アメリカの金融専門紙BarronsにWhat can older clients do if they haven't saved enough for retirement?「老齢の顧客が退職に備えて十分な貯蓄を持っていなければ彼らに何ができるか?」という記事が出ていた。
記事は数名のファイナンシャル・アドバイザーのアドバイスを列挙しているが、ざっと読んで私が一番印象に残ったのは次の一言だった。
あるアドバイザーはこう述べていた。
「私は持って回った言い方はしない。私は顧客が真実を知りそれに基づく意思決定ができることを評価すると考えている」
つまり顧客の家計の状況をつまびらかにし、このままの暮らしを続けていくことが可能かどうかを明確に示し、不可能な場合はどうすれば良いかというプランを示し、できるだけ早く顧客に方針決定させるのがファイナンシャル・アドバイザーの役割という訳だ。
複数のファイナンシャル・アドバイザーの意見には共通点がある。
第一に「支出からスタートする」という点だ。家計の支出の中で一番大きなものは住宅に関連している。つまり大きな家に住んでいるとガーデニング費用だとか不測の屋根の修理費だとか支出がかさむ。アメリカの場合顕著なのだが、住んでいる地域により住民税が随分違うことがある。だから多くのアドバイザーは退職後家計の支出が収入(年金+金融資産の計画的な取り崩し)を上回る場合、まず自宅のダウンサイジングを含む住み替えを提案するようだ。
次に別荘など売却可能な資産を洗い出し、使わない資産を売却することを薦める。
第三は生命保険や子どもへの支援の見直しだ。私の昔の知識は、アメリカでは学校を卒業した子どもはサッサと職に就き親元を離れて暮らすというものだったが、今は相当変わっていて就職しもて親と同居している子どもが増えているという。親のすねをかじっている子どもも増えているようだ。ファイナンシャル・アドバイザーは、自分の老後のことを考えるのが第一だと述べている。
第四は老後資金の不足をカバーするには65歳を超えて68歳位まで働くことを考えてはどうかというアドバイスもある。またリバースモーゲージの活用を提案するアドバイザーもいる。
金融と不動産市場が発達しているアメリカの退職者は日本より選択肢が多い。引っ越しを厭わない気風も住み替えや自宅のダウンサイジングの選択肢を増やしている。
選択肢が多いのでお金持ちでなくてもファイナンシャル・アドバイザーを使う人は多いようだ。
私自身は個人の方のファイナンシャル・アドバイザーを行っている訳ではないので詳しいことは分からないが、一般の退職者の中で自分でお金を払ってFPからアドバイスを受けている人はほとんどいないだろうと考えている。
証券会社・銀行・不動産会社が行う無料の相談などを利用する人は多いと思うが。
だが無料相談には二つの問題があると私は考えている。
一つは自分が属するあるいはスポンサーになっている企業のプロダクツに誘導する可能性が高いということだ。
二つ目は相談者の全体的な家計収支や資産負債バランスあるいは家族間の問題まで踏み込んだ上でもアドバイスが行えないという点だ。
相談者側も一元のFPに洗いざらい話をすることに抵抗があるだろうし、FP
側も包括的なアドバイスに慣れていないという問題もある。
側も包括的なアドバイスに慣れていないという問題もある。
だが本当に自分の老後資金に不安がある場合は、アメリカのファイナンシャル・アドバイザーが述べているように「率直な物言い」で生活設計を見直すようなアドバイスを受けることが望ましいのだろう。
興味深いことはこの記事の中に資産運用の話が出てこなかったことだ。つまり退職年齢に入ってからの資産運用はあまり役に立たないし、役に立たないものを期待することは生活設計を誤らせるということなのだろう。