会社は利益を貯めこむ一方、個人は給料が伸びず貧しくなるというのは日本の絵姿かと思っていたら、アメリカも同じだった。いやアメリカの方がその度合いは大きいだろう。
連銀のバーナンキ議長は先週の議会証言の中で「良好な企業のバランスシートは暗い見通しの中で数少ない明るいスポットである」と述べている。実際S&P500の企業は98年には2千億ドルの現金を持っていたが、昨年12月末には3倍の6千億ドルの現金を持っている。
また借入金が減っているためキャッシュ・レシオが向上している。キャッシュ・レシオとは(現金+市場性有価証券)を流動債務で割ったものだが、この比率が中央値で見た場合、1998年から2004年の間で3倍になっている。(S&P500の企業について)
企業が現金を積み上げている理由を専門家は、世界で不確実性が増し、ビジネスリスクが高くなったので、企業は手持ち現金を増やす行動に出ていると分析している。
企業が不確実性に晒されるのと同じく、個人も不確実性に晒されているのだが、こちらはリスクをカバーする現金が乏しくもろにリスクをかぶっているというのが米国の構図だ。より正確にいうとアメリカの個人にとって「住宅の資産価値がリスクに対するバッファー」だった。つまり住宅価値が上昇している限り、短期的に失業しても大きな病気になっても不動産担保ローンを使うことで凌ぐことが出来た。ところが現在のように住宅価値の下落が続くと、不動産担保ローンの借り増しや自宅を売却してキャピタル・ゲインを得ることが困難になる。つまり多くのアメリカ人はバッファーを失っている。
このようなことが起きた一つの要因は、中間所得層が減ったことにあると私は見ている。企業は人件費削減のために正社員を減らし、パートタイムを増やした。企業は経費削減し、将来の不確実性というリスクに備えて現金を積み上げた。しかし正社員が減ったことは中間所得層は減少したことを意味する。その結果まともな住宅ローンを組んで自宅を購入する層が減少し、サブプライムローンを借りないと住宅が買えない層が増えたのである。そして今サブプライムローンの破綻が起き、回りまわって企業業績にも悪影響を与え始めている。
企業のリスク回避行動が結局はリスク発生につながったということである。これは対岸の火事ではなく、規模こそ違え近々日本でも発せすることであると考えておいた方が良いだろう。