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最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

デフレは日本経済停滞の原因ではなく、停滞の兆候だ~WSJの記事から

2024年03月01日 | ライフプランニングファイル
 今日(3月1日)のWSJではインフレに関する記事が目立った。昨日米商務省が発表した個人消費支出物価指数PCEが前年同月比2.4%と約3年ぶりの低水準となったことで、連銀が6月には政策金利引き下げに動くのでなないか、という期待が広がった。
 日本では今週総務省が1月の物価上昇率を発表した。1月のインフレ率は2.2%で22カ月連続で2%越えとなった。誰が見てもデフレの時代は終わったと思うのだが、日本では識者といわれる人の中に寝ぼけたことをいう人がいるようだ。
 WSJはJapan is back. Is inflation the reason?という記事で日本のデフレ脱却問題を論じていた。
 その論点の大きなポイントは「デフレは日本経済が停滞した原因ではなく、むしろ経済が停滞したからデフレになったという停滞の兆候ではないか?」という主張だ。
 もしこの見方が正しいのであれば、経済を活性化するためにデフレ対策を行うというのは、「対症療法」に過ぎず、本来は経済停滞の原因を取り除く「原因療法」が必要だったという話につながる。このあたりを念頭に置きながら記事を読んでみた。
ポイントは次のとおりだ。
  • 消費者はデフレが悪いものだと聞いてしばしば驚く。米国では2021年以降物価は急激に上昇している。普通の人々そしてエコノミストでさえ、少々物価が下落しても反対はしないだろう。
  • 問題は物価が継続的に下落し続けることだ。こうなると債務者は借金の返済が苦しくなり、消費を抑制し、さらには債務不履行に陥り、金融システムを危機に陥れる。1929年に起きた大恐慌では4年間物価は27%下落し、まさにこのようなことが起きた。
  • 理論的にはマイルドなデフレでも経済成長を阻害する。日本のデフレは不動産と株のバブルが崩壊した1990年代初頭に始まり、バブル崩壊で損失を被った銀行は融資能力を奪われていった。
  • 後に連銀議長となるバーナンキ氏を含む西側エコノミストは日本経済を健全にするためにはデフレからの救済が必須だと主張した。日銀は最終的には全面的にこの主張に同意した。短期金利のゼロ金利化そしてマイナス金利化、日銀による長短国債の購入そして最後はETFを通じた企業株式の購入だ。
  • しかし日銀ができたことは物価上昇率をゼロ近辺にまで押し戻すことに過ぎなかった。インフレ率が2%に達したのはコロナウイルス感染拡大後の世界的なサプライチェーンの混乱によるところが大きい。
  • 日本の問題の背景にデフレがあったことを証明することは気が狂うほど難しい。デフレは原因というより症状だったのだ。
  • 日本の問題は、1990年代に働く世代の人口の伸びがマイナスになったことや、製造業が製造拠点を低賃金国にシフトしたことあるいは金融危機などにより物価、賃金、経済成長に構造的な下方圧力がかかったことにある。
ここで記事は「(マイルドな)デフレがそれほど有害だとすればその証拠はどこにあるのだろうか」という疑問を提起し、それに次のような回答を述べている。
「デフレ下の日本では、物価や賃金の相対的変化が起き難く、生産性とダイナミズムが失われた」
そして「おそらくインフレはビジネスと投資の世界でアニマルスピリッツを復活させるこもしれない」と続け、最後に「日本はデフレとの戦いに勝利したかもしれないが、一般の日本人はまだ平和の配当を目にしていない」と結んでいる。
 私のコメントを付け加えると、大企業等賃上げ余力のある企業に勤める人にとっては、デフレ脱却はプラス効果が大きいが、収入がインフレ率にスライドしない人にとっては、デフレ脱却の配当を手にすることは困難である。特に年金生活者の場合、年金の引き上げ率は物価上昇率以下なので年金だけに頼っていると生活は苦しくなる。そこで知恵や工夫が必要になる。
インフレ時代は多くの消費者が知恵をひねることを求められる時代なのだろう。

 
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