察の取り調べの中で、松倉は23年前の事件を認めるが、蒲田の事件は否認する。
松倉が犯人で合って欲しい最上は、沖野にプレッシャーを掛ける。
沖野は松倉犯人説に疑問を感じ始めた頃、別の犯人説が浮上する。







一見こんな事は無さそうだが、そうは言いきれない程心理を丁寧に書いた物語。
それがタイトルにも表れているのかも知れない。
堂々と検察側に罪があると。
この物語を、沖野だけの側から書いていたらまた違った感じになりそうだが。
最上の行動が、突拍子もなく思えて、有り得ないと思ってしまうか。
書き方によっては、どんでん返しで驚くか。
これはそんな謎解きではなく、人間に気持ちを丁寧に書いたドラマ。
正義とはなにか。
正しいと言う字が入っているが、正しい答えは見つけ出せない。
その人によって違うし、立場によっても違う。
世の中、答えのない問題はたくさん存在する。
沖野の心の葛藤が1番心に響き、痛い。
自分でもどうすればいいのか分からなくなり、壊れてしまいそうなほど。
それに反比例するように、穏やかにすべてを達観した感じの最上の姿が対照的。
自分の思い通りに、事を進めた為なのか。
しかし、もし誰か1人を殺すならばそれは松倉ではなかったのか。
本来の事件は法の手に委ね、法の手が届かない者に手を下す方が全うな気がする。
結局、目的を果たせなかった事を思うと、余計そう思う。
そして、それならば沖野をこれほど苦しめることはなかった。
その渦中の時にいたら、そんな風には考えが及ばないのかも知れないが。
殺人事件に時効はいらない。

やはり雫井さんには、恋愛物ではなくこういうサスペンス物を書いて欲しい。
ぞわぞわする感覚が戻って来た。
「検証捜査」と同時に読んでいて、似たような物語だと思っていた。
冤罪ということ。
「検証捜査」は、それはないと思ったが、こちらの方が納得出来る。
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